表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/31

8 令嬢、全てを知る

 あの些細な嫌がらせ程度の復讐からしばらくがたった。


 アデライードは、店の経営と自身の生活を上手く両立し、庶民の生活にも大分慣れてきたようだ。


 以前は、真っ赤な艶々の髪の毛を巻きハーフアップにしていたが、現在は三つ編みにして一つに束ねて肩に下ろしている。


 また、気を抜かない化粧も彼女の特徴ではあったが、全く化粧をしなくなった。


 そして何よりもその瞳に宿る意志。令嬢時代から鋭い眼光であったが、現在はただ鋭いだけではない。しっかりと己の信念が刻まれていた。


 彼女の宝石のような美しい瞳は、彼女の成長を物語っていた。


 そんな彼女。今日は店番の合間を縫い、村の診療所へと来た。


「ジークレイン、スピネル、調子はどうかしら?」


診療所へと入るなり、一つの病室へと入った。そこには、ベッドで寝込むスピネルと、その横の椅子に腰かけるジークレインがいた。 


「やあ、アデライード。昼食を届けてくれたのかい?助かるよ」


「今日はタコスっていう料理よ。聞いたことのない料理だろうけど、美味しいのよ。……まだ、スピネルの意識は戻らないのね」


アデライードは、ベッドで眠るスピネルを見つめる。


 あれから王国から脱出したのは良いのだが、村へと向かう馬車の中で、スピネルは力尽きたと言わんばかりに意識を失ったのだ。


「おかしいわ……。あんなに強いスピネルが、人間にやられてしまうなんて」


彼の戦闘力は神の如き美しさで、そして何よりも恐ろしかった。


 これが、魔族の力かと圧倒されてしまったほどだ。


 ジークレインは、タコスを美味しそうにかじる。一口が非常に大きい。


「人間には難しい。そう言いたいんだろう?」


「ええ。ジークレインはどう思う?」


アデライードは、ジークレインの隣に椅子を置くと腰かけた。ジークレインは、緊張気味に話し出す。


「俺もそう思う。おそらく、魔族の間で伝わる猛毒を塗ったくった剣で刺されたんだ。魔族は、人間の作る毒では簡単に死なない。ましてや、スピネルは毒の耐性も強い方なんだ」


「彼、毒の耐性が強いの?」


ジークレインはタコスを食べ終え、アデライードの持ってきたカゴの中を見てみる。どうやら美味しかったようだ。カゴには、タコスがもう一つあった。


「……ああ、本当はスピネルにも持ってきたんだけど、意識がないし仕方ないわ。良かったら食べて」


ジークレインはタコスを口にしながら、スピネルを見る。


「アデライードがその毒付きの剣で切られていたら即死だった。人間には、そんな強い毒を作る技術はまだない。間違いなく魔族の伝統の毒だ」


その言葉にアデライードは、背筋を凍らせた。私なら、間違いなく死んでいたのか。


 ジークレインは、そんなアデライードを心配そうに見る。


 しばらくして、アデライードの頭の中から一つの疑念が出てきた。


「じ、じゃあ、……魔族の人で協力者がいるっていうこと?」


ジークレインは、その言葉にひどく反応した。


「……それしか考えられないな」


そんな……。人間は魔族の国を滅ぼし、追い詰めた。それなのに、魔族の中で人間に協力する者がいるだと?


「アデライード、今から言うことは誰にも言わないでくれ」


「ええ、約束するわ」


ジークレインは、息を飲む。


「……おかしいとは思わないか?なぜ、魔力と頭脳、戦闘力まで兼ね備えた魔族が人間に敗れたのか」


「私もそれは疑問だったわ。……人間の私が言うのもアレなんだけども」


「俺は、魔族の中で裏切り者がいたんだと思う。今回の出来事で確定したよ」


アデライードは、首をかしげた。


「皆には言わなくていいの?裏切り者を探すべきよ」


ジークレインは、首を横に振った。その表情は、どこか気まずそうであった。


「今は村の皆を混乱させたくない。必要になったら言えばいいさ」


「……魔族の中に裏切り者だと?……それは冗談か?ジークレイン様」


「「スピネル!」」


スピネルの意識が戻った。彼は額を汗だくにしていた。かなりの高熱だったのだろう。


「と、とにかくスピネルもアデライードも秘密だぞ?」


「ジークレイン様。……俺にはもう一つ疑問がある。なぜ、こんな人間の小娘がこの村に追放されて来たのか。そこは、どう説明する?」


確かに。アデライードも、今やっとそう思った。今まで、復讐心に支配されていて気にしていなかったのだ。


「そこは考え中。確かに追放された魔族の村に、可愛らしい娘を送って来たのか。そこは全く検討がつかない。……はあ、父のようにもう少し賢かったらなぁ」


「アデライード」


そこで、スピネルは話題を変えるかのように呼んだ。


「な、何よ」


スピネルは恥ずかしそうに小声で呟く。


「……お、お腹空いた……。俺にも何か作って……」


「フフ、素直ね。いいわよ、何か作って持って来るわ」


スピネルは、自分の立てた作戦のせいで負傷した。ならば、お詫びとしても彼に何かをしてあげたい。アデライードは、病室を後にした。


 しかし、スピネルに食事を作ったことで大変な事態を招くことになる。アデライードは、そんなことも知らずに自宅兼店舗の厨房で腕を振るうのであった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ