5 令嬢、復活
強く打ち付ける雨の中、びしょ濡れで先程まで王子がいたところに座り込むアデライードをジークレインは、そっと抱きしめた。
「アデライード……。つらいな、きっとつらいだろう」
「ううっ、ぐっ」
アデライードの目からは涙が溢れていた。アデライードは、抱きしめてくれているジークレインの手にそっと触れた。
「ねぇ、取引よ……。貴方のお父様は……国王に殺されたのでしょう?……全て聞いていたわ。仇を討ちたいでしょう?」
そのアデライードの言葉に彼はひどく反応した。アデライードは、鼻で笑う。
「って、言いたいところだけど困惑しているわ……」
ジークレインは、自分の着ているジャケットをアデライードへ羽織らせる。
「……近くに酒場がある。そこで話し合おう」
「いらっしゃい。ジークレイン様と新入りのお嬢さんか。まあ、楽しんでくれ」
店主はそう言い、アデライードとジークレインのテーブル席に酒を出した。
アデライードは、二十歳。ジークレインは、二十五歳。酒は飲める時期であった。
「……俺の子どもの頃の話だ」
彼は、自分の過去の話をした。
この世界には、大きく分けて人間族と魔族が存在する。
魔族は、魔術が使え、ほとんどが鋭い角を持ち、当日産まれて間もなかったジークレインにも立派な角があった。
父は、代々魔族を取り仕切る魔王。母は、代々魔王の右腕として活躍してきた騎士の一人娘であった。
ある日、魔王は人間の王国を自分の領地にしようと攻めた。しかし、人間の卑怯さ、賢さから破れてしまう。
結果、父である魔王の首は国王の城の前に晒され、父の治めていた魔族の国は人間の手により崩壊。
路頭に迷った多くの魔族達は、奴隷になる者、追放をくらう者、理不尽に殺される者、様々であった。
また、魔族達は魔族の誇りとも言われる角をもぎ取られた。角は商人へと売られていった。
「俺も殺されるはずだったが、母様が牢屋から逃がしてくれたんだ。自分の命を犠牲にして」
「そんな……酷いわ」
ジークレインは、過去を忘れたいのか酒を口にした。
「俺は、追放で生き残った魔族を連れてここに村をつくった。……これは、後から知ったんだが、父様は、人間の国の奴隷制度が気に入らなかったらしい……」
「だから、王国を自分の領地にし、奴隷を解放して平等な国をつくろうとしたのね」
「ああ。父様は、平等と平和を誰よりも愛していたから……」
ここの村民は、魔族。まだ、アデライードが産まれる前の出来事なのであろう。
歴史に興味がなくて、全く勉強していなかった為、そんなことがあったなんて知らなかった。
「アデライード、君は王子に復讐をしたいのか?……もしまだ、愛しているのなら無理に復讐の刃を向ける必要はない」
「なっ!?わ、私はアイツなんか愛してなんかっ!」
ジークレインは、クスクスと僅かに笑みを浮かべた。
「あの王子の言葉で心が揺らいでいるだろ?」
アデライードは、酒を一気に飲み干してため息をつく。
「もし、王子に復讐するならば俺と村民は協力する。俺達は侮辱してくる王子と、国王に復讐したいからな。どうだ?アデライード」
しばらく黙り込むと、やがてアデライードは、態度でかく足を組み、腕を組む。
そして鋭い眼光を、ジークレインへと向けた。その目には、「復讐する」という感情が宿っていた。
何を迷っていたのであろう。あの日、決めたではないか。臆病王子とぶりっこヒロインに復讐をしてやると!
「決まりね。臆病王子とぶりっこヒロインを苦しめてやりましょう?」
今まで気が付かなかったが、酒場には村人全員がいたようだ。皆は、「オオオッ!」と威勢良く咆哮を上げた。
「で、早速だけど、明日、王子とヒロインにちょっとした嫌がらせをしたいの。今日のお返しとしてね。……皆、協力してくれるかしら?」
「もちろんよ!アデライード!」
「俺達にもできることがあるならば、是非とも言ってくれ!」
アデライードは、黒い不気味な笑みを浮かべた。
「……作戦は、こうよ!」
果たしてアデライードの作戦とは?そして、王子とヒロインを苦しめることは、できるのであろうか!?