3 令嬢、店の宣伝をする
アデライードは、雑貨屋さんで購入した強力粉、イースト、ショートニング、塩、砂糖をキッチンへと置いた。
「……しまった。時計必要だったわね」
窓から空を見るかぎり、おそらく夜。子供は寝る時間帯だ。
「よし、作るか」
今夜は寝ないでパンを焼く!明日、村民の皆に食べてもらおう!
アデライードは、エプロンとバンダナを着用した。雑貨屋さんで買った服にセットでついていたものだ。
ボウルの中に強力粉、塩、砂糖、イースト、そして水をいれるとこねだした。
「バターやショートニングは油脂があるから、後からいれるわよ」
水を巧みに調整し、バターとショートニングも加えて生地をこねた。
「次は発酵。しっかり休んでね、生地ちゃん」
何だか愛着のわいた生地を発酵させる。
しばらくして、発酵が完了。しっかり必要な分休ませた。
生地を分割していき、型へといれていく。
「また発酵させなきゃね」
また発酵させる。
いよいよ山場。焼き加減はパンの命だ。
「フゥ、いい感じ。流石は私ね!」
パンがしぼむのを防ぐために、パンを叩きつけてあげる。
そして、明日、試食をしてもらう為に可愛くラッピングをして完成!
「パンの王道、食パンの完成よ!」
ここから、サンドウィッチにもできるしフレンチトースト、ハニートーストにもできる。
アデライードにとって食パンは、パンの王様であった。アデライードは、焼きたてホヤホヤの食パンを一口食べた。
「う~ん!美味しい!」
こうしてアデライードは、一晩パンを作り上げた。パン作りが趣味の彼女の暴走は、誰にも止めることはできない。
――次の日。
アデライードは、雑貨屋さんで購入したバスケットに食パンを入れ、家を後にした。
まず始めに向かったのは、ジークレインの家。一応、村の役場でもあるらしい。
「こんにちは、ジークレイン」
ジークレインは、役場のカウンターで仕事をしていた。役場は、彼一人で運営しているようだ。
ジークレインは、アデライードの持っているバスケットを見ると目を輝かせた。
「お?まさか差し入れかな?」
アデライードは、クスリと笑うとジークレインへ、食パンが二枚入った袋を渡す。
袋は可愛くラッピングされており、アデライードのセンスの良さを物語っていた。
「ありがとう、アデライード!人に料理作ってもらったのなんて幼少期ぶりっ……グスン……嬉しいよ。……これ、教会に飾っとくね」
「フフフ。いやいや、食べなさいよ!料理作ってもらったの随分と昔なのね。いつもは何を食べているのかしら?」
「畑で育てている野菜、そのまま食べてる」
「はあっ!?」
なんとお強い!畑の野菜、そのまま食べている人をアデライードは初めて見た。
アデライードは、上品に大笑いしながら一つ提案をする。
「明日からパン屋さんを始めようと思うわ。良かったら遊びに来てね。それと、本当にこれは……良かったらなんだけども」
「何だい?」
アデライードは、顔を真っ赤に染め、目をそらしながら言う。
「ジークレインのご飯……わ、私が作ってやってもいいわよ。毎食……と、届けてやるわ!」
ジークレインはその言葉に驚きしばらく、硬直していた。しばらくして、顔に幸せいっぱいの笑顔を浮かべた。
「本当に良いのか!?そんなこと言ってくれる人、はじめてだ!ありがとう、そしてよろしくな!アデライード!」
アデライードは、どうも素直ではない性格のようだ。自分でも自覚したようだ。
昨日お世話になったニコラとジョンにも食パンをプレゼントした。店の宣伝もしてみた。
しばらく、村を歩いていると子供達がアデライードの方へ走ってきた。
「あの人かな!?パンを配っている人って!」
「パンの匂いがする~!良い匂い~!」
アデライードは、子供達に取り囲まれた。
一人のリーダー格の少年が手を差し出す。
「ジークレインお兄ちゃんが美味しいパンを配っている女の人がいるって言ってたんだ!僕たちも食べたい!」
アデライードは、しゃがみこみ子供達と同じ目線になる。
ニコリと笑うと「皆、美味しく食べてね!」と食パンを子供達に配った。
「へぇ、アデライードお姉ちゃんか。よろしくね!」
「パン屋さんかぁ、遊びに行くね!」
いよいよ明日開店か。緊張するな。でも、子供達とも仲良くなれて楽しみ。
しかしこの時、アデライードは気がつかなかった。この村に臆病王子と騎士団が迫ってきていることを。
食パン、美味しいです♪ヽ(´▽`)/