1 令嬢、復讐を誓う
――嗚呼、運命ってなんて残酷なのかしら。
私、「アデライード・フランシス」はため息をついた。
私は現在、馬車に揺られている。馬車の窓からは、もはや平原しか見えない。
私は思わず口を開いた。
「あら、随分と遠くに追放するのね」
――そう、全ての始まりは、あの目がキラキラの「ぶりっこヒロイン」と国王の一人息子「臆病王子」である。
私は、前世の記憶を持つ公爵令嬢。ちなみに前世は、パン屋さんの娘。
そういうこともあり、パン作りは得意であり趣味でもある。
とはいっても、自分の屋敷の厨房には入らせてもらえず、誰もいない中こっそりと作っていたのだが。
そして例の臆病王子は、私の婚約者であった。
「別にあんな男、興味ないんだけどもね……」
まあ、家の事情だ。
しかし臆病王子は、私を好きになってくれた。私達は、結婚するはずであった。
……しかし。
――事件は起きたのであった。つい先日のことである。
「アデライード、話がある」
臆病王子は、突然私を呼び出した。
いつもは、「アデライード」とは呼ばずに必ず「僕のアデライード」と呼んでくるのに。
私は、呼び方と彼の焦っているその表情に違和感を覚えた。
「僕は、この女性と結婚することになった……。この国では、何店舗も店を出しているパン屋さんの娘さんなんだ」
彼の横には、あの「ぶりっこヒロイン」。
腹が立つことに彼女は、私を軽蔑するかのような視線を送ってくる。それも、臆病王子にバレないように。
「待ちなさい。私との婚約はどうなるのかしら?この婚約破棄は、簡単なものじゃないのよ!私達の婚約は、国だって左右するのに!」
そう、臆病王子のくせにこう見えてこの国の王子。この婚約は、国王と私の父である公爵が決めた結婚だ。
だが、臆病王子は気まずそうに私を見る。
「君のお父さんにはもう話したのだけれど、君との婚約は既に破棄されている。だって……君は……つ、罪をおかしてしまったから」
全く心当たりがない。私は「何のことかしら?」と問う。
確かに私の顔は、目と眉がつり上がり悪人寄りの顔ではあるがこれまで、善人として生きてきたつもりだ。
罪人扱いなんて失礼にも程がある。
そこで、ヒロインはワンワンと泣き出す。くそ、犬かよ!
「忘れたとは言わせないわ!貴女、私のことを暗殺しようとしたくせに!私はただ、王子様と一緒にいたかっただけなのに!愛していますわ、王子様」
「ああ……僕もだよ」
そう言うと、二人は密着し両手を繋ぎあっている。
「はぁっ!?」
暗殺?全く心当たりがない。
そもそも私は今、始めて貴女の存在を知ったのだが。初対面の人に対して酷いものだ。
こうして、何度か裁判をするも私の負け。
証拠が全くない、また父の根回しもあり、牢屋入りまではいかなかったが、国外追放となってしまった。
「証拠が無いのに……おかしいわ」
キャラの配分的に、私は悪役令嬢なのは分かる。
だが、これはいくらなんでも酷くはないか?
「嗚呼!あの時のことを思い出すと吐き気がするわ!」
私は、馬車の中でそう叫ぶ。
「こうなったら、臆病王子とぶりっこヒロインに復讐をしないとね」
復讐……、さてどうするか。
「フフフ、良いこと思いついたわ!」
確か、ぶりっこヒロインの家は、国内にいくつも店を構えるパン屋さん。
私もそのパン屋さんを知っている。それほど有名なのだ。
「私もパン屋さんを開いて、あの女の家をぶっ潰してやるわ!」
大丈夫、私にならできる。
何歳から趣味でパンを作っていると思ってんのよ。
要するに、あの女の家のパン屋さんよりも有名で人気なパン屋さんになればいいのよ!
「よし、新たな家に到着したら準備しましょう」
若干のお金は持ってきているし、資金は心配ない。
だが、追放されるからには庶民の暮らしには慣れなければならない。
「お嬢様。到着致しました」
馬車のドアが開き、家来がそう言った。家来の目は、明らかに冷めていた。
「そう、今までありがとう。お元気で」
私は、馬車を降りた。
家来は、必要な荷物を地面へと投げ捨てると颯爽と馬車を走らせ、国へと帰っていった。
「ここが、私の暮らす村……。そして、ここが私の住む家ね」
自分の住む家は、背後にある。私は、期待を胸に振り向いた。
きっと、父がこっそり用意してくれた家だ。小さくても綺麗な家であろう。
こう見えて、庶民の家は小さくて可愛いと幼少期に憧れていた。
「……」
私は、これから自分の家となるその建物を見て絶句した。