虚構の季節 二
一
高等学校を卒業した黒河葉庭は、精神科のデイケアに通院していた。
黒河は発達障害である。更に鬱病も抱えていた。
橘慶子も、藩澤も、高等学校を卒業してから、全く音信不通になってしまった。
嗚呼、友は黒河を哀しく視つめる。
黒河はデイケアでコーヒーを啜り、荒廃していた。虚構の虚無との闘いだった。それは芸術であった。哀しい闘いである。
黒河はデイケアでデッサンに明け暮れた。休んでいる時は、途方にくれた。
夢さえも見なかった。彼は酷く憂鬱で、物憂かった。
生きているだけで精一杯であった。そして、黒河は生きているだけで良かった。
デイケアの帰り、看護師に
「黒河君、デッサン、上手いね。」
と言われた。黒河は絶望、悲観した。また、嬉しさもあった。
彼は病院の休みの日には、公園を散策した。森の中を歩き回り、自然に身を任せていた。心が浄化されていくようであった。
彼の虚構の主観は悉く崩壊したと言って良い。彼の虚構はもう現実世界では通用しないのだ。
二
春。・・・・・・
黒河は公園で、ベンチに座って桜を眺めていた。まるで、一瞬に永遠を観るかのように。・・・・・・・
看護師に呼ばれた。
黒河は急いで、看護師のもとへいき、デイケアの病院へ帰って行った。・・・・・・
医師の診察は簡素であった。
黒河は、ただ発達障害を抱えた人間として生きていた。それ意外、彼には無かった。
芸術で心の空洞を埋める気力もなかった。
暗闇の中を鬱病の患者が歩いていく。
桜の花弁が舞っている。川が滔々と流れている。・・・・・・
空は晴れていた。晴天である。しかし、多くの人々の鬱は、晴れそうになかった。
桜の花弁が地面に落ちて風に運ばれて川の流れに呑み込まれていった。・・・・・・