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ここは福岡、破落戸ランド  作者: 中洲の住人
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ケース4 大手は好きになれません。



中洲のはずれにある、会員制高級クラブの個室にて。


「というわけで山下社長にお願いしたいのですが…」


「私の方からも是非お願いしたく…」


そう言いつつ俺に頭を下げているのは東京の不動産デベと、日本の有名ホテルチェーンの経営本部長だ。

ちなみにデベとはデベロッパーのことを指す。


なんでも中洲近郊に新しいホテルをオープンしたいらしい。

業態もこれまでの普通のホテルとは一線を画すもので、外国人の個人旅行客をメインターゲットとしたホステルのようなホテルを作りたいとのこと。


「そうは言ってもねぇ…」

あちらさんはその新しいホテルをオープンする土地を探しているらしいが、難航していてどうにもならなくなったのでうちに来たとのこと。

今回、俺はこの提案にあまり乗り気ではない。

なぜなら、向こうが建築を予定している土地にうちの管理ビルが2本入っており、この計画に噛むとなると、年間数千万から数億の損失を被るからだ。

そうなると2つのビル合わせて50億はもらわないと割に合わない。

向こうもうちだけに50億も出す気にはならないだろう。


「弊社といたしましても社運を賭けたビッグプロジェクトでございまして…」


「おたくのビッグプロジェクトは勝手にやっていただいて結構なんですがね、うちとしましては、そちらのビッグプロジェクトとやらに賭けて大事な店子と大事なドル箱物件を手放すつもりにはなれない訳ですよ。」


「いえいえ、その件に関しても重々承知でございまして…

つきましてはでございますが、2つのビル、土地合わせまして35億円でいかがでしょうか?」


その問いかけを聞いて思わず俺も顔をしかめる。

なぜなら、土地価額をちゃんと調べてきているとわかったからだ。

こういう中規模の土地売買だとわりかし向こうも価額を調べずに来ることも多い。

大手の看板引っさげて、大手様が土地を買ってやるという態度を取ってくることもザラにある。

しかし、今回の二人はちょっと毛色が違う。

今回よりも大きな土地売買を何度もやってきている、修羅場をくぐり抜けているという風格を感じる。


「35億じゃきついですねぇ…」


「誠に勝手ではございますが当方で相場を調べさせていただきましたが、2つ合わせて30億といったところかと思いまして、あとはさらに5億ほどイロを付けさせていただいたのですが…」


俺の顔はますます険しくなる。

相場が30億というのもほぼドンピシャだ。

俺も珍しく劣勢に立たされていると感じている。


「ウチとしては売却最低額は50億で考えています。

というのも、その2つのビルに入っているテナントからの家賃収入が年間で2億ほどありますし、2つのビル合わせて40件ほどのテナントが入ってますがまだ契約がどれも切れていないので、契約解除の違約金も莫大な額になります。

その違約金も、ウチが会社都合で契約切ったっていう信用保証もしてくれるっていうなら35億で考えないこともないですが…」


「なるほど、そういう理由ですか。

違約金の件に関しては問題ありませんが、信用保証についてはどのような形で保証したらよろしいですか?」


ホテルチェーンの部長がそう口を開いたが、その時デベの方はしまったという顔をした。

俺は心の中でラッキーと呟いた。

なぜなら契約解除違約金は特約という形で俺と店子さんで、契約を自由に決めることができるからだ。

俺としては店子さんにもっといい条件のうちの管理物件に転居してもらう形で簡単に話がつくと考えていたからだ。

ちなみに、向こうが支払う料金は、50億よりもだいぶ高くつくだろう。

俺としてもビルを売るつもりがないので、違約金の見積もりだけ出して終わりだ。


「信用保証については、店子さんの転居先の家賃を半年分だけ出してもらうっていう形でどうでしょう?」


「山下社長、それはやりすぎじゃ…」


「こっちとしてもね、中洲で何十年もやってきたメンツってもんがあるんですわ。

中洲の不動産っていやぁウチのこと指すくらいの看板背負ってる店に、無理やり店子との契約切らせるんですからそれくらいはしてもらわないと。

こっちも信用商売なんですよ。」


「わかりました、半年分もちましょう。」


「さすが、話がわかりますね。

で指したらすぐ契約書を作りますので、サインを…」


俺はそう言ってすぐに契約書を作り、今飲んでるこの店のコピー機を使わしてもらって印刷し、相手の部長とデベの社員と俺の3人で契約書にサインをした。


まるで悪魔の契約書だな。

と俺は思ったがそれは顔に出さない。

向こうのデベの社員はあーあ、知らないよという顔をしていた。


「じゃ、俺は店子さんとかに顔だして根回ししてきますんで。」


「ありがとうございます。よろしくお願いします。」

部長さんのそんな言葉を聞きながら俺は車に戻る。車にはケイジが待機していた。


「お疲れ様です社長。どうでしたか?」


「バッチリ!」


「流石っすね!いくらの契約っすか?」


「ビル自体は35億。」


「あれ?社長50億はもらわないと割に合わないって言ってませんでした?」


「でもトータルで諸々込みで向こうには80億くらいふっかける。」


「やることえぐすぎないすか?」


「仕方ないだろ向こうがもう契約書にサインしちゃったんだから笑」


「詐欺みたいっすね。」


「まぁ不動産屋自体詐欺師みたいなもんだよ。向こうもうちのドル箱35億なんてギリギリの安値つけてきたんだから勉強料と思ってもらわないとな。

どーせ払えやしないよ。契約は白紙に戻るだけだ。」


「そっすね。」


「とりあえず会社帰って家賃見て、迷惑料の見積もりあげるぞ。」


「りょかいっす。」


会社に帰って、ユキちゃんとケイジと3人で40件以上、結局42件あったが、のテナントの家賃を調べて、迷惑料10ヶ月分と転居先の敷金礼金を出してみた。

「迷惑料10ヶ月分と、転居先の敷金礼金と引っ越し代で一件あたり1500万ってとこっすね。」


「プラスの休業補償と転居先の工事費合わせて2000万だな。それを42件で8億4000万か。あと転居先の家賃半年分で3億240万で、実際にウチが立て替えて店子さんに支払う金額はトータルで11億4240万。

じゃあ休業補償と迷惑料と、転居先の家賃もっとふっかけるか。

一見あたり3500万で計算しよか。」


「うっす。」

「わかりましたー。」


相変わらずユキちゃんはダルそうだ。


「出ました。42件で12億6000万と、転居先の家賃をうちで最高額のもので計算して5億5440万、トータル18億1440万です。」


「よし、それで行こう。うちの取り分は、それの仲介手数料と物件売買の手数料と転居先の紹介手数料って事で、総合計の53億1440万の30%貰おうか。えーと……15億9432万か。トータル69億872万ってことはあともう少し欲しいな。」


「その話違う人に持ってってみます?」


「誰に?」


「ビル買いたいって言ってた投資家の神さん」


「あー、神さんね。持ってってみるか。」


神さんとは、かみさんではない。コウさんという珍しい苗字の方で、昔から投資家をやっている。

バブルの頃は兜町の風雲児と呼ばれたらしく、株でひと財産築いた後は、不動産投資に回り、最大で日本全国のビルの4割を持ってたらしい。どこまで本当かはわからないが。

その神さんが、最近またビルを売買したいと言っており、オリンピックやらインバウンド需要を見込んでの不動産投資を考えてのことだろう。



次の日俺はケイジを連れて神さんの家に行った。

神さんの家は大濠というところにあり、その大濠とは福岡中の金持ちが住むといわれている超高級住宅地である。

神さんはそんな大濠の中でも超一等地の最高級マンションを一棟丸ごと所有しており、その最上階に住んでいる。


玄関のオートロックのところで

「神さーん、ビル持ってきたよー」

と言うと、「はいはーい。」と神さんは大喜びで俺たちを部屋に上げてくれた。


「で、どんなビル?」


「まだ売るかどうかわかんないんだけど、中洲の近くのビルで70億ジャスト。他にも買いたいって人いるけど、神さん買う?」


「買う買う。80億までなら買う。」


「了解。競ってる人にもそう伝えとくね。」


「お願いね!」


神さんの色よい返事が聞けたので俺たちは神さんの邸宅から退散する。


「神さん二つ返事でしたね。」


「あの人は投資家だから決断が早いんだよ。」


「なるほどぉ〜」


「じゃそのこと先方に伝えるか。」


「うっす、了解です。」


帰社すると、俺は奥の商談スペースを使用中名札をかけて電話する。


「もしもし、山下不動産です。」


「あ、先日はお世話になりました。話まとまりましたか?」


「そうなんですよ、その件でお電話差し上げたんですけどね、横槍が入っちゃって…」


「というと?」


「おたくが土地取得進めてて、うちのビル二本買うって話が漏れたみたいであのビル売ってくれっていう方が現れたんですよ。」


「え!」


「しかもね、値段が80億で買うって。」


「え!!!!」


「こちらとしてはやっぱり高く買ってくれる方に買って欲しいからどうしようかなと。

また具体的な詳しい見積もりはすぐこのあとファックスで送りますけど、どうかなと。」


「いやぁ、ちょっと会議にかけてみます…」


「了解です、いいお返事期待してますよ。」

俺はそう行って電話を切った。

ケイジにすぐファックスで見積もりを送るように指示を出して、2時間ほどすると電話がかかってきた。


「はい山下不動産。」


「すいません、やっぱりナシで…。」


「了解です。」

本当ならこんな簡単に契約破棄できないのだが、そもそも俺は売りたくなかったのでうまいこと処理しといてあげることにした。

まぁ、のちのちちゃんとした契約破棄の書類も送られてきたしこっちも送ったのだが。


「契約ナシになりましたー」

と俺が言うと、

「了解でーす。」と言う声が仕事をしている二人から帰ってくる。


「俺思ったんだけどさ、神さんに80億でビル売ったら丸儲けじゃない?神さんは開発目的じゃなくて投資目的でビル買うわけだから、管理もうちに丸投げするだろうし。」


仕事をする二人の手が止まった。

「た、たしかに。」

「そうっすね…。」


「売るか。」

「うっす!!」

「書類作ります!」


こうして山下不動産は80億円と、毎年の管理手数料数千万を手に入れ、翌月の社員のボーナスがすごいことになった。


ここからは余談だが、俺はその80億であったビルの近くの土地を取得し、高級マンションを建てた。数年後に近くに地下鉄の駅を新しく作る計画が発表され、最終的に周辺の地価が跳ね上がり、神さんのものになったビルの価値ら100億近くになり、神さんはホクホクだった。ちなみに俺のビルは130億くらいまで跳ね上がった。

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