ケース3 荒事対応
「今日はなーんもねぇなぁー」
「暇っすねぇ〜〜」
「二人とも暇なら手伝ってください。」
珍しく今日はお客が来ないので、俺とケイジは暇している。
俺らが暇だからって、事務仕事が少なくならないのは不思議だが、しょうがない。
決して、俺が飲み歩いて、金の代わりに財布の中に残った領収書をユキちゃんに丸投げしてるからというわけではない。
あまりに暇だったので、会社のテレビでドゥオモという深夜番組を見ながらケイジと爆笑していると、俺の携帯が鳴った。
電話をかけて来たのはうちのホストクラブを経営している大事な店子の一人ユキヒロだ。
「もしもし山下。」
「ユウキさん!助けて!」
「え?なんて?」
「突然ウチの店に半グレみたいなやつが押し寄せて来て暴れてる!」
「俺は用心棒じゃないっちゃけど。」
「まだお客さんもおるとよ!なんとか店の外に出したけど、他のお店さんにも迷惑かかるけん!
お願いします!!」
「他の店にも迷惑かかるんかぁ…
しゃあなしやね。すぐ行く。」
渋々感を装っているが、内心暇だったので、いい暇つぶしができて嬉しい気持ちでいっぱいだ。
「ケイジ!暇つぶしや!出るぞ!!」
「ウッス!!!!」
「いってらっしゃーい」
邪魔な奴が一気に二人もいなくなるのでユキちゃんは嬉しそうだ。
いつものG65に二人で乗り込むとケイジが聞いて来た。
「暇つぶしってどこ行くんすか?」
「親不孝の第三丸信ビルのキングダム。」
「ビル全体ウチの管理物件のやつですよね。
信ジイさんが管理ウチに丸投げしてるやつ。」
「そう、それ。
で、キングダムで半グレみたいなガキが騒いでるらしい。」
「俺の出番って感じっすか!!!」
「まぁそうなるな。俺が手を出すと犯罪になるからお前いけ。」
「うっす!!」
なぜケイジの出番なのかというと、今でこそケイジはまじめに俺の下で仕事を覚えようと頑張って働いているが、元々は親不孝を拠点に活動する不良グループの元締めだったからだ。
親不孝でやんちゃしてるだけなら俺もどうでも良かったが、ウチの管理物件で、ヤクザまがいのみかじめ料を取ろうとして大暴れしていたところに、たまたま俺が店に様子見に行ったところと鉢合わせして、話し合いをした結果ウチで働きたいと言ってくれたのだ。
初めて二人で飲みに行った時にその話を蒸し返していじろうとしてやったら、顔が真っ青になって失禁しだしたときはおれもびっくりした。
大丈夫か?と聞いたら小さい声で泣きながらごめんなさいごめんなさいとブツブツ呟いていたのには俺も引いた。
「最近は俺の出番も少なくなって来たっすからね!
この辺で存在感出していかないと!」
「まぁ暴れるやつは昔に比べたら減ったよなぁ。」
「若者に元気が無くなって俺も辛いっす。」
「お前まだ23だろ」
「まぁ俺15で親不孝締めてたんで!」
「まだクソガキだったもんな、あの頃。」
「お恥ずかしい限りです。」
平気そうな顔をしているがケイジの手が小刻みに震えているのを俺は見逃さない。
震えるケイジを横目で見ていると、現地に着いた。
ビルの前に車を止め、降りると騒ぎ声が聞こえる。
「派手にやってんなぁ。」
「俺先に行ってますんで、ゆっくり来てください。
もしポリが来ても下で引き止めといてください。」
「OK。4階な。店の前で騒いでるらしいから。」
「うっす!!」
ひさびさに社長に任された仕事だからしっかりやらねぇとな。
エレベータに乗り、4階のボタンを押す。
エレベータが目的の階に着き、ドアが開くと怒号が飛んでいる。
「お前らなにやってんの?」
「あぁん?なんやきさん!
お前に関係なかろうが!」
「騒いでるのはいいんだけどさ、迷惑なんだよね。お前らんとこのボス誰?」
「は?なめてんのか??」
そんなやすいチンピラみたいなセリフを言いながら光り物を出して来たリーダーぽい不良A。みんな似たような顔だからあまり判別がつかない。
「光り物出しちゃう?じゃ俺もどうにもできないよ?」
「うるせぇ!」
光り物を出した不良A、もとい光り物Aが大振りで刃物を振りかざした。
こういう手合いは、振りかざした瞬間に距離を詰めて、最短距離で最大火力のパンチを喉元に突き刺せばすぐ倒れるって社長が言ってた。
だから言われた通りにする。
「ウグォッ!!!!」
光り物Aがくぐもった呻き声を上げその場に倒れこんだ。あまりの早さにそいつの周りの不良はあっけにとられて動けないでいる。俺はそのチャンスを逃さない。
光り物Aの前髪をガシッと掴んで、俺の言葉が聞こえやすいようにグイッと持ち上げて、伝わりやすいように言葉を選んで言う。
社長曰く、誰にでも伝わりやすい言葉を使うのが社会人としての常識ということだ。
「やけんさ、ボスが誰か言えって言いよーとよ。」
「なんでお前なんかに言わんといけんとや!」
むせながら光り物Aは精一杯の虚勢を張る。
何となく、頑張る元気のいい若者がかわいらしく思えたので、俺は無言で床にその顔面を叩きつける。4回ほど叩きつけたところで、言います言いますと行っていたような気がするが俺は聞こえない。
俺はボスの名前が聞きたいだけで、言いますという答えが聞きたいわけではないからだ。
続けて何回か叩きつけていると、反応が無くなった。気絶したようだ。流石に社長に迷惑をかけるわけにはいかないので殺すようなヘマはしていない。
「じゃ次は誰?」
そう行って周りを見渡すと7〜8人が土下座していた。必死で俺の顔を見ないようにしているらしい。
「ねぇ、やけん結局ボス誰なんかって。」
「た、高橋さんです。」
「は?高橋?高橋ってあの高橋ケンタ?」
俺は聞いたことのある名前が不良たちの口からでできて少しびっくりした。
「え、はい、多分。」
「ふーん、わかった。」
俺は社長に電話する。
「もしもし社長ですか?全部終わりました。
なんかボスが俺の知り合いみたいなんで、ここに呼んでいいですか?」
「了解、今から上がるわ。
呼んでいいよ。」
「うっす!!ありがとうございます!!」
なんか俺よりやばそうな人が来ることを感じ取った奴は震えている。
そんな奴は無視して俺は光り物Aのポケットを漁って、気絶しているAの指にタッチセンサーを当てロックを解除しまともに喋れそうなやつに電話をかけさせる。相手はもちろん高橋だ。
「もしもしケンタさんっすか?
今キングダムでリーダーのユウタさんがもめちやつてて…
すぐ来てもらっていいっすか?
なんかなんかボス呼べって。
……はい。……はい。
ありがとうございます。
お願いします。」
「すぐ来るそうです。」
「はい了解。」
呼び出してすぐくらいでエレベータが相手社長が降りて来た。
「かなり派手にやったねぇ。
まぁ中の店には話通しとくから。
ケイジもお疲れさん。」
「うす!!!」
ケイジをねぎらってやると、犬だったら尻尾がブンブン振られてそうなくらい嬉しそうにしている。
俺はノックしてから、山下でーすと声をかけて店のドアを開ける。
「外片付いたから。」
「ありがとうございます!」
「まぁあとで相手方にも話聞くけど、何でこんなことになったの?」
「実は…」
ユキヒロの話をまとめるとこうだ。
外の通りで客引きをやってると、女性の二人組が通りかかったので、うちどうですか?と声をかけたらしい。
女性も乗ってくれて、店に来てくれることになって、ガンガン飲んでガンガン楽しくなってくれて、いざ会計ということになって、伝票を渡すと、高すぎるから払えないという。
俺も知っているが、別にこの店はボッタではない。むしろよく頑張っている方だと思う。
そしたらその二人の女性は、こんな怖い店知らないなどと言いだし、彼氏を呼ぶと言いだした。
店側は呼ばれてもと言って押し問答をしていると半グレが来たとのことだ。
「なるほどな。その二人組の女性は?」
「奥で待ってもらってます。」
「つれてきて。」
ユキヒロが速攻で連れて来た。
「お二人さんさぁ、こういうことするの初めてじゃないっしょ?」
「は?おっさん誰だし」
「あのさぁ、こういうことするの犯罪なんだよね。
これまで店側は泣き寝入りして来たかも知んないけどさ。俺はそれですますつもりもないから。
とりあえず外行こうか。」
「は??え?は??」
なんか二人がパニクってたが気にせず外に、ユキヒロと俺で連れ出す。
すると15人くらいがケイジに土下座していた。
後から聞いた話によると、土下座の理由はこうらしい。
エレベータが開いて高橋ケンタとその取り巻きが出てきた。
「おう誰が生意気言うとーとや?」
「おぉ、ケンタ。だいぶ偉くなったみたいやん。」
生意気はどっちやと思いながら俺が声をかけた。
「え、ケイジさん!?え、なんで!?」
「いやさー、なんかうちの会社の物件で暴れとるやつがおるとか言うけん、来てみたらさー、なんか若い奴らが暴れとるやん?
しかも終いには光り物出してなんか喚きよーやん?
俺も思うとこあったけん、流石に流せんわとか思ってちょーっと小突いてみたらケンタさんがボスですとか言うやん?
なんか知った名前やなーと思ってさ。
まさか俺らがあの頃パシリに使いよった、喧嘩も弱ぇ、クソビビリのケンタじゃないよなーとか思いながら待ってみたらお前来るやん?
なんでかなーって。」
「いや。あの、え、あの」
「いや、俺言い訳とか聞きたいわけやないっちゃん。
俺らがおらんかなったあと、お前が俺らの看板借りて幅利かせとったってこと?」
「あの、えー、いや、そうじゃないんすよ。」
「そうじゃないんすよじゃないやろ。
どう見てもそうやん。
別に実力で支配したとかなら構わんけどさ、俺らがおらんなったあとそういうことするのってちょっと違うよね?」
「…そうです。」
「どうするん?」
「え?」
「どうするんかって。」
「どうって、どう…」
「そこまで言わなわからんとや?
どうやって責任とるんかって聞きよーとやって。」
「すいませんでした!!!!」
ケンタがいきなり土下座しだした。
さしたら周りの奴らもそれに習って土下座し始めた。
どうしようかなと思っていると、店から社長が出てきた。
「あ、社長。お疲れ様です。そのお二人が元凶の方ですか?」
「まぁそうなんだけどさ、人数増えてない?」
「あぁ、ボスが仲間連れて来たんでみんなまとめてぶちくらしました。」
「なるほどね。」
納得した俺はケイジに経緯を話す。
「なるほどですね。
おい、お前ら謝る相手が違おーが!」
「「「「すいませんでした!!!!!」」」」
ということらしい。
俺はその時まだ土下座の話がよくわからなかったが、二人の女性は何が起こっているのかわからない様子から、だんだんと事態を把握して来て、青ざめている。
結局その場は高橋とかいうガキが女性二人分の料金と迷惑料を払って、二度と迷惑はかけませんという旨の書類に全員サインさせ、ボスの高橋以外は解散した。
「ユウキさんありがとうございました!!」
「まぁうちの大事な店子さんやけんね。
またなんかあったら連絡ちょうだい。」
「はいありがとうございました!!!」
ユキヒロの言葉を背中で聞きながら俺は車に向かう。
「ケイジ!そいつに目隠しして車に載せろ。」
「うっす!!」
ケイジは高橋の目のあたりにガムテープを貼り、そのガムテープで両手両足も拘束し、後ろの扉をあけて荷室に乗せる。
俺は車に乗りエンジンをかける。
「社長、こいつどこに連れてくんですか?」
「克明のとこに連れてこうかと思ったけど、それほどでもねえからとりあえず海だな。」
「克明さんってあの〇〇組の?」
わざと組の名前を出すあたり性格が悪いと思い、後ろの高橋にバレないように笑いながら、答える。
「そうそう、〇〇組の。まぁ殺しゃしねえよ。」
「そっすね。」
高橋は視覚を塞がれビビリまくっているようだ。
1時間ほどで、糸島の海についた。
「よし。ついたぜ。高橋下ろせ。」
「うっす!!」
ケイジは高橋を肩に担ぎ、俺と海岸へ行く。
俺はその時スコップも忘れずに持って行く。
波打ち際に近いところでケイジは高橋を下ろす。
その時ケイジは目のガムテープを外す。
「許してください!許してください!」
「まぁ騒ぐなよ。おい!」
「うっす!!」
ケイジは俺からスコップを受け取り黙々と穴を掘り始める。
「水を含んだ砂になぁ、首まで埋められると身動き取れなくてなぁ。今は干潮だからここ砂浜だけど、満潮になるとここまですっぽり海の底になっちゃうんだよなぁ。
だんだん水が迫って来るのって相当怖いらしいぞ〜」
「すいません、すいません、すいません!
もうしませんから、もうしませんから!!!
許してください!許してください!!」
「でもさぁ、お前らそうやっていろんな店で恐喝してきたんだろ?
あのケイジもみかじめ料取ろうとして、ヘマやって足洗ったの知らないわけじゃねぇだろ?
やばいやつに捕まったら何されるかわかんねぇわけじゃないだろ?」
「すいません!!!すいません!!!
つい出来心なんです!!!!」
「出来心でそういうことされたんじゃ、店やってる人も迷惑だろ?
だからこうして、もう 迷惑かけられない(・・・・・・・・)ようにしようとしてるんだよ。」
「すいませんでした!!!
もうしませんから!!!!」
「絶対?」
「絶対もう何もしません!!!!」
俺は3分ほどあえて黙って見た。
「じゃあ許してやるよ。」
「え?」
「許してやるよ。」
「あ、あ、あ、あぁぁぁぁ……」
安心たのか高橋は声を上げて泣き出し、そして気絶した。
「ケイジ、もういいぞ」
「あ、まじすか?根性ないっすね。」
「お前の時はもっとやばかったもんな。」
「今でも夢に見るんでその話はちょっと…」
ケイジには、高橋にしたことよりももっとえぐいことをした。
掘った穴は二人でちゃんと埋め戻して、高橋を車の後部座席に乗せ、福岡市内へと帰った。親不孝の交番の裏にある公園のベンチに高橋を寝かせ、先ほどの仲間に連絡して迎えに来るように伝えた。
「いい暇つぶしになりましたね。」
「そうだな。汗かいたから温泉行くか。」
「いいっすね!!!」
男二人で親不孝の近くにあるスーパー温泉、さざ波の湯に向かい汗を流して会社に帰った。
会社に帰ると、ユキちゃんが
「なんか二人ともさっぱりしてないですか?
いい匂いもするんですけど。」
「いやぁ…別に…。」
「どこも行ってないですけどねぇ…?」
「ユキヒロさんて、親不孝のキングダムですよね?
親不孝…。………さざ波?」
「「ぎくっ!」」
「私が社長とケイジの経費精算やら広告宣伝費やらいろいろ仕事してる時に二人は温泉ですか、へぇ、いい度胸ですね。
私も溜まった有給取って2ヶ月くらい休もうかなぁ。」
ユキちゃんが会社を休むと会社が回らない。
俺は焦った。
「そ、それは困る!ごめんなさい!
き、キルフェボンの季節のフルーツタルト1ホールで!」
「うーん…」
反応は渋い。
「シャネルのバッグもつけます!!!」
「もう一声!」
ユキちゃんはニヤニヤしている。
「ええい、社員旅行はハワイ1週間だ!!!」
俺はかなりの一大決心をして叫んだ。
「それで手を打ちましょう。バッグはハワイの免税店でいいですよ。」
ユキちゃんは、猫のように笑いながら、手を打ってくれた。
「高くついた温泉になっちゃった……」
うちの社員旅行は年明け1月末ごろに毎年行っている。ちなみに去年は沖縄に行った。
「ハワイ楽しみっすね!」
ケイジが能天気に言う。
「お前は給料から旅行代天引きだから。」
「そりゃないっすよ!!」
俺は、ケイジの顔が泣きそうになったのを見て満足した。
今日は、なかなかエキサイティングな出来事があったが、これも中洲の平常運転だ。
俺はケイジとユキちゃんにお疲れさんと言い上がってもらって会社の鍵を閉めた。