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その英雄、悪役志願 ~よみがえりの救世主は二度目は邪道を突き進む~ 作者:雨宮れん
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トリッド、手下と接触する

(まさか、アヴァリーがあんなことを言い出すなんて考えてもなかったな。というか、女神は鋭い……ひょっとしたら、全部知られているかもしれない)

 現在二周目の人生であるトリッドは、おそらく一周目の人生の分、経験値を重ねていると思う。

 だが、そんな彼であっても、アヴァリーのあの発言は想定外のものであった。

「――ついていく、か」

 魔力を制御するためのチョーカーを外した今、ノームとのつながりも持つことができる。道をてくてくと歩いている間も、周囲をノームがうろうろとしていた。

 飛び跳ね、トリッドに再び会えたのが嬉しいと、そう言っているみたいだ。

 それを見て、トリッドも少し反省した――わけではなかった。

 もし、正規の手段をとるならば。あんな神聖裁判なんて行うはずもなかった。王の名を受けたものの調査結果を粛々として受け止め、そして、その結果どんな処分が下されようとも反抗せず受け入れる。

(だが、そんな人生は、もうごめんだ)

 一度目の生で、パトリアックにやられたのはそれが理由だ。トリッドは、自分が間違っていなければ、周囲は自分の見方をしてくれるものだと思いこんでいた。

 それはある意味傲慢だったのかもしれないし、英雄をそねむ人の目に気付かなかったトリッドが愚かだったのかもしれない。

「……あんな感じでよかったんですか?」

 不意にかけられた声に、トリッドは、視線を動かさずに声だけでこたえた。

「よくやった――このまま、お前はウィークス伯爵家の内情をあたれ。ヘスティア侯爵との繋がりについて、もっと知りたい」

「かしこまりました」

 背後からやってきた男は、トリッドを追い抜いていく。彼の背中を見送り、トリッドはふぅっとため息をついた。

(……あの広間にいた人物が、あいつに気づいたらびっくりするだろうな)

 今、トリッドに声をかけてきたのは、あの日、トリッドがウィークス伯爵家の近くにいたと声を上げた男だった。

 そうするよう、事前に命じたのはトリッドだ。彼は、昔、トリッドが悪事を暴いたフィッチ・デイトマンの手の者――身を持ち崩して、貧民街に流れ着いた元下級貴族――だった。

 トリッドは、あの事件の直後、フィッチ・デイトマンの手のものを何人か自分の配下とした。トリッドを正直舐めていた者もいたが、ものを言ったのは、「必要以上にノームに愛された男」という実績と、「ローランド伯爵家」の名前だっただろう。

 トリッドが彼に命じたのは、「王宮の広間で自分を名指ししろ」とのその一点のみ。トリッドとの繋がりを知られたら、死ぬことになると脅してあるので、彼は言うことを聞くしかない。

 正直なところ、危険な賭けではあったのだ。自分の身を差し出すようなものだから――神聖裁判の結果を落ち着いて待っていられたのは、トリッドが、犯人達の先をうてると判断したからだ。

 王道を使っても、トリッドの仕業ではないと――もちろん、最初からやっていないのだから――証明する手段はいくつも持ち合わせていた。たぶん、先にカレンを収監したのはトリッドに対する揺さぶりのようなものであったのだろうと察しもついている。

 正確に言えば、犯人達とトリッドは、なんのかかわりもない。ウィークス伯爵家を、襲撃する計画があると知ったのも、本当に偶然の出来事だった。

 家までの道を歩きながら、トリッドはなおも自分の考えの中に沈み込む。

 ウィークス伯爵家は、トリッドの生家であるローランド伯爵家と微妙な権力争いを繰り広げている。

(――アヴァリーには感謝しなくちゃな)

 あの時、もっと強くアヴァリーを止めればよかったのかもしれない。トリッドにしても、アヴァリーを失うというのは、けっこうな痛手であった。

 だが、まだ、トリッドは歩み始めたばかりだ。ウィークス伯爵家の背後にいるヘスティア侯爵家がどう動くのかも注意しておかなければ。

「お帰りなさい。アヴァリーはどうだった?」

「意外と元気でした。ただ、やはり女神を下ろすというのは、身体に負担がかかるようです。数日の間は、孤児院の方に手伝いに行きたいのですが」

「あら、あなたが修道院の手伝いに行くのはいつものことでしょうに」

 くすりと笑ったマリカだったけれど、真面目な顔になる。

「本当にね――あなたが、まさか、あんなことになるなんて」

「わかっています。後で父上と話をします」

 テーブルの上に用意されていたのは、シチュー、蒸した野菜に甘辛いソースをからめたもの。それからローストビーフに、フライドチキンにローストチキン。豚肉のトマト煮込みなどトリッドが誕生日の度にねだるメニューだった。魚料理がほとんどなく、肉メインなのは、トリッドが育ち盛りだからである。

「それからケーキも焼かせたの。王宮とはいえ、あの状況じゃおいしくなかったでしょうから」

「喉につかえるみたいな気がして、食べられませんでした。うまい、このローストチキン!」

 鶏丸まる一羽の腹の中に、ドライフルーツや米などを詰め込んで焼いてある。香辛料のぴりっとした香りに、塩気がたまらない。

 足の部分を切ってもらい、行儀悪く手で握って食べていたら、ローストビーフが山のように皿にのせられた。

「たくさん食べろ――それから、今回の件、陛下も詫びておられたぞ」

「何がですか?」

 口の中に目いっぱい肉を詰め込んでいるものだから、トリッドの言葉くぐもってあまりよく聞こえていない。そんなトリッドに向かい父は、笑いまじりに教えてくれた。

「育ち盛りのお前の魔力を、何日も体内にとどめてしまっただろう。具合が悪くなる、とおっしゃっていたぞ」

「――大丈夫だけどなあ」

 実のところ、体内にたまっていた魔力は気持ち悪かったのだが、歩きながらノームに分け与えてきたので、今のところはいつもと同じくらいの量になっている。

「父上、それで、今日アヴァリーからも提案があったのですが、精霊魔術師として正式に登録した方がいいんじゃないかと思います。俺だけではなく、カレンとイルーダも」

「そうだな。単に祝福されているだけの者が、こうも精霊と意思を通じているとなると深いに思う者も出てくるだろう。そうしてくれるか」

「はい。きっと、カレンもイルーダも反対はしないと思います。ただ、――実施試験が、二人には吉備氏かもしれません」

「うーん、お前はともかく、カレンとイルーダには厳しいか」

「二人は、農業特化型ですからねぇ……三人で試験を受けることを認めてもらえればよいのですが」

 精霊魔術師として登録するためには、定められた試験を受ける必要がある。たいていの場合、精霊魔術師として登録しようという場合には、攻撃に適した精霊を使役できることを証明することが多い。

 だが、カレンもイルーダも精霊をそんな形で使役したことはなかった。そもそも、彼女達は、精霊を使役するのではなく共に歩んでいるのだから。

「まあ――今回の件もある。組合の方もあまりうるさいことは言えないだろうよ」

 トリッドをはじめとしたシャンドーラ孤児院の人間が無実の罪で裁かれかけたばかりだ。いつもより、いくらか規則を緩めてもらえるのではないかとダミルは暗示した。

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ブログ 最後の女神
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