採集の手間
文章中のお金の単位が円になっているところをGに修正 1/05
学校から帰ると俺はすぐさまログインした。学校でも軽部や宝蔵と話した結果、序盤はダンジョンの攻略のペースが遅くポーションの制作の方が単位時間当たりの生産が多いことから今日は俺がポーションを作り、残り二人で次のダンジョンを攻略することになった。
気が付くと俺は宿にいた。まだこの感覚には慣れそうに無い。少し体を動かして感覚に慣れた後、俺はボーロンが来るまで初級魔導書を読むことにした。宝蔵は学校で委員会活動があるとか言ってたっけな……。
初級魔導書の魔法陣は相変わらず何を意味するのか分からないが、意味もない記号の羅列というわけでもなさそうだ。というのも魔法陣によって書かれている文字が違うところと同じところがあるからだ。
とはいっても言語学者ではないのでこれ以上の解読は無理だろう。もし本格的にやるのであれば、この言語は現代人が作っている、というヒントから辿っていくことになるだろう。
様々な効果を付与する魔法陣を読んでいるうちに、急にシュンという音が背後から聞こえた。振り返るとそこにはボーロンがいる。ログインするとあんな効果音がなるのな。
「よし、さっそくシャロウ森林に行こう。」
俺がそういうと同時に二人で部屋を出ていった。
シャロウ森林はハーロブの北の平原のさらに北にある。シャロウって英語で浅いっていう意味だけれどももしかして浅い森林だっていうことなんじゃないだろうな……
運営のネーミングセンスに若干呆れつつも無言で歩いていく。
ボーロンはずっとウィンドウで何かを見ているし。
途中で会うゴブリンはスルーしていく。基本自分よりもLvの高い敵は追いかけてくるがゴブリンはLvが1または2に設定されているため今の俺らは関係ない。
それにしても結構平原は広いな。
「シャロウ森林にいる主な敵はフォレストウルフ、フォレストベアの二種類みたいだ。ただ結局このゲームはダンジョンがメインである都合上、基本フィールド上のモンスターとは戦っても恩恵が少ないように設定されている。だから今回は逃げに徹した方が得策かもしれない。」
「なるほど。ならそうするか。」
俺が答えた。必要な情報はすべて事前に集めているようだ。ゲーム内から掲示板を漁るだけでかなりの情報は手に入るのだとか。
シャロウ森林に到着した。それなりに草が茂っているため歩きにくい。様々な種類の草を踏みながら前に進んでいく。小さい虫の類がいないだけでも相当楽なのだろう。
今回森に来た理由は薬草の採集である。こないだ受けたクエストも達成したいしポーションの材料としても欲しい。
採集ポイントを見つけた。採集ポイントの上に逆三角形のアイコンがある。それが目印となるわけだ。
その位置も時間毎に変わっていくが、どのプレイヤーから見ても同じ位置にあり、複数のプレイヤーが重複して取ることが出来る。
さっそく俺たちで薬草を摘み取ると、ウィンドウが表示され「薬草Cを獲得しました」と出た。
しばらく探索しているとフォレストウルフが目の前にいた。
「逃げるぞ!」
俺がそう叫ぶと同時にフォレストウルフが追いかけてくる。が、思っていたよりも遅い。あっさり逃げ切ってしまった。
その調子で一通り探索を終えた。ボーロンが獲得した薬草はクエストを達成するための10個を残して俺に預けた。そして俺は一人でハーロブに帰っていく。途中で走っているエリウムとすれ違った。
「おーーい!!」
手を振って元気に走っている。俺も軽く手を振り返して町に戻った。二人はこの後シャロウフォレストにあるダンジョンに入っていくようである。ただ難易度はここからかなり上がるようなので偵察がてら、といった感じだろうか。
俺は薬剤研究所に入りHPポーションを作り続けた。何度もやっていれば手際が良くなっていくもので、少しずつ早く作れるようになり、品質もCまたはC+で安定してきた。
しかし薬草はただでもポーションの瓶はただではない。一つ10Gだが大量にポーションを作るとなるとどうしてもお金がかかってしまう。
所持金もだんだんやばくなってきた。ポーションを作り終えた俺はすぐに冒険者ギルドに行きクエストの達成報告をした。報酬は1500Gと薬草B-である。
お、このゲームを始めてから初めてC+より上の品質のアイテムを見たな。
ポーション作りを終えた俺は鍛冶職人の所に行った。この建物は「鍛冶場」というらしい。ごっついおっさんが座っている。
「あのー、私に鍛冶のやり方を教えていただけませんか?」
「ああん? おめぇみたいな素人に教えている時間はねぇ! ……と言いたいところだが、実は今鉄が不足しているんだ。鉄を持ってきてくれるようなら考えてやる。」
「クエスト 鍛冶師のお願い を受けますか?」
ウィンドウが出てきた。詳細を見るとどうやら砂鉄というアイテムを20個持ってくればいいようである。投げナイフも鉄っぽいけどさすがにダメか……。
砂鉄はハーロブの東にあるハーロブの浜辺で採集できたはずだが……
地元市場で買ってしまった。あんまり一人で採集に行きたくない。砂浜もまた歩きにくそうだし。
その後俺は鍛治師に砂鉄を渡し、鍛冶の仕方を教えてもらえることとなった。
鍛冶では初めに短剣を作るそうだ。何故かボーロンもエリウムも短剣を使っているし、ちょうど良いだろう。二人が使っているのは初期装備の木の短剣だったはずだ。
鍛冶では基本金属を熱しながら叩くだけである。いつ終えるか、どんな形にするかも自由であるぶん、武器、防具はそれぞれに追加攻撃力値、防御力値などが決まるため鍛冶のやり方によって良し悪しが変わるようだ。
取り敢えずよく見る短剣の形になるように叩いてみる。本来の物は叩くまでに様々な工程がありとても苦労するらしいのだが……。
「カーン コーン」
素人がやっているのに割りと上手く形が変形し、良い音が出ている。これもゲームの仕様で簡略化されているからだろう。
加熱するのには炉のなかに金属を入れるのではなく、加熱台というものの上に金属を置くだけで良い。
だが、この台のなかで火が燃えている様子もないし……どうやって熱を作っているのだろうか。
取り敢えず俺は最後の工程であるやすりがけをして、短剣を完成させた。
さっきまで単なる鉄の塊だったものの上にアイコンが表示され、「鉄の短剣 D+」となっている。大まかにランクは着くものの同じランクでも攻撃力などの上昇幅は違うのだろう。
また武器には耐久力、という値が設定されており、この値が少なくなったらもう一度研がなければならない。
もし研がないで一定回数使うと武器が壊れて消えてしまうそうだ。
俺は気になっていたことを鍛治師に聞いてみる。
「結構俺長い時間鉄を熱してましたけどこの加熱台の燃料はどうしているんですか?」
「おめぇ面白いところに目をつけたな! これは……」
といって加熱台の上の部分を取り外した。
すると中には……
大きく、真っ赤な魔方陣があった。
「火属性魔方陣!?」
「そうだ。よく知ってるな。これは魔導師に大金払って作ってもらったんだ。」
「すごい……」
驚いてるように演じながら、スクショの連写をする。もともと予想はしていた。この世界にはひろく魔道具が浸透しているのではないかと。
「貴重なものを見せて頂き、ありがとうございました!」
お礼を言いつつ、俺は鍛治場を出た。
恐らくポーションを作る時に使ったあの加熱器具も同じ仕組みなんだろうな、と思いながら。