固定ダメージ
俺はフィールド上で敵を探している。
作った投げナイフの性能の試験をしなければならない。
性能の試験と言っても、与えられるダメージの量は調べればすぐに出てくる。
一番調べたいのは俺がナイフを使ったときにどこまでの命中精度、DPSを出せるかということだ。
レメント王都を出てすぐのレメント高原でウィンド・モールを狩ることにした。
この風属性のモグラ、ここに来た当初は苦戦したんだったかな。
「投擲!」
消費アイテムの中でも攻撃力を持つものは戦闘中、急を要することが多い。そのため、一つだけスキル「投擲」に登録しておけばとうてき、と叫ぶだけで使うことができる。
ポーションのたぐいなんかは一般的にウィンドウのアイテム欄から選んで使うことが多い。
これも一応「ポーション」というコマンドに登録しておけば叫ぶだけで使えるが。
スキルのおかげかウィンド・モールには一発で当たった。テキトーに投げても意外に相手の方向に飛んでいくようだ。
「とうてき! とうてき! とうてき! とうてき! とうてき! とうてき! とうてき! とうてき!」
ひたすら叫ぶ。クールタイムが2秒と少ししかないため何も考えるまもなく叫ぶことになる。
「キュウッ!」
ええ!? もうウィンド・モールが倒れちまった。
まだ相手からの攻撃を一度しか食らっていないのに……
消費した投げナイフの本数は23本、これだけで1150Gの消費か。
Gを消費して高ダメージを与えるわけだが、これを使うとほぼ確実に赤字になる。
これは普通のプレイヤーが常用するのは絶対に無理だな。
だが、爆破採掘と自動生産を使える俺なら常用できるぞ。
正直今のクランハウスの中には鉄や銅はありえないほど余っている。ミスリルは今の所市場で高く売れるから値上がりしているときに適宜放流しているが。
ウィンドモールは今となっては雑魚だ。正直こんなのが瞬で倒せてもダンジョンの中ではさほど通用しない。
もっとナイフの質を上げなければならない。
やれるとしたら金属を変えることだろう。
鉱山は掘る、というより爆破する場所によって錫とかアルミとかチタンとかいうあんまり需要のない金属まで取れるが、このあたりを混ぜてみたらどうなるだろうか。
正直金属の知識など無いに等しいから総当りでやるしかない。
だが総当たりと言っても仮に2種類の金属で1%ずつ配分を変えるだけでも100通りの可能性が考えられる。3種類に増やしたら大体5000通りにもなってしまう。
実際には1%単位で調整することは出来ないが、金属の種類は10種近くある。
どう考えても不可能だ。
手動なら。
魔法陣でナイフの作成ラインを作っている最中、加える材料を指定するときに変数を利用して一単位ずつ多くしたり、少なくしたりすることができることが判明した。
これを利用して全パターン自動で作ってもらうことにしよう。
この実験装置を開発するのにも相当時間がかかりそうだな。一旦ログアウトしてゲーム外で考えてくることにしよう。
一つの魔法陣から追加できる金属の種類は一つだ。
金属を追加できる最大量が決められているからどれか一つを増やしたときに残りの金属の合計値を減らさなきゃいけない。
それを実行するためには魔法陣同士で通信をしなければいけないわけだ。砂粒みたいなアイテムを用意してそれを転移させれば擬似的にデジタル通信を――
「はい、水谷、答えは??」
げっやばいっ
つい機構の開発に気を取られて授業を聞いてなかった……
まずいまずい、今俺はどこを当てられたんだ!?
確か先生は座席順に問題を答えさせていたからええと……
角から数えて一列六人、俺が廊下側から四列目の前から五番目だから……
「はい、θ=45°です」
「ん? 本当かぁ?」
うわー、これ間違っているやつだ。
「あ、すみません間違えました。30°です。」
「おおそうだ。つまり斜辺の長さを円の半径に当てはめて……」
あぶねぇ、今日一人休んでいるんだった。やれやれ。
あれ、俺何かいいことを思いついていた気がするのだが。なんだっただろうか。
まあ思い出せないということは大したことではないのだろう。
さて、金属の配分の合計値を超えないように金属を追加していく機構を考えないといけない。なにかいい方法は無いかなあ……
チャイムが鳴った。
「水谷、絶対さっきなにか関係ないこと考えてたでしょ?」
「あはは、バレた? ところでさ、さっき俺が答えた問題の前後10問くらいの答え教えてくんね? まったく授業聞いてなかったわ」
「はー、そんなことじゃないかと思ったよ。まあいいけどさ。」
どうも集中してしまうと周りのことがわからなくなるのは昔から変わらいな。変えようとしていないけど。
なんとか実験機構の構想を完成させ、それをILの中で再現する。
魔法陣間での信号の役割を担うアイテムは「良質な錠剤」というアイテムにした。直径四ミリメートルほどの飲み薬で、おもにNPCが病気を治すためのお使いクエストで必要になるものだ。
これがいまのところ簡単に手に入るアイテムで最も小さく、軽いアイテムだった。これなら転移させてもほとんど魔力は減らない。
まさかこの錠剤も、こんな使い方をされるとは思っていなかったに違いない。
これを数個用意して、一つの魔法陣が複雑な規則に従ってこれを転移させていく。
あとは金属の材料を追加する役目の魔法陣がこれが近くにあることを検知したら特定の金属を追加する、ということを繰り返すだけだ。
「よっしゃーーー!! 出来たーーーー」
だれもいない地下室で思わず叫んでしまった。
この装置では同じ配分のナイフを10本ずつ作るから、その10本の平均値で強さが求まるだろう。
このゲームの開発者、もしくは開発AIが作った、たかがナイフの強さを表す関数の性質を調べるためにわざわざめんどくさい機構を作る価値があるのか、とか思わなくもない。
もしできるなら俺だって適当に数字を当てはめて最も高い数値を出すコードを書いてそれで終わりにしたい。
だが、それをせずにこうやって昔風な装置で検証するものまた面白い。
さて、動かし始めるとするか。
全ての魔法陣に手を触れて起動していく。
錠剤という名の変数がからむ装置は同時に起動しなければならないから専用の魔法陣を使って、と。
20分くらい放置していたら早速バグを起こしやがった。
原因はナイフが完成しなかったことだ。
正確に言えば銅の割合が8割を超えるとナイフの品質がD-未満になって作成失敗になるらしい。
この調子だと他のいくつかの種類の金属も割合が多すぎると作成失敗するな。
鉄は100%で全く問題なく作ることが出来たからそれが当然だと思っていたがどうやら違ったようだ。
作成失敗しても無視して次を進めるように修正して、と。
丸一日放置して、なんとか全て検証が終わったようだ。
インベントリを見ると、ほとんどのナイフは品質がDからよくてB-だ。
ただ、一部B、B+もある。
「あった、あったぁぁぁぁーーーーー!」
見つかった! 品質A+の投げナイフがあった。
おなじ組成のナイフはA-からA+の範囲で品質が変わるようだ。
それにしても……これは普通にやって発見するの無理だろ。現実でこの通りに混ぜてもクズになるの確定、みたいな配分だな。
「砂鉄四つ、アルミのかけら2つ、銅のかけら1つ、砂金1つ、タングステンインゴット一つ、錫のかけら一つ、亜鉛の塊一つ、クロム鋼インゴット二つ……」
これらを混ぜて溶かして投げナイフにしたらめでたく超高品質の投げナイフの完成だ。
どれもアイテム自体は小さいものだから高価ではないが、種類が多くてめんどくさいな。
まあ、試しにこれを使ってみるとするか。




