投げナイフ
これから暫くパーティーメンバー全員が揃うことが減るため各自で自由に行動することになった。
俺が今からやることの選択肢として高度な魔道具を作ること、と新しいアイテムの生産に取り掛かることがあったが、後者を選んだ。
というのもここ数日で一つアイデアを思いついていたからだ。
高度な魔道具を作る目的は結局高い攻撃力をもつ攻撃を行使することにほかならないわけだが、それを消費アイテムを使うことで代替できるのではないかと考えたのだ。
消費アイテムは今の所作りさえすれば一定数総合市場で売りさばける。だったらなるべく多くの種類のアイテムを作って売りさばくに越したことはない。
MMORPGの世界においてGがありすぎて困るなんてこと絶対にないからな。
一昔前のゲームだと一部ではカンスト金額が数えられるほどで、トップ層はカンスト以上のお金の保存方法に苦心していたようだが。
このクランハウスも設備を増強しすぎたせいで地下室やインベントリなんかもこれ以上拡大するためには莫大なGが必要だ。
今回目星をつけているアイテムは鍛冶の管轄だ。俺は早速鍛冶職人のいる鍛冶場に行った。
「すみません、アイテムの作り方を学びたいんですけれど。」
「おお、この間の坊主か。前に作った短剣はあのあとどうだったんだ?」
ん? 何の話だ? ああ、だいぶ前に試しにってことでサブ職業いろいろ廻ったのか。
そのときに確か短剣を作らされたんだったかな?
「はい、結構使えましたよ。」
多分倉庫の肥やしとして。
「そうか! 良かったな! おし、そんじゃ今日は長剣をやってみっかあ!」
「え、あの、投げナイフを作r……」
「ん? なんか言ったか? よし、まずは材料選びからだな! 今回は鉄でやるが……」
どうやら他のサブ職業とは違って自由に自分の作りたいアイテムを作らせてくれないらしい。
長剣をなんとか作り終えたらその後大剣。
更にその後短槍を作らされて、ようやく投げナイフとブーメランを選ばせてくれるようになった。
「じゃあ、次は投げナイフで。」
「投げナイフはな、一度使われたらそれっきりの消費アイテムだ。だがだからといってバカにしちゃあいかん。
一つこれを作るたびに、その時の全力を尽くす! それに応じて金属もいい音を上げてくれるんだッ!」
うーん、よくわからないがやってみよう。鍛冶は作るのが難しいが職人さんが作り方を見せてくれるからその分やりやすくもある。
「こうやって……こうだ!!」
え? まだ3回しか叩いていないけど……
どうやらできたみたいだ。
消費アイテムは実際市場でも単価が安いし、特にいま作っている投げナイフ、まあ素材が鉄だから便宜上鉄の投げナイフとでも呼ぶが、これは一つ30Gだ。
むかしNPCからも買った気がするが実際その程度の価格だっただろう。
「さあ! お前さんもやってみろ!」
実際やってみると三回叩くだけでできてしまった。しかし形が悪く、品質もD-だ。
とは言っても品質に関してはどうやったら良くなるのか、という検証をするのは簡単だ。
今までポーション等を作った経験から言えば、材料、作業時間、動作のタイミングあたりがパラーメータになっていて、いろいろなパターンをやってみればどれがうまくいくかの検討はつく。
問題は自動でつくる装置を作ることができるかどうかだ。仮にC+の品質のものを安定して作ることができても収益の時間効率は悪い。
投げナイフをメインで使っているプレーヤーもほとんどいないだろう。おそらく魔法使いが主体のパーティーで魔法防御力に特化した敵が現れたときに応急的に使うだけだ。
だから普通に作るだけでは儲かることはない。なんとか自動化の方法を考えなければ……
一番の問題は金属をハンマーで叩く動作だ。
この動作、薬草を砕いたり熱したりするのとは違って実際に目で見て形を整えていかなければならない。
100回近く投げナイフを作ってみたが3回叩くと言っても毎回叩くべき場所が違うのだ。
思っていたより厄介なことになってきたぞ。とは言っても大凡叩くべきポイントの出やすい傾向はつかめた。なんとかその傾向から叩くべき回数が確率的に多い場所を調べて、そこを叩くようにするか……。
叩く方法も考えなければならない。
ハンマーを振り上げる動作を人の手を使わずに実行させなければいけないのだ。
本当なら転移魔法でハンマーを数十センチメートル上方に転移させてから自由落下させる方法を取りたいがそれだと落下地点がランダムになってしまう。
なんとか他の魔法でハンマーを動かすしかない。
物理的に動作する属性魔法で言えば水、または土だな。
今回は土魔法が良さそうか。
ハンマーの柄の先端に穴を開けて回転できるように固定して、と。
その下にわずかながらに土を敷いて、それを盛り上げる魔法を起動する。
おっ。
自動でハンマーが往復運動をしてくれるようになったな。
これで行けるか?
出来た。パワーが弱くて6回叩かなければならないがなんとかこれで動きそうだ。
ヘッドの部分が往復運動をするハンマーが横に6個並び、それぞれ微妙に違う場所を叩く設定になっている。
1,材料を置く
2,加熱する
3,4,5,6,7,8,叩く
これで完成だ。
完成するものは全て形が違うが、与えるダメージは主にナイフの品質で決まるようだから問題ない。
固定ダメージを与える投げナイフだからこそ、本来物理的な攻撃力を持たない魔法使いや道具使い、神官等が多いのだ。
装置を動かしてみる。
金属から火花が弾け飛ぶ音、ハンマーが金属を叩く音、二つの音が幾重にも重なって響き渡っている。
この音に規則性があることにさえ気づかなければこの工場?も立派な鍛冶工房なんだけどな。
よく聞くとハンマーが金属を叩く位置によって音が違うな。これいつかこの音だけで曲を演奏するとかやってみたいな……。
自分の手を入れずにアイテムが完成するというのは本当に楽だ。他の作業をちょこっとやっている間に多くの投げナイフが完成した。
この装置でひとまず100本の投げナイフを作ってみたら、C+,C,C-がだいたい3割ずつで、1割がDだった。
これでひとまずアイテム自体は完成だ。
これを俺が連投してどれくらいダメージを出せるのか検証してみないとな。
私はよく某クラフトゲームで音がなるブロック並べて遊んでました。




