試合開始前
あまりに速い展開に頭が追いつかなかったが一先ず勝てたようだ。
「にしても考えたね。まさか開始早々毒の状態異常をかけられるとは思ってなかったよ。まだプレイヤーで毒を付加する魔法を見つけた人そんなに多くないんじゃないかな?」
「そうなのか? なんか一先ず思いついたから使ってみたって感じだったけどなぁ。魔法陣に毒を付与するって書いただけで実際にどんな名前の魔法に相当するのか分からないけどな。
一先ず石で躓かせるだけってよりは遥かに効率的にダメージを入れられそうだな。試合開始のときの位置は固定だから必中だし。」
「うん、いけるとおもうよ。毒は防具とかでダメージを軽減することができないし、僧侶ならまだしもどうぐ使いに毒を治療するスキルがあるとは思えないから多分回復されることもないんじゃないかな。
多分毒は単位時間あたりのダメージ量は一定だろうから、試合終了までの時間も割り出せるかな?
今回のだと8分か。バトルトーナメントの制限時間が20分だし、大丈夫そうだね」
「なるほど。まあ実際ボーロンくらいプレイヤースキルがあるやつもそんなに居ないだろうし、気楽にいけばいいだろうな。あ、そういえば、さっき、試合が終了する寸前に短剣が飛んできたの、あれなんなんだ?」
「ああ、あれはどの職業でも取れるスキル『投擲』だよ。ロージェも持ってるでしょ? あれ体の重心の移動と腕の回転の勢いを使うと加速するんだよね。んで、多分速くてみてなかったと思うけどさっきロージェの頸動脈に当てたからね、クリティカル扱いだったわけ。
あれ、実際あとHP何%くらいだったの?」
「2%だ。ギリギリセーフって感じだ。」
いや、頸動脈って正面から短剣を投げつけて当てられる場所じゃねえだろ普通。
「うわー、あと短剣で一回分切りつけられていればなあ……。とはいっても、結構毒の継続ダメージって精神的に焦るんだよね。それで意外と冷静に行動できなくてさ。多分ブーメランを装備している人なんかもうまく当てられないと思うよ」
「あっやべっ、ブーメランの存在忘れてた! あれだとあんまり近づかなくても攻撃できるのか。そうなると石の生成位置をもっと離れたところにしないと躓かないな」
「ん? どうせその辺のプレイヤーじゃあブーメランを首にピンポイントに当てるなんてことできないでしょ。首以外ほとんど隙間なくプレートアーマーが覆ってるし、まああと強いて言うならその視界を確保するための隙間から針みたいな細さの何かを差し込まれないように注意しなきゃってくらい?」
「まあそんなところだろうな。よし! 残りの時間で石の生成の練習でもしとくわ! ありがとな、ボーロン。明日頑張れよ!」
「いやいやこちらこそ盲点だったところを確認できてよかった。お互い頑張ろうな!」
俺はクランハウスに戻った。
今魔法を付与したのは左右のアンクレットとネックレスだが、他にも頭、胴体、ズボンの部分、ブーツ、ブレスレッド、盾など魔法を付与出来る部分は多くある。
もちろんMPの都合上一度の試合でそこまで多くの魔法を放てるわけではないが、魔法を放たなければMPを消費することはない。
それぞれの部分に汎用性の高そうな魔法を発動できるようにしておく。
魔法の種類が増えると厳しいのはボイスコマンドが使えないことだ。普通の魔法はウィンドウから操作する、またはボイスコマンドから名前を叫ぶことで使うことが出来るが俺はそれができない。
何らかのアクションをトリガーにするしか無いのだ。さっきボーロンに毒を付加したときのトリガーは「両手を触れさせること」だった。
しかし魔法の数が8個とかになるととても覚えられない。もう「魔法陣に触れたら」でいいか。どうせ魔法陣はそんなに大きくないし、自然に触ってしまうことはない。
ついでに魔法陣の存在がバレると厄介だから魔法陣の色をミスリルと同じ薄灰色にしておこう。
掲示板などで魔法の情報を漁ると思ったより知らない魔法があるな。よく考えてみれば状態異常「麻痺」を付与すれば相手を一定時間動きを止められるからそれとスタンブル・ストーンの効率の比較なんかもしないといけない。
なに、麻痺がかかる確率は30%なのか。毒と違って必ず成功するわけじゃないんだな。
今まで対して戦闘に関わってこなかったせいで想像以上に戦闘に対する知識が無い事が分かった。特に俺のパーティーの5人が普段使わない技術などは全く知らない。
そのあたりのことについてもっと詳しく調べなければならないがそろそろ23時だ。今日はログアウトしてまた明日にしよう。
ちなみにILの公式サイトによるとイベント期間中、イベント専用のフィールド内ではいつもの一日6時間のプレイ時間の制限がなくなり何時間でもログインできるようだ。しかし一歩フィールドから外にでるといつもどおり制限時間がカウントされる。
つまりなるべく専用フィールドにいて、必要なときだけ出るようにすればプレイ時間制限に引っかかることはないわけだ。
仮にフィールド外で制限時間が切れてもレメント王都内であればフィールドに転移するかどうか選べるらしい。
明日、明後日と土日を使って行われるこのバトルトーナメントはゲーム外でも公式サイトから中継され、外部端末から見ることも可能だ。
ILはサービスが開始されたばかりのゲームで注目が集まっていることもあり、プレイヤーでなくても楽しみにしている人が結構多いらしい。
俺も実際自分が出場することより観戦のほうが楽しみだ。うちのパーティーのなかで誰か一人くらいトップエイトに入らないだろうか。とは言え、過去に一度エリウムがトップ4に入ったことがある以外、あまりうちはPVPが得意な方ではない。
プレイヤースキルともかく、スキル構成がどうしてもPVE向けだから。
朝7時に起きた俺は早速ILにログインした。トーナメントのバトル開始は10時だが、確かイベント会場は6時から開いていて自由に入ることが出来る。
早速会場の下見をしに行った。
「おはようございます!」
と言われながら背中を叩かれた。べリリーに見つかったようだ。
「おはよ。他のみんなは?」
「ティウとエリウムはそれぞれスタジアムの中に入って様子を見ているようです。ノブラックさんはさっき挨拶してきましたけど何をやっているかはわかりません。ボーロンはまだINしてないっぽいですねー。」
「なるほど。俺もスタジアムの様子が気になっていたから行って来るわ。ベリリーは?」
「じゃ、私も一緒に行きます!」
暫くベリリーと共に戦闘する場所の下見や、スタジアムの施設の確認をしたあと俺は今日の試合の予定の確認をした。
トーナメントバトルと言っても最初からトーナメントが始まるわけではない。
まずランダムに3回プレイヤーと戦う。その時に1回でも勝てた人はトーナメントに参加できる、という仕組みになっている。まあ要はお試し参加の人でも最低3回は戦えるようにっていう配慮なわけだ。
確認したところどうぐ使いの参加は全部で2000人ほどだ。全体のプレイヤー数がおよそ10万であることを考えるとかなり少ない。
とはいえ、戦力差がつきにくいとされるどうぐ使いは、始めの3戦で脱落する人がかなり少ないだろうという話だ。
最終確認をするために、俺は一度クランハウスに戻って道具の使い方を復習しておこう。
そう思ってクランハウスに戻ったら、ノブラックがテラスの上で寝っ転がっている。
「……何やってんだ、お前。別にいいけどさ。」
「いやなに、簡単なことさ。本番前、今更やることもないし、リラックスするにはどこがいいかって考えたら、結局ここでこうして花壇の花と噴水を見ているのが一番落ち着くんじゃないかと思ってね。」
ノブラックなりの本番前の準備ということか。
結局その後俺も30分ほど隣で休ませてもらった。
9時45分、トーナメント参加者はスタジアムの受付でルールの確認を受けたあと、受付の机の上の水晶に触れてスタジアムに転移した。
一度に何千人もが戦うため、全く同じ構造のスタジアムがいくつも作られているらしい。おそらく別サーバーに臨時で建てているのだろう。
そのうちの一つのスタジアムの控室に俺は飛ばされた。
そして控室のモニターに「5分後にフィールドにご入場ください」という表示がある。
だんだん緊張してきた……。気分は学校の試験前のようだ。多分大丈夫だけど、やはり不安もある。
だんだん手から汗がにじみ出てきた。大丈夫、昨日確認したとおりにやればいい。上級プレイヤーのボーロンにも勝ったんだ。
ディスプレイの表示が変わった。同時に音声アナウンスも流れる。
「入場してください。今から3分以内に入場しない場合棄権とみなされます。」
よし、行こう。
何故か結局参加することになった、人生初のVRでのPVPへ!!!!




