【番外編】正月イベント1
本編がうまく進まないならいっそ読み切りの番外編を書こう、ということで書きました。
前話までは主人公たちの現実世界の方では7月あたり、という設定でした。今回の話はその五ヶ月後の様子を描いていますのでこれまでに出なかったものが突然出てきているかと思いますがご了承ください。
番外編、となっていますが将来的に主人公たちのリアル時間が1月に達しましたら本編として組み込む予定です。
~一応人物の名前等再掲~
ロージェ 男子 主人公 どうぐ使い
エリウム 男子 チームリーダー 吟遊詩人
ボーロン 男子 情報収集担当 騎士
ノブラック男子 謎な性格 神官(の割に攻撃的)
ティウ 女子 クランハウスの庭園担当 魔法使い
べリリー 女子 ???? 盗賊
1月3日、俺達は今日から始まる新しいイベントに挑むことにした。
このゲームでは年越しの時はILにログインできない人も多いという想定なのか、正月イベントが始まるのが3日からであった。
イベントの内容は単純だ。各地で開かれた転移ポータルから「イベントダンジョン」に飛ばされ、そこで敵を倒すとイベント限定アイテムを手に入れることができ、そのイベント限定アイテムを加工すると「イベント用ガチャ券」なるものと交換できるようになる。
その「イベント用ガチャ券」をイベントダンジョン入り口の「賽銭箱」に投げ入れると、天からの恵みとしてアイテムが降ってくる、ということだ。
さらに神社に届けた景品の数に応じて武器がもらえるようだ。まあ、武器は内容を見たら大したものでもなかった。
なんというか、多くの要素を詰め込みすぎている感じが否めないし、なんでさいごアイテムを賽銭箱に放り込むんだ……?
まあ、運営が設定したことならおとなしく従うしか無い。
何より、そのイベントガチャから手に入る物がなかなか高性能なのだ。
ガチャから手に入るものも他のアイテムのようにランクがD-からS+まであり、それぞれ出やすさと質が異なる。
おそらくメインで狙うべきはBランクとAランクに属している「お守り」だろう。
このお守りの効果発動条件は、プレイヤーのインベントリに入っていること、というだけだ。つまり他の装備を圧迫することなくプレーヤーを強化できる。
俺たちは既にどの部位でも宝石が満載だし、ここから装備数を増やすというのは不可能に近かった。
しかしこのお守りならまだまだ強くなれるのだ。といっても、インベントリの中にお守りが多く入っていてもその分効果が大きくなるということはない。
具体的な効果としては、主に「X%の確率でXXの状態異常を防ぐ」や「XX%の確率でXXの威力がX%アップ」などらしい。
状態異常に関しては殆どは装備で耐性がつくから、メインターゲットは後者の方になるだろう。
そして、なぜかSランク、最上等の景品の中に「炬燵」なるものがある。一体なんだろうかこれは。中学生の時に日本史の授業だったか何かで見たような気がするような……。
そう思ってみんなに聞いてみるとエリウムから
「知らねえの? まじかよあははは!誰でも知ってると思うぞ。俺も実物は見たことねえけどな」
と笑われてしまった。そんなに常識的なことなのだろうか。
とはいえ実際その炬燵とやらを手に入れてから見てみればいいと思ったため特にネットでは検索していない。ちなみに炬燵というのはプレイヤーハウスの中に置く家具か何かのようだ。なにか特殊な効果もあるらしいがそれは公開されなかった。
お、そろそろみんな揃いそうだな。
6人が揃ったところでILにログインし、すぐさま装備を整えてイベントダンジョンに向かった。
イベントダンジョンは難易度選択制で、自分達で自由に難易度を選べるようだ。俺たちはもちろん初っ端から最高難易度を選んだ。
ダンジョンの内部は和風な作りだった。床は木でできており、壁にはところどころ障子がある。灯りは提灯だ。
ただダンジョンの中にいる敵はそこまで普段と変わった様子はない。ただ、初っ端から異様に数が多い。
数の割に敵からの攻撃が強くないと感じたため俺とノブラックは攻撃を交えながらみんなを支援していくことにした。
少し暇になったら俺はすかさずミスリルの投げナイフを連投する。
ノブラックもリバースヒールを使い硬い敵のHPをゴリゴリ削っていく。
何度やってもミスリルナイフの連投は本当に楽しい。秒間2発、最高級の金属を惜しげもなく使ったナイフを投げるのだ。本当に贅沢なことをしているという自覚はある。しかしミスリルは余って余って仕方がないのだ。
ちなみにこれは、一秒間に8000G分が消し飛んでいる。まあ原価はほぼゼロだから問題ないのだが。
思ったより単調な作業になりそうだな、と誰もが思っていたとき。
突然天井から餅が降ってきた。
比較的柔らかく、ベタつくタイプのもののようで地面に落ちたそれらを踏むとうまく動けなくなる。
「おい何なんだよ、状態異常『べたつき』って!」
「何よこれ! 気持ち悪いぃ!」
「うわっ、うまく歩けない……」
餅を踏んだエリウムと、ボーロン、そして頭の上から餅を被ったティウが声を上げた。
こんなことをやっている間にも敵は次々に押し寄せてくる。
戦況は非常に悪くなった。特に前衛がうまく動けなくなったのだ。
「あの、火魔法で焼き払うといったことはできないのでしょうか?」
べリリーが提案する。早速ティウが……
杖に餅が絡まって魔法が使えなくなったらしい。仕方がないので俺がインベントリから適当な火の魔法を打てる魔法陣を出し、設置した。
「ファイアリング! っと。」
餅のついた地面に小規模な日の輪が現れ、そこにいた敵にダメージが入る。しかし餅は全く燃えなかった。
「ひょっとして食べられるんじゃないのか?」
ふと思いつき、食べて見ようとしたが、口に入れようと思ってもうまく入れられなかった。どうやら無理なようだ。
どうしようもないためなんとか躱し、極力速く移動しながらボス戦までたどりついた。
ボスとの戦場でもまた餅が降ってきたが、ボス一体とであれば移動しなくてもなんとか戦えるためなんとか耐えた。
ダンジョンを出ると体中に着いていた餅もすっかり消えた。
みんなでドロップ品の確認をする。
主に手に入っていたのはもち米の種もみ、だ。まさかこれをそだてて餅を作れというのか……?
一先ず他のものも確認すると、竹や裏白、ユズリハという植物、木(正月イベント用)の他に藁などというものも手に入っていた。
一体何に使うのだろうか、と思いつつイベントダンジョン入り口の大きな神社にいるNPCに話しかけると、
「おお冒険者の方か。頼みがある。実は毎年この神社では多くのお正月飾りを作って飾っていたし、配っていたんだ。しかし先月、突然多くの魔物がこの神社を襲った。幸い誰も怪我はなかったものの神社に保管してあった正月飾りを作る材料と鏡餅を作るもち米が奪われてしまったんじゃ。
方角からしておそらくあそこの迷宮の中に魔物は逃げた。あれを取り返してきてはくれないか?さらにもうそれらを加工する時間が無いから加工した物を持ってきてくれると助かる。もちろん相応のお礼は用意しよう。」
なるほど、つまりいま手に入ったのはお正月飾りの材料か。
これを使って物を作り、神社に届ければおそらくイベント用ガチャ券が手に入るということか。
俺たちは実際にクランハウスに戻って手に入れた物の加工を始めた。
「いくらイベントに生産型プレイヤーと戦闘系プレーヤーの両方を巻き込みたいからってこれはキツイよな~。ああ!クソ!また失敗した!」
エリウムは門松を作っているようだが、形が悪いとD-の品質にもならずに素材を失うようだ。
「一応素材だけでも引き取ってくれるみたいだけど、あれじゃあ本当に効率悪そうよねー。あ、できたできた!」
ティウは結構器用だからな。輪飾りのようなものを完成させたようだ。
その時、突然眼の前を矢が通り過ぎる。
「ふふ、これ面白いですね」
「破魔矢で遊ぶなって……。」
べリリーがふざけて、俺とボーロンの前を通り過ぎるように矢を放ったようだ。
こんなことして罰は当たらないのだろうか。
そんなことを考えつつ、俺とボーロンは稲作をしていた。稲作と言っても植木鉢でできるし、稲は面白いほどにょきにょき育つ。
俺たちは最高難度のダンジョンをクリアしたこともあり、かなりアイテムの数は多く獲得している。それだけに加工にも多くの時間がかかりそうだ。
ティウとべリリーは流石女子、と言ったら失礼だろうがかなり器用で次々に品を完成させていったが男子勢はボーロンを除いて全滅だった。
俺も輪飾りとか挑戦したけど、全然輪にならない。歪んだ楕円というより、じゃがいもの輪郭といったほうがしっくり来る出来上がりになった。これでもD-の品質にはなったが。
もち米の稲は20分ほど経ったら収穫できるようだ。
早速巨大な植木鉢から収穫して神社から借りれる脱穀するための臼を使って脱穀し、炊いて餅を着いた。
「おおおーーー楽しいいい!」
エリウムが杵で餅をついている。
つくため度にべったんべったんといい音が鳴っている。本当に楽しそうだ。
暫くついていると「餅(正月イベント用)」というのができた。品質はCだ。
さて、ここからが本番だ。いまのでだいたい全部の工程は頭に入ったし、ここからどうやって効率化していくかだな……
餅は全部自動で加工できそうな気がするぞ!




