市場調査
俺はログインした後一目散に市場に駆けた。
昨日ポーションを売却するときに見た安価大量出品が単なる在庫処分の投げ売りなのか、それとも大量生産に成功した者が現れたのかを調べるためだ。
もし今日も低価格で大量に出品されていたら量産に成功したものがいることが確定するだろう。
まあ魔法陣の構造自体そこまで難解なものではないし、いずれ誰かが自分と同じようなことをするだろうと予想はしていた。
市場を覗いてみると……
やはり、240Gという低価格で1000個近く出品されている。
量産に成功したプレイヤーが現れたことはほぼ確定だ。しかし、どの程度の量のポーションを一日に作ることが出来るのだろうか。
俺は今一日に5000個程市場に流しているが、これは毎日すべて売り切っている。前に一度三日分をまとめて放出して、一日の需要を計測したら1万個前後だった。
つまり、もし俺以外のHPポーションを量産している「誰か」が5000個未満の生産量であればそこまで気にすることではないということになる。
ちなみに、HPポーションの原価は100Gに満たないので仮に今の相手に値下げ合戦で対抗したとしても赤字になることはまずない。
取り合えず市場をひっかき回して相手の出方を伺うとしよう。
やり方は単純に、今まで俺が出していたポーションの価格より低いものをすべて買い取る。
出品していたものがすべて完売した相手はまたすぐに売りに出すだろうからそれもまた買い取って…と言うのを一日の間ずっと繰り返していく。
その買い取った個数がおおよその相手の生産量だ。
ちょうど今日土曜日だから細切れにILにINして、今日の夜までに調べてしまおう。
思っていたより数が多かった。今リアルの方で23時を回ったころだが、ここまでですでに6000個程を買い取ってきた。
状況が芳しくないな……
次に調べなければいけないのは相手のポーションの原価か。
もしこのポーション原価が高いのであればやはり値下げ合戦で勝てるということになる。それならこっちが今まで以上に安く大量に売ればいいことになるな。
これは単純にこちらの出品の値段を次々に下げていけばいい。
そして自分より下の価格で出品してこなければそこが相手の材料原価と言うことになる。
この調査で怖いのは最悪の場合ポーションの価格が平時の半分ほどまで落ちるということか。
そうなると相手の出方を伺う以前に冒険をするプレイヤーが大量に買い込み、供給が追い付かなくなるかもな。
まあそうなったら、自分より安く出品された相手のポーションを瞬時に買い取りより低価格で出品して……と言うことを繰り返して在庫が切れないようにしよう。
この方法だと相当な赤字を生むことになってしまうがそれも仕方がない。
明日は日曜日だから今日と同じように細切れでログインしてやってみるとするか。
相手を完全に舐めてた…
結局相手もこちらと同じような方法でポーションを作っているらしく、最終的に値段を150Gにしたところ相手は148Gで出品してきた。
相手もこれ以上の値下げは利益につながらないと判断してここで止めているのだろうし、実際の損益分岐点はもっと下の可能性が十分にある。
これはもうお互いに互角の生産力だ。
どうしたものか……
考えられるのは、HPポーションを生産するのは諦めてMPポーションやその他状態異常対策アイテムの生産に舵を切るか、こちらがほとんど利益を出さずにHPポーションを売り続けて相手が諦めるのを待つか…
しかし前者だといずれそれらのアイテムも価格競争を強いられることになり、後者だと独占状態を維持できても異常な薄利多売となりGを稼ぐという点で非常に効率が悪い。
ふと思った。そもそも今の材料原価自体を下げることはできないのか?
HPポーションに必要な材料は薬草と瓶である。瓶は一つ8Gとかそこらの低価格で手に入るが、薬草は雑貨屋で75G固定で手に入る。ちなみに品質はCだ。
ひょっとすると、薬草は栽培することが可能なのではないだろうか。
もし今までのポーションと同じように薬草を低価格で栽培することができたらほとんどHPポーションの原価は無くなるようなものだ。
そんなにうまくいくこともないかもしれないが挑戦して見る価値はあるな。
よし! しばらくは植物の栽培について研究してみよう!
早速取り掛かりたいところだが市場でウィンドウを操作ばかりしていてなんだか疲れてしまったのでちょっと他のことがやりたくなってきた。
残りの五人は……いまも無限迷宮で戦っているのだろう。なんといってもイベントの試合が近づいてきているから、みんないい装備を作るための素材集めに必死だもんな。
気分を晴らしたいので俺は昨日ボーロンに聞いた面白そうなクエストを受けてみることにした。
冒険者ギルドに来るのも久しぶりだな……
一体ここに前回来たのはいつだっただろうか。もしかするとこのゲームを始めたばかりの時のゴブリンを討伐するクエストが最後だったか?
まあいいや。とりあえず受付嬢さんにいま受けることのできるクエストについて聞いてみた。
ちなみに受けるクエストは個人だとそれぞれのギルドランクに応じた難易度のものしか受けることができない。つまり俺みたいに生産ばかりしていてモンスターを倒していない者は高難易度のクエストを受けることはできないのだ。
しかし、クエストはパーティー単位で受けることのできるものも多い。これらはそのパーティーのランクを平均したもので受けられる難易度が変わってくるため、俺の場合自分の実力以上のクエストを受けることができるようになるわけだ。
「本日はこちらのクエストが冒険者に依頼されています。どれか受けられますか?」
「じゃあ、この『山道を復旧せよ』をお願いします。」
クエスト:山道を復旧せよ 土砂崩れでふさがってしまった山道を復旧する
「わかりました。では頑張ってください!」
このクエストは定期的に発生するもののようで、攻略方法もある程度出回っている。
掲示板などで見る限り、難易度はそれなりに高い。
オーソドックスな方法では、風魔法で大量の土砂を飛ばし、STRの強いものが大きな岩をどかしていく、という感じだろうか。
ひねくれたものになると、ひたすら水を流し続け、泥水として土砂をどかすというものや、火魔法と氷魔法を岩に交互にぶつけて割るといった方法もある。
とりあえず現場に言ってみよう。アレを持って。
現場について見ると、想像していた以上にひどい。とちの起伏が激しいため丘になっているところは切り通して道にしているが、そこを周囲の木々共々大量の土砂がギッシリと埋めてしまっているのだ。
これは普通に魔法とか力任せにやろうとするとかなり大変だろうなぁ…
そう思いながら周囲を念入りに観察していく。
どうやら予想していたとおり地面や丘はすべて硬い岩でできているようだ。まあそう簡単にプレイヤーに地形変更させるわけにも行かないもんな。
さて……と。俺は俺のやり方でとっととクリアするとするか。
いつも鉱山採掘で使っているブレイズ・デトネーションの魔法陣と、ディグ・ディープリーの魔法陣を取り出した。
それぞれ6個セットで持ってきているし、強い爆発を起こすように魔法陣を書き換えてきた。
土砂の中心に向かって穴をほって、そこにブレイズ・デトネーションの魔法陣を放り込む!
時限式で爆発するようにセットしてあるからあとは待つだけだ。
大量の砂が空気中に飛びそうだから風魔法陣を用意しておいて、と。
3、2、1!
とてつもない地響きとともに莫大な量の土砂が空気中に噴き上げた。まるで噴火のようだ。
気分爽快!
しかし本当に噴火みたいだな。火山弾の如き岩も空気中を飛んで…
気がついたら俺は自分の家の中にいた。