初めてのイベント
今回から3章に入ります。
俺は学校から帰ったらさっそくILにログインした。
今日は確かイベントの詳細が発表される日だ。と言ってもイベント自体の告知がなされたのが昨日の夜だったが。
イベントの告知は最初ゲーム内で行われ、その5分後くらいにゲーム外の運営公式サイトで発表される。なるべく多くの人が参加できるように発表は20:30からのようだ。一体どんな演出なのだろうか。
物によって俺が参加するかどうかが変わってくるんだよな。戦闘系は……。
まあイベントが始まるまで待つとしよう。みんなも順番に入ってくるはずだ。
ひとまず日課になっているアイテム数の調整と売却を行っていく。若干HPポーションの値下がりが収まったか?
そして再び鉱山に出かける。やはりミスリルはいくら合っても足りないのだ。何気に他のよく使う金属も大量に手に入るし。まあミスリルも市場に出回ってきてはいるのだが。
生き物に近づくのが苦手な俺でもゴーレムなどの無機物にはほとんど抵抗がないから助かる。ゲーム内だと昔戦ったフォレストウルフとかウィンドモールみたいに弱ければ良いのだが、強い虫とか毒の攻撃をしてくる虫とか芋虫型の虫とかは絶対ムリだ。
虫は嫌い。
ダンジョンに入ったらいつもどおり魔道具を使いながら進んでいく。効果は薄めだが料理なんかでも素早さが少し上げられるそうなので持ってきた。
どうやらこのゲームでは、長時間弱めのバフを料理で付けて、短時間高効果のバフを神官が、チーム全体や敵全体にバフ、デバフを掛けるのが吟遊詩人というような使い分けが一般的のようだ。
料理に関しては入っている栄養素の量で効果が変わってくる。栄養素と言っても中学校でやったような5大栄養素らしきもので分類されているだけだ。例えば肉類はタンパク質が多いので攻撃力が、野菜はビタミンなのでHPが上がる、と言った感じだ。
特にそれぞれの栄養素と実際に上がるステータスに関係性は無いな。炭水化物を摂ったら防御力が上がるとか意味不明だし。
そんなわけで俺は無機質が多い「ミネラル・ウォーターC」というものを飲んでダンジョンに入っている。効果は30分と割りと長めだ。
このミネラル・ウォーターなんかそうだが、最近オリジナルアイテムが増え始めている。ユニークアイテムというのは各自が自由に開発して作るアイテムで、膨大な種類のアイテムを作ることが可能になっている。
薬剤師とか鍛冶師、魔道士なんかもそのうち出来るようになるはずだ。
ん? もしや魔道士Lvが上がったら自由に魔法陣の中身をいじれるってことが世間に広まったりするのか……?
そうなるとかなりまずいことになるな。まあ今のところそうなっていないところを見ると魔法陣の中の文字のシステムまで明かされるっていうわけではなさそうだが。
取り敢えずアイアンゴーレムを倒すことができた。だんだん慣れてきたな。運命の採掘時間だ。
今回は実験がてら採掘するための魔道具を持ってきた。
単純にティウが使っている「フレイム・デトネーション」を発動するだけの魔法陣だ。これを使って壁を爆破してみたらどうなるのかやってみたかったのだ。
これを一回使うと魔石C+が一個まるまる持っていかれるので無駄打ちはできない。取り敢えず地面に向かって放ってみた。
うわ!? 自分もそれなりにダメージを喰らってしまった。フレイム・デトネーションの使いにくさをカバーするためにみんな連携してたのを忘れてた……。
まあ魔法陣から使うと数段威力は落ちるのでそこまで問題ではない。そしてそれなりに大きな穴が空いていた。
結構鉱石らしきものが大量に落ちているが、「小石材D」や「小鉄鉱石C-」など小さいものばかりが落ちている。まあ爆発させているから仕方が無いものの結構拾うのに時間がかかるぞ。
石材はいらないので鉄と銅を急いで回収した。これは石材が多めの表層でしか使えないな。そこからはいつもどおりにツルハシで掘っていった。
拠点に帰る頃にはリアルで19時になっていたため一旦落ちる。そして20時に再び戻ってきた。
あと30分か……。今のうちにちゃちゃっと錬金で金属を精錬しておこう。忘れていざ魔道具を作ろうとしているときにミスリルがなかったりすると萎えるし。
「お! 20:30だぞ!」
エリウムが教えてくれた。その瞬間、システムメッセージで「イベントの詳細を知りたい方は外出してください」と出た。
急いで外出すると外におそらくレメント国の兵士らしき人がちらほら立っている。
「都民よ! よく聞け! 今からレメント様がお話になるぞ!」
お? なんだなんだ。兵士たちが叫んでいるな。どうやらそこら中に立っている兵士が一斉に叫んでいるようだ。
なんだか都民って言うと東京都民ぽいな。実際はレメント王都民ってことなんだろうけど。
で、どうやって王様が話すのだろうか。まさかの街全体に聞こえるように大声で叫ぶわけではないだろう。そう思っていたら……。
「皆の者、聞こえるか。我こそが現レメント王都国王のオレキュール・レメントだ!
これは我が国で開発された特殊な魔道具を使っている。実際、我は王室の中にいる。声のみが諸君に届いていることと思う。」
おおお……。そういう感じできたか。
思ったよりは地味だな。上空にデカデカと王様の像が出現するよりはよっぽどマシと言うか、現実的と言うか。最近そういうの多いしな。
「最近我が国がハーロブに大きめの港を開港し、外国から人が行き来しやすくしたところ大変多くの迷宮探索者が来てくれた。
これにより、これから我が国もより栄えていくことだろう。そこでだ、今回メメント城の地下にある闘技場にて、 バトルトーナメントを行おうと思う。
目的は探索者はお互いで競い合うことによってより強く逞しくなってもらうということだ!」
なるほどそういうことか。まあ強くなってほしいというのは建前で実際には運営が PvP のないこの世界でプレイヤー同士を競わせるためのイベントの口実だろう。
「さて……演説も終わったことだし一休みするかな……。今から探索者同士のバトルを見るのが楽しみだ。ハッハッハ」
おーい、レメント様、何か漏れてますよー。
明らかにスピーカーのような魔道具を持っている兵士たちが戸惑っている。これはあれだな、よくライブ放送とかでやる放送の切り忘れみたいなやつか。
ってか、結局王様が楽しみたいだけだよ。しっかり裏設定もできてるんだな。
「あ!……」
今気づいたようだ。もう少し裏事情をペラペラ喋ってくれることを期待していたんだけどな。まあ仕方ない。
さて、そういうわけで今回俺は……
パス!!
即決定!
俺戦闘まじで無理だし仕方がない。仮に魔道具を使えたとしてもそれをうまく使いこなせる自信がないし、無駄に技術を外に漏らすだけになってしまう。
だったら出ない方がマシだ。前作からPvPイベとかレイドイベとかは不参加だったもんな。
報酬は結構いいものだが諦めよう。2回以上連続で戦闘系のイベントが来るということはまずないし。次回は探索系か生産系になることを期待しよう。
「みんなは参加するのか?」
おれが聞いてみた。
「どうせまた不参加はロージェだけじゃないのかね」
ノブラックがそう返事をした。みんな頷いているし。
おまけに戦闘系のイベントは一番俺にとってメリットがない。前作みたいに強い武器を作っているというのだったら一番の売り時となることもある。
しかし今作で俺が作っているのは消費アイテムだ。
一般的に考えてイベントで消費系アイテムが使えるということはないだろう。
イベントというのは生産職にとって一番の儲け時にもなるからなんとか稼ぐ方法を考えたいな……。
HP ポーション、 MP ポーションの需要も減るだろうし。
そんなことを思っていたらみんなはまた今から無限迷宮に出かけるようだ。なんでもまだ誰も倒していないボスに挑んでいくのだとか。
ボスに到達したらまた俺がポーション転送係やりますかねー。他にできる人いないし。
いつかこれも自動化したい。インベントリにアイテムが入っていなければすばやさが上がるようだから何かすごい小さなものを携帯して、それが転送されたことを感知したら HP ポーションを送るみたいな感じになるのかな。
あ、あでもその小さいものを転送する手段がないのか。そうしたら今度は極小のアイテム転送機を用意しないといけないな。
まだまだこれからやることが増えていきそうだ。そんなことを考えながらいつも通りマナタケの加工を始めた。




