対ゴーレム戦
ブロンズゴーレムと対峙する。まず確かめるべきは風属性のブーメランが効くのかどうかだ。
相手に投げると甲高い金属音とともに弾き返されてしまった。しかし微量ながらに相手にダメージを加えることができたようだ。
150回くらい攻撃を加えればいけそうか? そうなるとひたすら持久戦をこなしていく必要がある。しかし相手からブロンズ・ショットが飛んでくる。名前の通りで直径一センチくらいの銅の塊が数個飛んで来るのだ。
避ける反射神経も持ち合わせていないので食らう瞬間HPポーションを使用する。相手の予備動作で魔法を打つタイミングは分かるのだが……
なんとか搦め手を使ってでも相手の攻撃を妨害できないだろうか。考えながらも着々と風属性のブーメランを相手にぶつけていく。
例えば電気だったらあいつの体に通りそうだが……起こす方法はない。あ、相手の関節に何かを挟めば動きが止まるんじゃないか?
相手の関節はどういう原理で動いているのかは分からないが若干隙間がある。あそこに何かを挟んでしまえば動けなくなり、少なくとも距離を取ることは簡単になるだろう。
挟めるもの……今あるのはちょっとした素材と短剣くらいか。あと他の属性のブーメランもあるな。ここは差し込むのが簡単そうな短剣にしよう。
どうやって相手に近づこうか。おそらく近接の物理攻撃をあいつから食らった瞬間こっちのHPバーは消失するだろう。効果があるのかは分からないが前に市場で買っておいたあれを使うか。
タイミングを見計らって俺は「煙玉C」を使った。相手の横と、今時分がいる場所の二箇所に投げられたそれは地面に着くやいなや真っ白い煙を発する。
視界は無いがなんとか相手のところに走り込む。どうにか音を立てずにたどり着いたようだ。
相手の太い足が見た。その関節のところに木の短剣を二本ほど差し込む。そして大急ぎで相手から離れる。
煙が引いてさっき自分がいたところを確認すると地面が少し陥没していた。どうやら相手が俺を殴ろうとして、そのまま地面に衝突したようだ。
怖いなんてものじゃない。もしこれが現実だったら全身冷や汗で凄いことになってるぞ。
しかし相手を見てみると足をうまく動かせなくなったみたいで動きが止まっている。これなら距離を取って遠距離から攻撃がしやすくなるな。
あとはひたすら同じことを繰り返した。相変わらず魔法は飛んでくるもののほとんど立ち位置は変更せずに、ブーメランを投げ続けた。
あいてのHPバーが半分に達してからはブロンズナイフなるものが飛んで来るようになった。だから避けられないんだって!!
ぎりぎり当てられても耐えられる装備だったのでこれもなんとかHPポーションでカバーする。
しばらくしてようやくブロンズゴーレムを倒した。長かった……。
相手からは「銅のインゴットC」を10個もドロップした。これはかなりうまいかもしれない。しかしこの先が不安だな。次のボスに太刀打ち出来るのか?
せっかくいま安置にいるので少し魔道具を作っておこう。ついでに自分の防具を防御力上昇から土耐性に変えておく。
11階からはブロンズゴーレムがザコ敵として出現するようだ。もちろんさっきのボスのやつよりは二回りくらい小さいがそれでも対等に戦えるはずもないので無視して先に進んでいく。
途中にある宝箱などもすべてすっ飛ばしていく。解錠する道具やスキルなども全くない。
先にあるものにビクつきながらもなんとか15階のボス部屋まで到着する。6人の時はエリウムがすべて指揮していたが、その状況判断がいかに凄いことか改めて思い知った。
扉の中に入って退治していたのはアイアンゴーレムだった。いや、もうなんというか、頑張るしか無いな。
取り敢えずは状況確認だ。いつも通りブーメランを投げつけるもほとんど効かない。次に煙幕を使って敵に近づいてみる。
なんとか無事に相手の足の関節に短剣を挟むことに成功するもすぐに強引に粉砕され、消えてしまった。
やっぱりさっき作ったこれを使うしか無いか。
俺はインベントリから取り出した合金板を相手に向ける。これは使用すると風魔法攻撃を正面に放つ。効果をウィンド・ウェーブ、対象を上方とした。
魔道具から魔法攻撃を発することのメリットはどの職業の人でも魔法攻撃を使える、ということだ。デメリットは消費MPの量に応じて効果が決まる、ということだろうか。
もちろん本職の人より遥かにMPを使うため最大MPの多い神官だからといって本職ほど打てるというわけではない。
相手に向けてウィンド・ウェーブを放つ。緑色のきれいなエフェクトともに空気が波打ちながら相手に向かって放たれた。
自分のMPはほとんど半分持っていかれた。とんでもなくコスパが悪い。
相手のHPが5分くらい削れただろうか。同じものを20発ほど当てれば倒せそうだ。
しかしアイアンゴーレムはその見た目に反して今までのゴーレムよりも機動力に優れている。
これでは魔法の代理詠唱――魔法陣を発動してから実際に放たれるまでの時間――に攻撃を食らってしまう。
詠唱中は移動こそ出来るが走ると解除されてしまうし、HPポーションを使うこともできない。出来る限り距離を取って魔法を放っていこう。
MPポーションでMPを回復しつつ5回ほど打ったとき、相手からアイアンナイフという技が放たれる。これは流石に喰らったらひとたまりもない。
かと言って撃ち落とす方法もないので今持ってる金属板をナイフが来る方向に向けた。
大きな衝撃が腕を伝ってくる。3本ほど飛んできたがすべて守れたようだ。しかしこの金属板も盾の代わりになるということか。
裏返していたので魔法自体は問題なく打てるが若干合金板が曲がった気がする。しかし直している暇もないので今まで通りひたすら魔法を打っていく。
とにかく動き続ける。ゲーム内で直接スタミナの値を見ることはできないが体感的に分かるようになっている。次第に動くのがきつくなってきた。こっちが動けなくなるのが先か、相手が倒れるのが先か……
ほとんど何も考えず、長距離走を走っているときのようにただひたすら同じ作業を続けていたら、いつの間にか相手のHPはゼロになっていた。
勝った。
ボスが「鉄のインゴットC+」を10個と「ミスリル鉱石C-」1個をドロップした。さて、この先にも採掘場があるのだろうか。
行ってみるとおそらく外につながっているであろう魔法陣が奥にあり、手前には大量の採掘ポイントがあった。これ全部掘り放題ってことか!?
取り敢えず地面にある採掘ポイントを掘ると「石材D」を獲得した。更にその下にも採掘ポイントがあるな。
下に下に掘ると手が届かなくなるので降りれるように周りも掘ってと。坂になるように掘っていくとようやく「ミスリル鉱石D」を獲得した。鉱石系統のものはランクが高ければ高いほど純度が高い傾向にある。
「ミスリル鉱石C」が出始めた頃、地面が揺れだした。近くにゴーレムがいるのかと思ったが、何かが動く気配はない。なんだろうと思っていると壁の一部が崩れだした。
もしかしてここに長くいると落盤するのか! それまでに多くの鉱石を取ることがここでは重要、ということだったのかもしれない。
おそらく落盤に巻き込まれるとダメージを喰らって死ぬのだろう。しかしせっかくここまで深く掘ったのに脱出してしまうのはもったいないな……
急いで掘りつつ、限界まで粘ることにした。しばらく下に掘っていると突然とても硬い鉱石にぶつかった。これは今の段階じゃ掘れないんだろうな。そう思っていると天井に大きなヒビが入った。
俺は全力で転移魔法陣に向かって駆け出した。欲を出しすぎたか。なんとか間に合うかどうかというところで上から大きな岩が落ちてきた。
頭にぶつかると同時にHPポーションを使用する。なんとか持ちこたえたな。流石にゲーム内で体が押しつぶされるといった描写はなく、どんなに重いものでも当たってこちらが倒れなければ弾き飛ばされるだけで済む。
横に飛ばされつつ、なんとか転移魔法陣に乗った。危なかった……
とんでもない大冒険をした気分になりながらクランハウスに帰るとみんなも帰ってた。
「ロージェ! お帰り!」
「ただいまー」
エリウムはいつも一階のリビングに居て、誰かが出かけたり帰ってきたりすると声をかける。
「ロージェ、レメント鉱山の下見に行ってた? それにしては遅かったみたいだけど」
ボーロンが二階から降りてきた。
「ん? ボスを倒して来たが」
「え!? あそこ推奨Lvは28Lvってギルドで言われたんだけど?」
まじかよ。俺はまだ18Lvだぞ。しかも途中で結構Lv上がっていたから入ったときは15Lvくらいだったんじゃないか?




