MPポーション生産の効率化(4)
俺は今、王都にある卸売市場に来ている。ボーロンから教えてもらったのだが、ここでは大量のアイテムをまとめて安く買うことができると言う。
思えば量産と言う生産方法の一番のメリットは素材を大量購入することによって原価を下げる、ということであった。
今まで材料費は雑貨屋から買っていたから割りと高くついていたということになるだろう。
というわけで俺は早速卸売市場に入っていった。
中はかなり大きい。ここでは主にNPC――レメント人――がアイテムを売っているようだ。ちなみにプレイヤーでも出店すること自体はできるようだが出店料がかなり高めらしい。
そして入場手数料なるものだけで1万Gも取られた。
雑貨屋やNPCが売っている薬剤など多くのものががここで売っているようだ。俺は早速目当ての薬草を探しに行く。
薬草は――あったあった。ここでは値段と量は交渉で決めるようだ。
「これ、100袋40万Gでお願いします」
「ああん? そんな破格で卸ろせるわけ無いだろ!」
「では、そうやって断ってきた結果がこのあたりにある若干萎れている薬草なのでは?」
「うっ……、とにかくだめなものはダメだ!」
「ではさようなら~」
と言ってゆっくり歩く。すると……
「あっいや、ちょっとまってくれ、100袋45万Gまでなら出せるぞ」
「でも少し萎れていますし……」
「分かった分かった! だったら43万Gにまけてやる!」
「じゃあ300袋をそれぞれその値段でお願いします」
「げっ……、仕方ない、それでいい」
うん、ボーロンから教わったテンプレ交渉術でも割りと価格を下げられるようだ。本当はもう一箇所薬草を売っているところがありそちらの値段を提示して……などやりたいがここの市場はかなり広い。
そのため2店の間の距離が離れているのだ。今の店は「薬剤」の部類のところで売っていたがもう一箇所は「植物」の部類らしい。
1袋100個の薬草が入っているわけだから全部で3万個買ったわけだ。雑貨屋では1個75Gくらいだったからかなり得をしている。
今思ったがしばらくしたら卸売市場から中央市場や地元市場に転売する人って出てこないのだろうか。
そうなれば俺もわざわざここに来なくて済むのだが……
試しに俺がやってみる。するとどうやら卸売市場から買ったものは中央市場や地元市場に出品できないようだ。
俺は3万個の薬草の使いみちがあるからまだいいがこれを知らない人が転売目的で買ってたら泣くな。そんな人がいたらぜひとも捨て値で買い叩きたいものだが。
ボーロンにでも捜索を頼んでおこう。
俺はクランハウスに戻り薬草をすべて倉庫にしまった。うん、もうすでに倉庫の容量の4割が埋まっている。
ちなみに連日のみんなの活躍によってクランLvはかなり順調に上がって行っている。いまLv6だがLv10になると幾つかの機能が追加されるようなので楽しみだ。
さて、HPポーションの装置がしっかり動いていることを確認してっと。
いつも通り地下に潜り研究を進めていこう。
これから毒耐性持続薬の加工の方を進めていく。と言ってもある一つの工程以外はそこまで大変でもなさそうだ。
毒耐性持続薬の加工の工程は
マナタケを軸と傘とに分ける
毒耐性持続薬を容器に入れる
マナタケの笠の斑点の部分をえぐり取る
マナタケをかなり細く切る
細かくなったマナタケを毒耐性持続薬に混ぜる
それを10分間ほど冷やしながら寝かせる
上澄みの繊維などを取り除く
といった感じだ。
まずは簡単そうなマナタケの傘を細かく切る作業からやっていこう。これは軸に切り込みを入れたあのウォーターカッターの仕組みをそのまま使えばいいだろう。
よし、できた。そうしたら今度は毒耐性持続薬を容器に移す作業だ。
これもいつもと同じように物体を重ねて瓶を割る。できたら今度は冷やす作業だな。これは時間がかかるので複数個を同時に冷やすか機械を複数設置しなければならない。
俺もいつもの味気ない合金板ではなく、しっかりした冷蔵庫を作ってみようと思う。家にも冷蔵庫って無いからちょうどいいだろう。
まずは……断熱性の高い素材を探すか。基本木とかならある程度は断熱性はある。しかし欲を言えば発泡スチロールとか、もっと言えば真空断熱技術なんかを使えたら文句は無いのだが無理なお願いと言うやつだろう。
試しに普通の木材でやってみるか。これを適度な大きさに切って……
やばい! 俺ノコギリ使うの苦手なんだった!
小さい作業ならそれなりにできるのに何故か中学校の授業とかで使ったノコギリだけはうまく扱えないんだよなぁ。
これは得意そうなエリウムとかにでも任せるか。もしくは俺がまだ行っていない木工職人のところに行くか。
めんどくさいからいいや。エリウムを待とう。
あと出来ることは上澄みの灰汁みたいなやつを取り除く作業か。うーん、これまた網ですくい取る作業だから魔法陣を使ってやるのは苦戦しそうだ。
例えば風で吹き飛ばすとか? よし、試しにそれで行ってみよう。
ある程強い風をHPポーションの上方だけに吹かせるようにして、と。風魔法陣はこちらが想像している以上に強引に空気を動かすから多分それで大丈夫だろう。
動かしてみると……
「バシャッ」
すごい勢いで水しぶきが飛んできた。うっかりしてて自分の服が濡れてしまった。まあ一定時間で乾くから良いのだが。
しかしこれだと周りが水浸しになってしまうな。まあ周囲を何かで囲っておけばいいか。どうせ転移魔法陣でアイテムの移動はするんだし。
「ただいま!」
お、ちょうどいいところにエリウムたちが帰ってきた。
「ちょっと、この木を切ってくれないか?」
「なんでオレ? まあ良いけど」
いやあ流石スポーツやっている人は力の入れ方が違うな。どんどん切られていく。ゲーム内ではあまり筋力などには差が出ないようにうまく調整しているみたいだが力の使い方はやはり現実で学んだものが大きいようだ。
しかしこのパーティーはなぜかガチでスポーツをやっている人――エリウムとティウ――がなぜ後衛についている。なんでこうなったんだったかな。まだ六人パーティーを結成してからそこまで日がたっていないのに忘れてしまった。。
取り敢えずいい大きさに木が切れたのでこれを箱にしてっと。中に空気を冷却する魔法陣を置いた。
時間が経ってくると結構木がひんやりしてくるな。この木を二重にするか。間に空気を入れればだいぶ断熱性が高まるはずだ。
よし、こんなものでいいだろう。一度に4つほど冷やすことができる大きさの冷蔵庫ができた。
残る最後の工程はマナタケの傘と軸を切り分ける工程と傘の斑点をえぐり取る作業だ。
今思った。無理ゲーじゃね?
そもそもすべてのマナタケの大きさは一緒ではない。こういうところが無駄に凝っているというかなんというか……。
軸と傘を切り分ける方はきのこの大きさを分別してやればなんとかできるかもしれないが斑点は位置がバラバラだ。こればかりは色認識センサーでも無い限り不可能だ。
いまま心当たりのある色認識センサーは一つ。そう、人間の目だ。これはかなり優秀なものなのだがいかんせん世界の条理で一日六時間しか使えないという制限がかかっている。これでは意味が無いのだ。
試しにこの作業だけ手でやってみて、他の工程はすべて自動で……あ! もう一つ忘れていた。
最後にHPポーションと毒耐性持続薬を混ぜ合わせる工程が残っていた。
先にこっちもやらないとな。最近かなり慌ただしく手先を動かしていて疲れているがこれからも頑張っていこう。
にしても地下室の壁の四角いくぼみにあるオレンジ色の美しいランプは明らかに炎が灯っているのだが酸欠にはならないのだろうか……なんて思いながらログアウトした。




