MP切れ
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俺たちは小走りで北へ北へ進んでいる。ボーロンは重い金属鎧を外して走っている。
ゲーム内ではスタミナはみな均一に設定されており、息切れになるタイミングも同じだ。この程度の調整なら現実への影響は少ないらしい。
全力で走ったり、歩いているよりランニングをするときくらいに走っているのが一番時間効率がいいようだ。十分に一分ほど休憩を入れればまた走ることが出来る。
シャロウ森林を抜けレメント丘陵に入る。ここからは坂が急になってくるうえ、巨木の根や大きめの石が足元に落ちていることもあり歩いて進んでいく。
道中ずっとそうだったが、魔物を倒すのがとにかく早い。ボーロンが相手の初撃を受けティウとベリリーが攻撃する。それだけだ。
レメント丘陵の北はレメント山地、レメント高原、そして王都だ。王都はこの島国の中心にある。なんか地形が明らかに天然に作られていないのが気になるな。地理でついこないだ地形について学んだばかりだし。
だんだんと標高が高くなっていく。とは言っても林道のようなものがあるし、空気が薄くなるわけではないので今までとそんなに変わらない。せいぜい変わるとすればダーク・ラビットという体当たりが地味に強い兎の魔物が出る、というところだろうか。
いつもそうだがこのあたりから他のプレイヤーが見当たらなくなってくる。
道中の薬草はしっかり確保、また知らない植物も採集ポイントであればとりあえず採る。なんか道中「マナタケ」とかいうとても紫色で毒々しいキノコが木に生えていた。
「ひっ 何これ気持ち悪いぃ!」
「私……、触りたくないです」
女子二人が明らかに嫌がっている。しかし採集ポイントは全員別々に設定されているので他の人が採ってあげる、ということが出来ない。
「採ってくれたら2000Gで買い取ろうかなー」
なんか良い効果を持っていそうだったのでそう提案してみる。ランクはB-だ。次の瞬間
「えいっ」
と言ってティウが採った。現金なものだ。うん、2000Gも価値ないだろうけどまあいいや。
そんなこんなでレメント山地を進んでいくと、ある問題が起きた。
「そろそろMPが切れそう。魔物と戦えなくなってくるかも」
とティウが言った。
「じゃあ魔物はなるべく避ける方向で。ただし行く手をふさがれたら無理に逃げないでできる限り物理攻撃で倒そう。」
エリウムが言ったとおり、出来る限り物理攻撃で倒す。一定間隔でエリウムの「ストロング・ビート」を入れながら。
「やべ! オレもMPが無くなってきた」
「俺も挑発スキル連発してたから結構限界!」
エリウム、ボーロンもやばくなってきた。
次第にいつもの連携が崩れ始める。
「ごめん、後ろに敵が回った!」
ボーロンがヘイトを保てなくなってきた。すかさず俺がブーメランを投げ、ノブラックがリバース・ヒールで攻撃をすることで何とか事なきを得た。
「うおっ」
ドサッという音がしたので後ろを振り返るとエリウムが倒れていた。どうやら石につまずいたようだ。ここはかなり足元が見づらく、危険だ。
「痛たいなあ! チクショウ!」
フィールド上で今のように現実で痛みを感じる行動をすると容赦なくHPが減ってしまう。なので最大限怪我をしないように気をつけなければならない。出血はしないが。
かなり歩いてきたと思うが、一向に高原が見えてこない。丘陵ではみんな元気に敵を倒していたが、今では明らかに敵が出てくるとみんな嫌そうな顔をしている。
このゲーム内では疲れは現実と同じように感じる。足腰も痛くなってくるし、息が切れてくる。現実でも山になんて登ったこと殆ど無いしな。と言っても現実の山はこんなものの比じゃないだろうし装備だって登山を考えて来ているわけでもない。
ノブラックとティウは未だにローブを着ているし。
ちなみに街以外でログアウトをするとログアウト中も敵に襲われるらしく、高確率で最後にいた街の門から再開となるようだ。これは敵と戦っているときも同じである。
みんなヘトヘトになりながらも、何とかレメント高原までやってきた。ここは植物が生い茂ってはいるが高い木が少なく、辺りを見渡せる。奥を見ると明らかに城壁のようなものがある。
「見えたぞ! あれがレメント王都だ!」
しかし行く手をウィンド・モールに阻まれる。モグラなのに風属性かよ……
なんて思っていたらいきなりサンド・ストームとかいう魔法をかけてきやがった。これは前のキング・キラービ―のウィンド・ストームと同じで全体攻撃でしかも視界不良の追加効果があった。
みんなMPがカツカツで使える手が少ない中、俺はなんとなく敵のいる方向にブーメランを投げる。
「キュウ」
モグラが鳴いた。どうやら当たったようだ。スキル投擲精度上昇のレベルがあがったおかげだろうか。
「俺のブーメランを当てられるぞ!」
「了解、アタックアップをかけるよ」
ノブラックから攻撃力上昇のバフをもらい、攻撃を再開する。ボーロンが何度か殴ってヘイトを稼いでいたようでブーメランを3回投げることが出来た。
3回目でどうやら相手が麻痺になったようだ。そういえばブーメランに麻痺の効果を付けていたな。
その後はもう適当に殴って倒した。
暫く歩くと今度は二体出てきた。
「クソ! 全員一旦下がれ! ロージェはブーメランで足止めを頼む!」
「おう!」
ブーメランを投げ、相手を牽制しているうちにみんなは後ろに下がる。そして俺も走って下がり、なんとかモグラを振り切った。
「よし、なんとか逃げ切れるな。これからは出くわすたびに迂回して進んでいこう。」
同じように進んでいき、ようやくレメント王都にたどり着いた。5メートル以上ありそうな石レンガの巨大な塀が王都の力を物語っているようだ。
「そこの六人、身分証を提示しなさい。」
番兵に声をかけられたので、全員でギルドカードを提示する。
番兵さんが謎の石を当ててギルドカードを確認して、
「通行料100Gだ。」
と言われたのですぐに払う。そして内側にある大きな扉が開き、中に入っていった。
中に入るとハーロブに増して人が多い。しかしよく見るとNPCが半分ほどいる。どうやら人が多いというのは本当のようだ。
ハーロブより少し近代的な感じがする。地面はきれいな石レンガだ。建物も白い石材が使われているものやレンガなど、結構まちまちだ。
真ん中のメインストリートに行ってみると、この都の中心まで一気に見ることができた。中央に行くほど地面が上がっていて、終点に城があるのがわかる。
「すげええ」
「きれいなお城ね」
エリウムとティウが声を漏らす。気持ちはよくわかる。想像している以上に大きく、こんなに遠くからでもその造形がはっきりとわかる。
白が基調の壁に灰色や紺色の屋根がよく合っている。
夜になるときれいにライトアップとかされるんだろうなあ。