ポーションの大消費
部屋に入ると前にさっきのクイーン・キラービー、後ろにキング・キラービーというのがいる。どうやらクイーンが前衛、キングが後衛のようだ。
エリウムが叫ぶ
「フォルテ・ディソネンス!」
耳につんざく不気味な音が響き渡る。もうこれにもすっかり慣れてしまったが。
しかし直後、俺の肩の高さに鋭い エア・カッター が飛んできた。
俺はそれを姿勢を低くしながら横に何とか躱す。距離が遠かったからかろうじて躱せたものの近かったらまともに食らっていただろう。
さっき道中に組んでいた作戦は、一番最初に二体とも行動を封じることが想定されていたが……
「ティウとノブラックはキングからのヘイトを稼げ!」
「ファイアランス!」
「リバース・ヒール」
それぞれが攻撃を開始する。ノブラックが使ったリバース・ヒールは威力こそ高くないが神官が使える数少ない攻撃魔法で、無属性であるという特徴がある。
「下突き」
ベリリーがさっきと同じようにクイーン・キラービ―に木の短剣を突き刺す。だが明らかに食らうダメージはさっきよりも少ない。
キングから二回目のエア・カッターが飛んできた。今度は神官のノブラックに行き、かわすことなく受け止めた。
クイーンが動き出す。すかさずボーロンが挑発をし、攻撃を受けた。
「くそ! 毒だ!」
相手から毒針が飛んできているようだ。盾で受け止めているもののすべてを無効化できるわけもなく、結構着弾している。
俺が解毒ポーションを投げた。毒状態が解除される。
「プレスト!」
エリウムが速いテンポの曲を弾き始める。これはクールタイムを縮める効果がある。
俺はブーメランを投げた。運が良ければ相手は麻痺になるのだ。
その時、エリウムが叫ぶ
「HPが半分を切るぞ!」
そう、クイーン・キラービーは5割のHPを削ると行動パターンに変化が起きる。今までは毒針を飛ばす、突進する、自信の針で突く、の三つだったがここに上空に退避し、そこから攻撃を仕掛ける、というパターンが追加される。
さらに後ろにいるキングからの魔法が強力になる。
急に大風が吹き荒れ、徐々にダメージを受け始めた。これは相手の風魔法ウィンド・ストームだ。
だんだんと強くなり、まともに立つのがつらくなってくる。自分の顔に容赦なく空気が激しくぶつかっている。
全員がダメージを食らっているが想定通りノブラックだけだと回復が追いつかない。俺はすぐさまHPポーションと解毒ポーションを投げていく。
あとクイーン・キラービ-の残りHPは3割だ。おれはひたすらポーションを投げ続けた。
攻撃は最低限しかできていない。防御、回復、回避のいずれもできない魔法使いのティウだけが相手に攻撃をしている。
その間俺はポーション、吟遊詩人のエリウムは全体バフ、神官のノブラックは単体バフ、デバフ、回復、ボーロンはヘイト集めと防御スキルでベリリーは……窃盗と回避のスキルを使っている。
とにかく同じことを繰り返していた。ダメージを食らっては回復し食らっては回復し、そのたびにポーションの手持ちの数が減っていく。
3分くらいたっただろうか、ようやくティウのファイア・ランスでクイーン、キラービーのHPが尽きた。
残ったキング・ビーにはもう生き延びる術はない。俺たちは一気に攻撃を加え、瞬く間にHPを削り切った。
「よっしゃあああああ!」
エリウムが喜んでいる。
「やっぱり6人がいないと駄目だよな、オレらのチームは!」
「そりゃそうさ、なんてったって私達は旧作でトップクランだったのだから」
「ボスに勝ててよかったです。」
「私はひたすらファイアランス打ってただけでなんかみんなごめんね! 」
「いやいや、火力の中心はお前だろ! 気にすんなって。」
エリウムがそういったところで俺が質問した。
「ところでこのダンジョンって推奨Lvは? あと俺たちのパーティーの平均Lvはどんなもんなの?」
「推奨レベル? 20だったかな。 俺らの平均レベルは14だけど。」
「よく勝てたな……。」
「前回五人で行ったときには回復が足りなくて撤退したんだけどな。」
「やっぱりポーションの力ってすごいのねえ」
うん、いまさらだけど今回でポーション30個近く使ってるからな。今の相場で1万Gを越しているぞ。
「さ、ドロップアイテムもらって帰るか!」
今回は「蜂蜜C+」というものを手に入れた。食材はバフアイテムである料理の原料として使えるようだ。
来た道を戻りハーロブに戻った。市場を覗くと蜂蜜C+は一つ1000Gで売れるから六人で6000Gの利益だろ、で出費が一万G……
「今回は、4000Gの赤字でしたぁぁ」
おれはクランハウスに帰るなりただいまの代わりにそう叫んだ。
まあ実際4000Gはたいして問題ではない。むしろそれより気になったのが
「おい、ベリリー、あの木の短剣何? 特殊な効果が付いているようだったけど。」
「あら、あれはロージェが渡してくれた『上にあるものの温度を100度まで上げる短剣』ですよ?虫さんたちにはよく効くようで乱用していました。」
あ! そういえば前に渡していたな。体内を100度に熱されるってどんな苦痛なんだろうか。そんなことはともかくあの短剣、そんなに有用なものだったんだな。これからは魔道具だけじゃなくて魔法陣を使った強力な武器の方も開発していかないと。
俺達はいつも通り作戦会議をして、ログアウトした。
日曜日なのに平日通りに目が覚めた俺はさっそくみんなにSNSで状況を聞くとエリウム以外はみんな起きているようだ。
ノブラックが電話でエリウムを起こしてくれるそうだから俺は適当にゲーム外の掲示板を覗いた。本来は東にあるハーロブ海岸のダンジョンをクリアしてからレメント丘陵に行くのが適切ルートだと言われていたようだ。
まあこの六人が集まってしかもポーションをふんだんに使えば推奨Lv位は簡単に無視できるというものか。
とは言っても今俺たちは中堅の中の真ん中と言ったところか。まだまだダンジョンについての情報は入ってくる。俺たちのクランは「快走」と言う名前がついているだけあって、できる限り速いスピードで、しかし楽しくゲームを進めていこうとしている。
今回レメント王都に行く目的は主に拠点の確保だ。掲示板によるとハーロブよりも王都の方が人口が多く、設備や公共施設が充実しており、城もありクエストなども発生しやすいようだ。
そんなわけで俺たちは拠点をレメント王都にすると決めたので初めからハーロブには家を買わないで、借りるだけにしたのだ。
「みんな! おはよう!」
お、エリウムも戻ってきたようだ。ゲーム内では一日六時間しか入ることが出来ないため日曜日には大抵話し合ってからゲームに入ることにしている。
今日やること、道中の進み方、敵の情報等々……
30分ほど話し合ってから6人でINした。
俺は宿の中で6台の様子を確認し、ポーションを倉庫から取り出して市場に売り、クランハウスに戻る。拠点は一つのクランで二つまで保有することが出来るので今日この家を引き取るわけではない。
そのためポーション製造機は動かし続ける。この機械たちが休む時は来るのだろうか。
そしてさっそく移動開始だ。ゲーム内には見えないスタミナのような物があり、それがゼロになると移動速度が著しく低下し、ステータスも50%まで一時的に落ちる「飢餓」と言う状態になってしまう。
一度拠点に戻ると完全に回復するようなので特に今までは気にしていなかったが、今回は長時間外に出るので気を付けなければならない。
とりあえず腹持ちのよさそうな黒パン、と言うものを24個買っておいた。まずそうだがお金がもったいない。
俺たちはクランハウスを出た。今回はチーム全員が初めてレメント丘陵、よりさらに北に行くことになる。