五台のポーション製造機
授業が終わった。しかし今日は部活があるためすぐにはゲームが出来ない。
パソコン部が終わりすぐに家に帰る。途中でゲーム外掲示板を見てみたが魔道具の解読方法は公にはなっていないようだ。
俺もそうだが普通は隠すよな。掲示板は主にダンジョンのスレッドが盛り上がっているよだ。生産組の方も見てみたが特にこれと言って重要そうな情報はなかった。
ただ、ポーション以上に時間効率のいい薬剤の情報はいくつか乗っていた。とは言ってもそれは自動で作れないときの話。
家に帰ると夕食を食べ、ILにログインした。
気が付いたらいつもの宿にいる。この感覚にも流石に慣れたな。
「あ! こん~」
ティウに話しかけられる。
「何かあの機械ちゃんと動いてるみたいだよー! 押し入れの中にポーションが200個以上あってびっくりしたよ!」
「おお! そうか。」
さっそく押し入れを見るとHPポーションC+が200個近く入っていた。一部HPポーションCが混ざっているが……
まあそこまで価値が落ちるわけでもないので、このまま放置しておく。
今日やることは主に二つ。一つ目はクランの設立とクランハウスの賃借だ。これをやっておくと後々良いことがある。
二つ目はポーションの生産器具の増設。単純に器具の数が二倍になれば効率も二倍になる。
全員がそろうのを待つ間、ポーションを売りに行く。
ここまで大量に売ると、相場が変わってしまいそうで少し怖い。相場を見てみると……
あれ、HPポーションC+が350Gを超えているな。前よりも少し上がっただろうか。ゲーム開始から始めたプレイヤーの多くが比較的長いダンジョンに潜っていっているという話も聞いた。そんなことが理由でポーションの需要が増加しているのだろう。
さっそくポーションを10個ずつに分けて売りに出す。売却者の名前などは非公開にできるので10個ずつ出せば同じ人だとはばれない。とりあえずこれを20セット売りに出してみた。価格は徐々に下げていった。
そしてすぐ宿に戻った。最近人が前よりも少し減っている気がする。やっぱりみんな次の町に行っているのだろうか。
宿に戻ると全員そろっていた。
「悪い、市場にポーション売ってきた。」
「大丈夫大丈夫! よし、それじゃあクランハウスの設立をするぞ!」
目の前にウィンドウが現れ「クラン:"快走"に参加しますか?」と出てきた。すかさずはいを選ぶ。クラン名"快走"はVL時代にエリウムが考案した名前だ。みんな気に入ってすぐに決定したが。
「よし! これでクランハウスを使えるようになったな!」
このゲームにおけるクランはパーティーを超えたグループのようなものか。上限人数はクランLvによって変わってくる。クランLvをあげることによってクランの設立及び参加にメリットが発生する。
クランLvはクラン内のメンバーがクエストを達成したときに貰えるギルドポイントに応じてクランポイントがたまり、一定値に達するとLvが上がる。ただし、クランLvは人数が増える毎に若干上がりにくくなるようだ。
また、クランリーダー以外はクランを自由に移動することが出来る。大規模なクランは入る人を選別して効率よくクランLvを上げていくのだろう。
クランLvを上げることによる具体的なメリットはクランの人数の上限の増加やパーティーメンバーの取得経験値、Gの増加等がある。もちろん最初は1%増加にも満たない程度から始まるが。
またクランクエスト、なるものがあるらしくこれを受けることも目的なのだとか。
そんなこんなで俺たちはクランを設立し、クランハウスを借りに行った。借りる時は冒険者ギルドで請求すればよい。クランハウスに住むには購入と借用の二通りがある。俺たちはハーロブに拠点を構えるかどうかは今後ほかの町や国に行ってみないとわからないため借りることにした。
ちなみにクランハウスはそのままその場所を買うことになり早い者勝ちだ。宿とは違う。そのためいい場所を買っておくと後にゲーム内の金持ちが買収の提案をしてくれることもあるのだとか。
まあそういうところは本当にGがかかる。4000万Gと、現実並みのGをとられる所もあるという。
俺たちのクランハウスの場所はハーロブの北門のすぐ近くだ。みんなはよく出かけるし、ここが一番都合がいい。外観は周りの街並みと同じレンガ造りで、二階建てだ。普通の一軒家サイズだ。
中に入ってみると落ち着きのある雰囲気が落ち着いていていい。本当に住みたくなるような内装だ。南側に道路があるため窓からの日かがしっかり入ってくる。
これでリアルの1週間で12000Gだから安いもん……でもないか。
まあ俺たちなら比較的簡単に払えるだろう。
そういうわけでみんなで分けて宿屋から持ってきたアイテムをここに預けていく。宿屋はアイテムの個数制限が1000個とかなり苦しかった。
このゲームのインベントリは40種類のアイテム、1000個まで持てる。どちらも満足とはいいがたい数字で、特に1000個まで、の上限が厳しい。要は99個のアイテム10種類あったらほとんど埋まるからな。
もし長期のダンジョン探索に行くときにはインベントリがスキルで拡張されていく交易人か道具使いを連れていく必要がある。まあ交易人は戦闘でほとんど役に立たないので実質道具使いしか候補はいない。
とは言ってもあまり長期のダンジョンに行く機会もないし、全員で手分けして持てば事足りることも多いので道具使い自体そこまで人気のある職業ではない。
俺はクランハウスにある広い机で魔法陣を書き始めた。急いで、しかし間違えないようにする。みんなは軽くシャロウ森林のダンジョンを一周してくるそうだ。
クランハウスの中に羽ペンと紙がこすれる音だけが響く。集中して、できる限り早く書いた。今まで作ったのを写すだけの単純作業だ。
しばらくしてすべて書き終わった。そして合金版を買うためのGを取りに市場に行く。見たらすべて売れていた。1時間半しか経っていないのにすごいな。想像以上に取引は活発のようだ。これなら多く作ってもあまり問題はなさそうだ。今回は地元市場にしか出していないから総合市場でも安くすれば売れるだろうし。
受け取った六万ほどのGを次の薬草、瓶を買うのと金属板の費用に充てる。ただし今回は金属板を買う枚数も多いので市場を漁ってみることにした。地元市場の方では特に何もなかったが総合市場で20枚40000Gというのがある。
俺はすぐさまこれを買った。まだ前に見たときは無かったからいい腕の鍛冶師が出たということだろう。いつかは鍛冶もやってみたいものだ。
あと一時間したら落ちて寝ないといけない。。この間にどこまで加工器具――ポーション製造機――を作ることが出来るだろうか。
とりあえず今ある一つの機械を動かしながら作業する。
あれ? なぜか動かない。と思ったらたしか転移の対象の場所を宿の押し入れにしてた。慌てて俺はクランハウスの床下収納に切り替える。
床下収納が一番容量が多い。
動かしてみるとしっかり動いた。
急いで魔法陣を書き上げ、二台目のポーション製造機を作る。完成したらそれも動かす。
三台目の作成に取り掛かる。もう同じ魔法陣を書いていくだけなのでだいぶ慣れて早く書けるようになった。。同じ魔法陣を二枚同時に書いていく。
書いた魔法陣を金属板に錬成する。ここでスペルミスがあったようで動かなかったので直して再度動かす。
三台出来たところでみんなが帰ってきた。暇そうなノブラックとボーロンに今までにできた二十本程のポーションを売ってきてもらおうと、話しかけると――
「そうそう、なんかギルドからポーションの納品っていうクエストが出ていたけど。」
「そうみたいだね。私のところにも同じようなクエストが来ていたみたいだ。」
「あ! それあたしも!」
どうやら、ノブラック、ボーロン、ティウに同じクエストが来ていたみたいなのでポーションをそっちに回してもらった。
そういえば俺もクエスト見てなかったな。基本納品系のクエストは本来の相場価格よりだいぶ高く受け取ってくれる。納品した後にどこに行っているのかは不明だ。
そうしているうちに五セット目の魔法陣を書き始める。とにかく急いだ。
苦労したかいあって何とか五セット目の魔法陣を書き終え、新たに市場から金属板を調達し、五台目のポーション製造機を完成させた。
残った十分間でパーティー全員で大急ぎで薬草と瓶、魔石をそろえてログアウトした。
みんななんでこんなにGを持っているんだ??