全自動化
転移の魔法陣は見るからにめんどくさそうなのでとりあえず今のポーション作成は一旦やめて、風と詠唱の魔法陣二つ追加し、二台の加工器具で粉砕~完成の加工をすることにした。
瓶に薬草をぶち込んでいく。
ではさっそく転移の魔法陣を書いていってみよう。と言ってもアイテムを呼び寄せたいのでまずは検証がてら自分のインベントリから転移で取り出せるのか、やってみる。
対象は「yakusouD in inventory of rooje」でいいかな。魔法陣に固有名詞なんか使っていいのかとか、そもそも薬草の英語じゃなくてローマ字を使っていいのかとか全く分からないが、英語にするといくつかの訳が出てくるし、やってみるしかない。
効果はTeleport to hereで、まあ時間は一秒でいいだろう。長くしたらどうなるのかの検証もしてみたいけど。
合金板に写してさっそくやってみる。手をかざして使用――
あれ、なんか一瞬光の粒が魔法陣から出たけれど何も起きないな。自分のインベントリを覗くと確かに薬草は一つ減っているようだ。ガラスの瓶はどうだろう。
「バリン」
転移した瞬間に割れた。ということは薬草も同じように何かの原因でアイテムが損傷したのだろう。
もう一度ガラスの瓶を転移させてみる。しかし今度は割れる瞬間をスクショする。画質が荒くなる代わりに連写できる機能があるためそれを使ってみた。
二回目も同じように割れたので写真をよく見てみると……
下の方から割れていっている? ということはガラス瓶の底に何かがぶつかっているのだろうか。それとも転移した瞬間落下した判定になっているとか。
だがそれだと今度は薬草が消えてしまった説明がつかない。何が原因だろうか。
しばらくポーションを作りながら考えていたらふと思った。効果をTeleport to hereにしたがhereだとひょっとして魔法陣の中心を指すことになるのではないか。
もしそれだとしたらほんのわずかにだけ瓶の底と金属板が重なり合う。それが原因でアイテムが損傷しているのであればつじつまが合う。
ここは現実世界の物理法則はあまり役に立たないんだった。すっかりリアルにそっくりな世界観に魅せられていたようだ。
俺はすかさず魔法陣の効果を Teleport to I cm above に書き換えた。すると……
光のエフェクトと共にガラス瓶がしっかり転移された。俺のインベントリのなかからガラス瓶が一つ減っている。どうやら成功したようだ。
さて、俺のインベントリと外のアイテムのやり取りを魔法陣に書いた命令によってできてしまうことが分かったが、どこまでの距離それが通じるのだろうか。
もし距離が無限だったら物資の補給などの難易度がなくなり、道具使いと交易人のアドバンテージが大きく減るからそこまではないだろうけど。
俺は市場で氷Dを買ってきた。氷は外に出すと5分間で溶けるそうだそして魔法陣の発動条件を「もし、上にアイテムが無かったら」にして、と。
これでアイテムが召喚できればそのアイテムが魔法陣の上に載って魔法陣の発動が止まるからちょうどいいな。
魔法陣の上に氷を2個と魔法陣の隅っこに魔石を置いて俺は全力で南の港に向かって走っていった。特に理由はないが久しぶりにゲーム内の海を見たくなった。
……あれ、もしかして氷って2個置いても10分に延長されない? よな、うん。
そんなしょうもないことに気が付いたのはすでに海が視界に入ってからだ。まあ気持ちのいい海風に当たれたので良しとしよう。
インベントリの中身を見てみるとガラス瓶の数は減っていなかった。
と言うことはやっぱり有効距離のようなものがあるのだろう。しかしそれでも転移魔法陣は色々なところで応用が効きそうだ。これからも研究を進めていこう。
取り敢えず今やることはただ一つ。ポーション作成の効率化だ。まだ自動化できていなかった瓶を置いて薬草を入れる、という所も自動化してしまおう。
まず一つ目の転移魔法陣。これは瓶を引き寄せる。さっきから作っていたやつだ。
二つ目は、ビンの中に薬草を入れる魔法陣。これも高さを調節してうまくできた。
三つめの魔法陣は完成したポーションを転送する魔法陣だ。送り先はもちろん俺のインベントリ。
これでポーションを完全な自動生産システムを作ることができてしまったのでは無いだろうか。
かなり期待しながら動かしてみる。自分のMPは使わないで、魔石を使って動かしてみる。
まず初めに転移魔法陣でガラスの瓶が台の上に乗る。
そこに転移魔法陣で薬草が入る。
その次に風魔法陣で薬草を細かく切っていく。
そして水魔法陣で水を注ぐ。
火魔法陣によって瓶ごと熱される。
最後に詠唱の魔法陣で魔力が注ぎ込まれたら完成だ。
そして俺のインベントリに――――
しっかり入ったようだ。完璧だ。薬剤師さんが見ているので平静を装っているが内心相当喜んでいる。
ただ一つ想定外だったのは魔石をかなり消費する、ということだ。自分で魔法陣を起動させているとそんなにMPを使っている実感は無いものの、魔石の耐久値は目に見えて減っていく。
見ている感じだと転移魔法陣にごっそり魔力を持って行かれてるな。
一応利益の計算をするとポーションC+の市場での価格が大体300G、ガラス瓶10Gで薬草が75Gで、魔石は相場が上がって60G位するようだ。
そうすると一つのポーションの利益は大体150Gか。かなりいいんじゃないだろうか。
先行投資額は金属板が7枚で35000G。これはポーションを233個作れば元が取れる計算だ。
233個作るのにかかる時間は約16時間。リアルで一日経たずに回収できてしまうわけだ。もちろんしっかり動けばの話だが。
さて、自分がいない間でも動くのかを検証するために宿に行った。宿の押し入れも自分たちのインベントリのような感じになっている。
転移の魔法陣の対象のインベントリも変えてっと。これで一旦自分はログアウトしてみる。
その間にポーションが作られるかの実験だ。魔石を多めに置いておいて……
夕食から帰ってログインして宿に戻ると今まさにポーションを加熱中だった。宿の押し入れを見てみるとHPポーションが10個あった。
成功だ。
後はログアウトする前に材料を揃えて押し入れに入れて――
二百個以上もの魔石をどうやって魔法陣の上に置いたらいいんだ?
しばらく悩んでいるとエリウム達が帰ってきた。
「おー! ロージェいたのか!」
「おかえり。」
「これ、例のポーション作るやつだろ? スゲー!」
「ありがとう。なんとか今夜に間に合ったよ。ただ、一つ問題があって、この魔石を魔法陣の上に置かなきゃいけないんだけど……200個以上。」
「トイレットペーパーのしんみたいなやつを立てて、その中に魔石を入れるってのはあり?」
ポーロンが提案した。
「あ! その手があったか! ところでトイレットペーパーの芯なんてこの世界に無くね?」
「確か私達道中で竹を手に入れましたよね?」
と言ってべリリーが竹を出す。一メートルより少し長いくらいの竹の棒が出てきた。これなら使えそうだ。
これに魔石を詰め込み、生産器具を壁際に置いて竹の棒を立て掛けた。
これで準備完了!
あとは……
「あのぉ……、みんな悪いんだけど、持っている魔石とG貸してくれない? 明日には返すから!」
もう借金まみれである。しかし材料費は高いのだ。なんと言ったってポーション250本分の材料を買うのだから。
みんなも苦笑しながら貸してくれた。借金が多いのは今に始まった事じゃない。それに毎回しっかり返してるもんな。時間は掛かるけど。すごい掛かるけど。
そして俺は急いで材料を買ってきて押し入れに全て入れ、作戦会議に参加してからログアウトした。
なんだか、ログアウトしてもゲームをやっている感覚があって楽しいな。今も宿の中であの機械は動き続けているのだろう。
最近ゲームのことばかり考えてるけど現実に支障をきたさない様に気をつけないと……