さらなる効率を求めて
俺は宿に戻り作戦会議に参加した。
「よぉ! ロージェ、借金は?」
「……あとリアルで二日待ってくれ」
「了解!」
エリウムだって本当は新しい装備を新調したいのだろう。しかし俺のせいでお金が手元にないから買えないのだろう。
どうやらみんなはLvも結構上がってきてシャロウ森林のダンジョンは余裕でクリアできるようになってきているようだ。今は一周にかかる時間を限りなく短くしようと頑張っているところだという。
「それで、オレたちは次のダンジョンに行こうかと思うんだ。具体的にはシャロウ森林のさらに北、レメント丘陵のにあるダンジョンだ。」
「じゃ、取り敢えずこれ。」
と言って俺はHPポーションC+を五人に一個ずつ渡した。
「まあ、借金の利子ってことで。あとベリリー余ってるから一応これ渡しておく。効果は上にあるものの温度を100度まで上げる、だ。」
「え! そんな効果の武器なんですか? 珍しいですね。今度敵の下から突いてみます!」
そんなこんなで俺たちは情報を交換し合い、ログアウトした。
学校から帰ったら、すぐさまログインをする。俺以外の五人は今日からさっそくレメント丘陵に行くようだ。レメント丘陵のさらに北の方にこのレメント国の首都であるレメント王都があるようだ。
そこに6人で行こうという話になったため俺も近々レベリングや遠征に参加しなければならない。
それまでに魔道具の研究はあらかた終わらせたい。とりあえずボーロンからもらった情報の、風魔法陣でものを砕ける、と言うのを検証してみる。
初級魔導書IIの風魔法陣の中にある記述はこうだ。
Lower grade magic circle If[someone use this],Sphere with center X cm above and radius X cm,move air,I minute,endif
日本語にすると「もし誰かがこれを使ったら、10cm上が中心の半径が10cmの球体の範囲の、空気を動かす、1分間」と言ったところだろうか。効果内容が空気を動かすって……
とりあえずポーションを80個程売って割と資金に余裕が出来たので、このGで例の金属板を買い、風魔法陣を使ってみることに。
「ヒュー」
空気が動く音がする。俺はすかさずちぎってない薬草を入れた瓶を台に置くと
「バリッ バリッ」
少しずつ破けていった。どういう原理なのだろうか。よくわからないがこのままだと遅いので対象を瓶の中に納まるようにする。
3cm上が中心の半径3㎝の球体を範囲にして、と。
もう一度動かすと
「バリバリバリッ」
いい感じの音になってきた。時間も20秒でいいな。ミキサーを使っているかのように簡単に葉っぱを細かくできた。さっそく自家製加熱器具……もはや加熱だけに納まってないから加工器具とでも言うか…の一番上に風魔法陣をくっつける。
そしてちぎってない薬草の入った瓶を台の上に乗せると……
「バリバリバリッ」「ゴポゴポゴポ」「グツグツ」
やばい手を触れてないのに勝手にポーションが作られていく。これは見ていて楽しいぞ。
とは言っても俺のMPがどんどん吸われていくので聞いた通り魔法陣の隅っこに魔石Dを置いてみる。すると今度は俺のMPではなく魔石の耐久値が減り始めた。
やがて耐久値がなくなると魔石は消滅していった。これでとにかく手を触れてなくても最後の薬剤錬成の詠唱さえすればポーションが出来上がるわけだ。
と言っても今は効率のために火魔法陣と風、水魔法陣を分けておく。そして薬剤研究所の加熱台と、加熱用武器を取り出して……
7個同時ポーション製造を再開した。しかし今度は瓶のセットを自動でやってくれるため俺は瓶を動かし、薬剤錬成と唱えればよい。
合間合間に唯一解読してない転移の魔法陣の解読をしていく。ちなみにこれは無属性魔法陣だ。もう紙に書かなくてもなんとなく読めるところまで来た。幸い英語はこのパーティーで俺以外全員普通以上にできるのでわからない単語はチャットで聞いている。
単語覚えるの苦手なんだよなぁ
そんなこんなで空間魔法の解読に成功した。
Middle grade magic circle If[someone stepping on the this],the player above,Teleport to Harrob,I second,endif
日本語にすると「中級魔法陣、もし誰かがこれの上に乗ったら」、上のプレイヤーを、ハーロブへテレポート、1秒間、仮定終了 っといったところか。この「I」って「私」じゃなくてローマ数字の一か。相変わらずややこしい。
そしてHarrobって何って聞いてしまったじゃないか。まさか町の名前が出てきているとは思わなかった。さて、取り敢えずこれも解読終わったし、ポーション作成の手を止めないように研究していきますかね。
まず、恐らく中級魔法陣を格下げする必要があり、それには距離を短くした方がいいだろう。対象もアイテムにできるだろうか。
もしできるのであればポーション作成をますます自動でやることが出来るのではないだろうか。とその前に……
薬剤錬成を代わりにやってくれるであろう魔法陣に心当たりがあるためそれを先にやってみる。
ここ最近ポーションの売却益がかなり入ってきているけど、それを借金返済に充てる間もなく合金板に使われていくのが何とも……効率的で楽しい。
お金は持っているだけでは価値は落ちるのだ。使って増やしてこそ真価を発揮する。まあ本来装備になってダンジョン攻略の時間短縮に使われていたお金を使うのは少しだけ申し訳ないが。
とりあえず初級魔導書を開く。IIじゃない方だ。そこに「詠唱」という魔法陣がある。これは杖などに付与すると一緒に手にもっている魔石の魔力を使って魔法を発動することが出来る、という魔法陣だ。とは言ってもコスパはだいぶ悪くなる。
それをいつも通り合金版に付与する。対象だけいじって他はそのままだ。もう解読なんてしなくても中身は大体分かった。
さて、加熱し終えた薬草の煮出しのようなものを空きビン二つを使って隣の金属板に押し出した。完成していないせいでインベントリに直接入れられないのが辛い。
そして魔石を隅っこに置いておいて……金属板を使用すると、
いつもの薬剤錬成をした時と同じエフェクトで光る。そして桃色の液体の上には「HPポーションC+」のアイコンが浮かび上がった。
「よし!」
発動条件を「上の魔法陣が発動したら」に変えて唯一分解できない薬剤研究所が所持している水~火加工器具の下に据えた。
また少し効率が上がってしまった。
さあ、いよいよ転移の魔法陣の研究だ!