二つの魔法陣
俺は魔導の館へ行き作業を始めた。今回は短剣と杖に前の「対象の温度を100度まで上げる魔法陣」を使う。
おそらくこんなもの付与したところで武器は強くならない。武器を強化するには火属性付与、という別の魔法陣が必要になるようだ。
さっそく紙に前回書いたものと同じ魔法陣を書き写していく。結構慣れてきた。アルファベットを思い浮かべれば自動で頭で変換される。
15分ほどで一つ目を書き写すと短剣の上に被せて――
「魔導錬成!」
魔法陣の紙は光と共に縮まり、短剣の柄の部分にくっついた。にしてもコスト節約で木の短剣Dを買ってきたが、こんなものに火属性魔法陣を付けて大丈夫だったのだろうか。
まあ魔法陣を発動させなければ大丈夫だろう。魔法陣の発動条件は「誰かがこれを使ったとき」だから攻撃した瞬間にでも発動するのだろう。もしくは使用する、と意識した時か。この世界の「使用」の概念はあいまいでよくわからない。
火属性魔法陣は獲得経験値が多いのかすぐにLvが上がっていく。短剣と杖に交互に付与していって、合計6本が終わったところで魔導師Lvが10に達した。
「おや、結構魔道具作りも上達したようだね。そろそろ有属性魔法陣を使った魔道具を作り始めてもいいころかねえ。ほら、これをあげるよ。」
薬剤師の時と同じように「初級魔導書II」をもらった。
「ありがとうございます!」
「これからも頑張ってね」
よかった。どうやら目論見通り10Lvに達すると新レシピが貰えるようだ。
さっそく初級魔導書IIを開く。そこには火、水、土、風、光、闇、毒の属性を付与する魔法陣と、もう一つはそれぞれの属性を具象化する魔法陣……
「すみません、これどんな魔法陣なんですか?」
「ああ、これはねえ、例えば……これこれ。このランプみたいに、それぞれの魔法陣の属性の特徴を実在する形として作用させることが出来るんだよ。」
ランプの上側に手を触れると光っている。
「他にはどんなものが作れますか?」
「この扇風機なんかも魔道具だよ」
扇風機に触れ……ても何も起きないから「使用する」と言うと周囲の空気が動き始めたように感じる。なんと言うか……
現実の扇風機のように風を出しているわけではなく、恐らく扇風機の正面にある空気を動かして「風」を表しているのだろう。
そうだ、もう一つ聞きたいことがあったんだ。
「すみません、魔道具の一部を写し間違えちゃったんですけど、修正するにはどうしたらいいですか?」
「この魔法陣を使って、写す前の間違えた部分を、内側から二、三番目に書いて新しくする部分を内側から四番目以降にかけば良いよ。」
「なるほど……ありがとうございます。」
これで必要なことは整った。時間がかなり少ないので俺は急いで作業を始める。
まず新しい合金板を買ってきて、水属性魔法陣を付与してみる。おそらくこれで水が出現するはずだ。
水属性魔法陣の文字を解読するとこうなった。
Lower grade water magic circle If someone use this,X cm above this,Take out CCC ml of water,At that moment,Endif
日本語にすると
「初級水魔法陣、もし誰かがこれを使ったら、これの10cm上に、300mlの水を出す、瞬間的に、仮定終了」
ってところか。
さっそくこれを金属板に付けてみる。
「魔導錬成!」
淡い青色だ。こちらもとても見た目がいい。そして上にポーションの瓶を置いて「使用する」というと……
いつも瓶に入れている水の量が満たされた。成功だ。
そのあといよいよ薬剤研究所の魔道具の再現に入る。おそらくこの板を二枚重ねるだけでは二回使用すると言わなければならない。
魔法陣の中の文字を少しいじってみたらどうなるのか。魔法陣の板を重ねるだけであの魔方陣のプログラム言語もどきが連続してくれたらいいのだが……
水属性魔法陣の発動条件を「もし、何かがこれに触れたら」に変えておこう。
そして二つの魔法陣を重ねた。重ねるだけで接続されるのだろうか。間にケーブルとか導線とか何も入れてないが。
「すみません、魔法陣を二つ重ねる時ってどうすればいいのでしょうか」
「それはまだ教えられないのう……」
またか。仕方ない、恐らく薬剤研究所のところでは二枚の金属板の中には何も挟まってなかったからこのままでいい、と言うことにしよう。
俺は瓶にちぎった薬草を入れ、台の上に置いた。
すると……
「ゴポゴポゴポ」
「グツグツ」
成功したようだ。水が入った後に熱されている。しかもこれは台の上に瓶を置いただけで反応してくれるからより便利になった。今回の魔法陣の記述はこんな感じだ。
Middle grade water magic circle If[something touched this],X cm above this,Take out CCC ml of water,At that moment,Endif
Middle grade fire magic circle if[the above magic circle is activated],XII cm above this,Increase to C degrees,If [it reaches over C degrees or After II minutes]end Endif,Endif
要は後半の火属性の魔法陣の発動条件を「もし、上の魔法陣が発動したら」にしただけだ。これで成功してしまった。思っている以上にこのプログラミング言語もどき、テキトーに書いても思った通りに動いてくれるんじゃないか?
とにかく俺は魔導師さんにお礼を言って、薬剤研究所に戻った。途中総合市場を覗き、売上金をもらってきたが解毒ポーションの価格がどんどん下がっていっている。
一時的に需要が高まったおかげで値段が吊り上がったものの掲示板で騒がれたせいでまた落ちたな。
再び普通のHPポーションを作ることに決めて俺は薬剤研究所で三台の器具を同時に使いながらポーションを作り、合間合間にまた同じ魔法陣を紙に書いていった。
魔法陣は完成したけど合金版を買うお金がねぇ……
俺は一体みんなから借りたお金をいつ返せるようになるのだろうか。ポーションの価格が変わらなければいつか絶対返すことは出来るのだが。お金ってなんでこんなにも足りなくなるんだろう。すべては借金するための銀行が無いせいだ!
とにかく今はポーションを速く作らないと。
ん?待てよ。確かさっき作った使いどころのない短剣と杖にも「温度を100度まで上げる」の効果を付けたよな?ということは……
瓶にちぎった薬草を入れ、そこに水を入れてから杖をぶっさす。これで良し。
手を触れて杖を使うと水が温かくなってきた。
まじかよ
短剣は少し刃が大きくて瓶に入らなかったため二つを横に並べてその上に瓶を置いた。
できたポーションのアイコンは「HPポーションC-」とある。多少質は落ちているがどうせ飛ぶように売れるさ。今プレイヤーの多くはダンジョン攻略に夢中だからな!
そして俺はリアルで日付を越すまで3台の加熱器具と3本の杖と一セットの短剣を同時に動かしながらポーションを作っていった。
ここまで急ピッチでやっていると魔法陣を発動するときと薬剤錬成をするときに微量に消費するMPが目に見えて減り始める。
まあ今晩中は何とかなるだろう。
ちなみにMPを回復する手段はいくつかあって、一番簡単なのは宿に15分間いることである。またダンジョンの中にいる時も少しずつ回復していく。
おれはそんなことを考えながらポーションを作り続けた。あれれ、ここでは一人しか作業していないのに4分で7個ポーションが作られているなー。不思議だなー。
……それを冷たい目で見る薬剤師のおじさんがいるけども。
薬剤師さん、見ているなら薬草をちぎって細かくするの手伝ってくれー