パーティーの連携
ようやく10話です。
いつも読んでくださる方々に感謝!!
俺はログインするとボーロンを待って早速宿を出る。向かうのはシャロウ森林。おそらくそこにエリウム、ティウ、べリリーがいるだろう。
平原と森林の境目あたりで合流した。
「ゲームの中では久しぶり! ロージェ、ボーロン」
「お久しぶりです」
元気のいいティウとなぜかいつも敬語なべリリーが挨拶してくれた。
「久しぶりー」
俺はそっけなく挨拶を返したところで、さっそく移動である。
「おらぁ! じゃまだじゃまだ!」
いきなりエリウムからフォレストベアに切りかかっているし。残りの四人も嘗て組んでいたフォーメーションに自然と動く。と言ってもまだ一人いないが。あいつは神官だったな。
フィールド上の敵は弱いのであっさり倒すことが出来た。そして目の前には大きな石のピラミッドのようなものが現れる。
「ここが……シャロウ森林のダンジョンですか。」
盗賊のべリリーからしたらとっととピラミッドのお宝を盗んでいきたいところなのだろうか。そんなんことを考えながら俺たちはダンジョンに入っていった。
俺たちの基本の戦法はいたって単純だ。騎士のボーロンが敵を引き付け、それの補佐を盗賊のベリリーがしつつ、素早い動きで攻撃し、ダメージを与える。後衛にいる魔術師のティウはヘイトを集めないようにうまく魔法を打ち込み、エリウムが指揮をしつつパーティーの補佐をする、と。
俺はというと、場合に応じて全くやることが変わってくる。遊撃手のようなものだろうか。
いまは回復役がいないので主に薬草やポーションを投げる役になっている。ちなみに薬草もHPを回復させること自体は可能だが、回復するまでに時間がかかるし、一度の回復量はポーションの半分以下である。
ただ、今の時点では同じGを使って薬草とポーションを買ったときには薬草の方がコスパがいいので重要な戦闘以外では薬草を使うことになっている。
そんなこんなで進んでいたらボス戦だ。
ダンジョンの道中でボーロンを中心に作戦を練った。大きな失敗が無ければ倒すことが出来るだろう。
「開けるぞー」
ボーロンの控えめな掛け声と共にボス戦の扉を開けた。
「かかって来い!!」
スキル「叫び」をボーロンが使うと中にいる敵のヘイトが集中する。
この部屋にはフォレストウルフが二体とその間にキラープラントが一体いる。
「うわぁ嫌だぁ……」
すごい嫌そうな声をティウが出した。まあそう言う気持ちも分かる。相手はつる植物の集まりと言えばいいのだろうか、頭のところには大き目の赤い花がある。
相手の攻撃手段は基本的に手のようなつるで攻撃する、というものである。
「左のフォレストウルフ!」
エリウムが指示する。そして
「フォルテ・ディソネンス! 」
まだパーティーのメンバーのレベルが2であるのに対して推奨レベルが4であるダンジョンに挑めるのもエリウムが10Lvで取ったこの技があるから、と言っても過言ではないだろう。
相手は3体ともしばらく動きが止む。そのすきに左右のをフォレストウルフを倒し終わった。
「ボーロン、持ち替えて! ロージェ! アイテムを」
すかさず俺は前衛のボーロンとべリリーにポーションを投げる。ボーロンは盾と短剣の装備から両手で持つ必要のある大盾に持ち替えた。
「同時投げ」
前衛二人のHPがほとんど回復する。しかし……
「あ、すみません! 私毒状態になりました!」
キラープラントのつるの攻撃には低確率で毒状態の付与がある。神官がいれば治せるのだが……あいにく解毒薬はもっていない。俺は何か聞かれる前に首を横に振りつつ投げナイフを相手の顔に向かって放つ。
徐々に相手のHPが削れていく。しかし思っていたよりも相手のHP総量が多い。このままだと終盤魔術師のティウ辺りがまずいのではないだろうか。
「半分切ったぜ!」
その声に喜びつつも俺たちは配置を変える。と言っても支援のエリウムと投擲しかしない俺が下がって、残り三人が前に出るだけだ。ここからは相手の近接攻撃がなくなり、地面から根っこをはやして攻撃してくる。
かなり厄介な攻撃だがどうせどこにいても当たってしまうため物理防御の強い前衛に魔術師を付けた方がいい。
「ドゴォッ」
くっ。俺の目の前に根っこが現れてうまく防御できずに大きなダメージを食らってしまった。すかさずポーションを自分に使う。しかしクールタイムがあるためあまり頻繁にポーションは使えないのでこの後は慎重に使っていかなければならない。
「急所突き」「ファイアショット!」
べリリーとティウがそれぞれ攻撃を重ねていく。このパーティーにおいて一番のダメージソースはこの二人だからな。男子の方が攻撃しないって……まあ今更だ。
そんなことを考えていると激しい衝突音が聞こえた。ボーロンの大盾とキラープラントの根っこが衝突したのだろう。
「やばい!! 今度はオレが毒だ!」
エリウムも毒にかかった。しかしもう回復する手段がない。仕方なく回復を諦め、このまま戦闘を続行する。
ひたすら同じ作業を続けていく中、ポーションと薬草と各自のMPだけが削られていく。このままでは倒せない。
俺は冷や汗をかく。否、VRでは汗はかかないがかいているような気になる。
全員に焦りが出始めるがスキルの数も少ない中特に頑張ることもない。ひたすらミスをしないように気を付けるだけだ。強いて言うなら盗賊のベリリーが急所を狙って攻撃するくらいだろうか。
「これで最後だ! クイック・ビート!」
速いテンポの音楽が流れる。このスキルは移動速度+15%のみ、というこのPTにおいてそこまで使えるわけでもない効果だ。
「みんな頑張れえぇぇぇ!!」
と言ってエリウムは戦闘不能状態に陥り、パーティーから外れた。最後ってMP的にじゃなくてHP的にだったのか。
いよいよやばくなってきた。もう広範囲のバフは飛んでこない。MPもみんなかなりカツカツだ。ダンジョンにいれば微量に自然回復していくがとても追いつきそうにはない。
とは言っても倒せない敵には俺たちのパーティーは挑まないわけで――
「使うぞ」
俺はさっき買った火炎瓶を投げた。相手の顔に向けて。
「窃盗」
火炎瓶が相手の顔に当たる前にさりげなくベリリーが敵から物を盗むスキル「窃盗」を使ったようだ。MPがぎりぎり余っていたらしい。
相手は状態異常のやけどになり、ぐんぐんとHPが減っていく。この時も木の根っこの攻撃から身を守るために皆必死だ。
しばらくして相手のHPがゼロになった。
「やったーーーーー!」
ティウが大声で喜んでいる。
「上質な土を獲得しました。」
お、今度は土か。何か栽培でもするときに使いそうだな。
俺たちはボス部屋に現れた魔法陣に乗ってダンジョンの外に出た。
「エリウムさんに、これプレゼントしないとですね」
どうやらべリリーが「窃盗」に成功し、上質な土をもう一つ持っていたようだ。
俺もさっき転移したときの魔法陣のスクショがしっかり撮れていることを確認しながらみんなで宿に戻った。
「お帰りい!!」
「「「「ただいまー」」」」
エリウム、死んでも上機嫌なんだな。ちなみに今回エリウムは戦闘不能になった瞬間最後に寝た場所に飛ばされたがもし蘇生アイテムや蘇生魔法を使える人がいる場合には戦闘不能状態で2分間その場にとどまることになる。
「反省会するぞお!」
部屋は一部屋なので割と狭いが何とかみんな入った。今日ログアウトするときには女子は女子部屋を借りようか、と話している。
いつもの反省会を始める。と言ってもそこまで長くなることは無い。
「えでもさ、今回って素のステータスがみんな低かっただけで特に問題なく突破できたんじゃない??」
「オレ死んだっつうの!!」
「それは毒にかかったあんたの運が無いだけ。前衛のベリリーの方が回復は優先されるし。」
「……そうだな。」
……あっさり折れた。エリウムとティウはお互いよく言い合っているが、たいていどっちかがすぐに折れる。いつまでも言い合わない方がこのパーティーにとってもいいことなのだろう。そして俺は告げる。
「あのー、みんな、聞いてくれ。今回、ポーションと火炎瓶の経費に2000G近くかかっている。これはチームにとってかなり深刻だ。それに今回はたまたま俺がポーションを作り貯めしていたから足りたもののもし道具が減っていたらしんどかっただろうな。」
「それだったらやっぱり道中で休憩を入れてMPを回復させて窃盗でアイテムを盗むってのはどうです?」
「お金をかけてでも今はダンジョン攻略を急いだほうが……」
「いやいややっぱり……」
「前作とおなじでロージェが薬草集め頑張れが何とかなるだろー!」
「あのなー……」
みんな口々に意見を出し合い、話し合いをした。結局今日は具体的な今後の方策は出なかったし、まだ神官のあいつが来ていないこともあり、
「じゃあ、この後は各自自由にしてくれ!!」
解散となった。
チラッと帰り際に転移魔法陣の一番内側の解読をしたら
MIDDLE GRADE MAGIC CIRCLE
と書かれていた。これから魔道具作りも面白くなっていきそうだ。
戦闘シーンはこれからしばらく出てこないです。たぶん。