8話 記念日の悲劇
杏奈sideは1話だけなんですが、一応章分けします。 今回もなかなか惨い話ですのでご注意を…
もう飛華流くんと交際してから1ヶ月が経った。
私達は喧嘩なんて一度もした事がない。
これからする事があるかもしれないけど、絶対に別れない。
そんな自信があった。
というより嫌われないように彼に何かしてあげたかった。
そう思った私は今日、何かをプレゼントしてあげようと思い、適当にお店を見て回っていた。
その時、携帯が鳴った。
それは頼堂くんからのメッセージだった。
「今どこに居る?」と書いてあるそのメッセージに私は何も思わず、今居た店の名前を書いて送った。
既読はついたけど、返信は無さそうだった。
少し違和感を感じたけど、特に気にしなかった。
まずは服が売っているお店を見て回る。
彼はどんなのが好みなんだろう?
彼の私服は常に高そうな服なだけだから好みが分からない。
もしかしたら、どんなのでも私が選んだなら喜んでくれたり…
いや、例えそうなるとしてもやはり彼の好みの物を選んであげたい。
一通り見て回るが彼の好みだと思えるような物は無かった。
仕方ない。服は彼とまた見に来て買おう。
今回のプレゼントは別の物に。
そう思って次はお菓子が売っているお店に来た。
彼の好きなお菓子は何だろう…?と考えようと気付いた。
「あれ…?私って案外飛華流くんの事知らないんじゃ…」
1ヶ月も引っ付いていたのに何も知らないな。
っていうか高そうな物ばっかり着たり食べたりしてるから何が好きなのか分からないのは仕方ない事のような気もする。
そう考えながらも彼が好きそうだった食べ物などを思い出す。
しかし、彼が好きだと確信出来るような物は無かった。
早く決めないと集合する時間になっちゃうな。
そう思いながらお菓子の売っている店を出て、別のお店を見ようとしていた。
その時、通り過ぎる瞬間、目に入ってきたのはアクセサリーが売っているお店だった。
指輪やネックレスなど高そうな物、いや、本当に高い物がいっぱいあった。
これなら間違いなく喜ぶかもと思ったけど、今の私に買えそうな物は無いな。
と思って諦めようとした時だった。
私の目に入ってきたのは4000円とそんなに高く無いけど、綺麗なブレスレットだった。
そしてそのブレスレットは金、銀、黒など様々な色があった。
私には金と黒しか見えて居なかった。
すぐにそれを手に取る。
これなら彼も気に入ってくれる。
手に取った瞬間そう確信した。
「店員さん! これ買います!」
私はそう言って金と黒のブレスレットを買った。
黒の方は自分のだからそのままで、金の方はプレゼント用にラッピングをして貰った。
店を出て私は黒のブレスレットを右手首に付けた。
後は彼にこの金のブレスレットが入った箱をあげるだけ。
まだ渡して居ないけど、もう私は幸せだった。
恐らく今の私は不気味なくらい笑顔だろう。
でも、誰に気持ち悪がられても関係なかった。
彼との仲が深まるなら他には何も要らない。
そう思っていたから。
ニヤニヤとしながら私は集合場所に向かおうとしていた。
だが、行く手を阻む者が現れた。
前から来たのは青と白の髪の男の子と緑色の髪の男の子だった。
あの色からして恐らく彼等は能力者だろう。
その彼等は明らかに私の方を見ていた。
これは結構危ない状況かもしれない。
そう察した私は逃げようと思い後ろを向いた。
しかし、簡単に逃がしてはくれなかった。
後ろを向いた瞬間、水の弾が飛んできた。
その弾は私の腕を掠る。
「全ては成瀬 炎怒が悪いんだぜ…」
弾を撃ったであろう少年は私にそう言った。
成瀬くんが悪い…?
何の話をしているんだろう…
その言葉の意味を理解したかったが、そんな余裕は無かった。
何発も彼は水の弾を飛ばしてくる。
流石に避けるだけでは無理だろうと思い、私は闇の空間で自分を守る。
とりあえずまともに戦うわけには行かない。
ここは一時撤退するべきだと私は思った。
いくら弾を撃たれようと闇の空間が出ている限りは全部吸い込んでくれるから大丈夫だろう。
どうにか隙を見て、逃げたいけど…
自分を転移させるようの空間は他に空間を出して居ない状態で少し時間を掛ける必要がある。
だから、弾が撃たれている今は逃げようにも逃げれない状態だった。
少し様子を見ていると、彼は撃つのをやめた。
今しか無い。そう思って私は空間を閉じて周囲を暗くさせる。
おそらく彼等は今、自分の足元しか見えないくらいだろう。
そう思って私はすぐに転移しようとした。
これはどこに移動するから分からないからあまり使いたく無い。
だが、こんな危機なら使うしかない…
そして空間を出そうとしたその時だった。
後ろから私は一人の少年に肩を叩かれた。
振り返るとそこに居たのは緑色の髪の少年だった。
だが、すぐに異変に気付く。
私の肩を掴んでいる彼の髪は黒く染まっていった。
髪の色が急に変わるなんて…
不可解な出来事に困惑したが、それどころじゃない。
とりあえず今は逃げようと思って、彼から咄嗟に離れて座り込み空間を出そうとした。
だが、いつもなら出る時になっても空間は出なかった。
おかしい…何で出ないの…?
何かがおかしいと思った時、黒髪になった少年は笑ってこう言った。
「お前が出したいのはこれだろ?」
そう言うと彼は手の上に小さな闇の空間を作り出した。
何で私の能力を…!?
最初緑色の髪だったのに黒くなって私の能力を使っている…
まさか私から能力を取ったとでも言うの…!?
「やってやれ」
黒髪の少年はもう一人の少年にそう言った。
すると青と白の髪の少年は私に手を向けた。
すぐにその場を去ろうと立ち上がって逃げるが、彼の水の弾は私の両足を撃ち抜いた。
足を撃ち抜かれた私は倒れこむ。
このままだと殺される…
そう思って必死に這いつくばって逃げようとしたが、逃げれる訳が無かった。
青と白の髪の少年は私を起き上がらせて胸倉を掴む。
「恨むなら成瀬 炎怒を恨め」
そう言って彼はシャボン玉のような泡の球を出した。
その優しそうな泡に一瞬気が緩んだが、間違いなく殺されると思った。
誰か助けて…
その願いは愛しの彼にも見守ってくれているお姉ちゃんにも届かなかった。
泡が杏奈の顔に当たった瞬間、その泡からは散弾のように水が飛んで彼女の頭を吹っ飛ばした。
少年は手を離すと、彼女の頭が無くなった体は地面に倒れこむ。
その衝撃でポケットに入っていた金のブレスレットが入った箱は地面に転がっていた。
彼へのプレゼントは届かない…?