21話 母の望んでいた結末
俺はもう前を向けないくらい疲れていた。
これは疲れだけではなく恐らく辛い気持ちもあったからだろう。
ゆっくりと歩きながら俺は家に帰った。
家の前まで来て俺は違和感を感じた。
リビングの部屋の電気がついているようだった。
俺が出る時は間違いなく付けて居なかったはず。
玄関のドアを開けてみると、そこには母の靴があった。
俺は急いで靴を脱いでリビングへのドアを開ける。
ドアを開けた先で母はソファに座っていた。
まるで俺が来るのを待っていたかのように。
「終わらしてきたよ。この戦争を」
俺は母と目が合った時、そう言った。
「そう、やはりあなたを育てて間違いは無かったわ」
母はそう言いながら立ち上がった。
「兄さんは何がダメだったんだ」
「羅守屠にはこの世界を終わらせる力が無い気がした。あの人と私は二人ともがそう思った。だからよ」
だからだと…?
両親の勝手な想像で兄は捨てられたのか…?
その時、俺はとんでもない親に育てられていたんだなと思った。
こんな親に育てられてて良いのか…
俺は怒りを通り越して呆れていた。
すると、母は驚く行動に出る。
台所の方へ向かい、包丁を取り出してこっちに歩いてくる。
俺は思わず身構える。
まさか兄とは違って俺は消すつもりか…?
そう思ったが、母の行動は違った。
自分の腹に包丁を突きたてて、その手を俺に握らせた。
「さぁ、私の命もあなたが終わらせなさい。その手を押すのよ…」
母は俺にそう言った。
離婚していたところから仲が良くないと錯覚していたが、真逆だったんだ。
息子に命を終わらせる。そんな同じ道を行こうとしている。
俺は仲間の恨みや、兄を捨てるような非道さへの怒りからその手に力を込めて押そうとした。
だが、押せなかった。
これも母の計画、そう考えるともう思い通りになるのは嫌だった。
俺は強くその手を引いて、包丁を奪い取った。
「母さんは殺さない。それが俺の選択だ」
そう言って俺は包丁を台所の棚に戻した。
「私の…!いや…私とあの人の計画を壊す気なの!? あなたは黙って私に従えば…」
母がそこまで言った時、「俺はあんたの操り人形じゃない。俺は俺自身がしたい事をする」と言って俺は母の言葉を遮った。
母の事をあんたと呼んでしまうくらい俺は怒りが抑えられなかった。
それに驚いたのか母は黙り込んだ。
そんな母を横目に俺は自分の部屋に向かって歩き出した。
翌日
母との関係が変わったと思っていたが、母は昨日の事が無かったかのような対応をしていた。
「おはよう、ご飯出来てるわよ」
そう言った母の顔はいつも通りだった。
「あぁ、うん」
俺はぎこちない反応をして椅子に座る。
朝食を食べているときだった。
「昨日あなたに言われて我に返ったわ。あの人の計画はもう終わった。だから、これからはあなたの人生を狂わせるような事はしないわ」
母は俺にそう言ってきた。
「そっか、それならこれからも母として俺を見守ってくれないかな?」
俺がそう言うと母は嬉しそうに「うん」と言った。
今までは息子という名の人形でしか無かったが、今日からは違う。
本当の息子として生活するんだ。
それから少しして俺は忘れていた事があった。
突然家のチャイムが鳴った。
それに反応して外に出るとそこに居たのは警察の人達だった。
「成瀬 炎怒君だね? ちょっと署まで来てもらおうか」
例え能力が無くなってもまだ俺が父を殺した犯罪者である事に変わりは無かった。
警察署に俺は行って、ドラマで見るような部屋で椅子に座らせられて、話をさせられた。
「何で父親を殺害したんだ」
警察の人は怖い顔でそう聞いてくる。
「あの時の父は、能力を制御していて父を殺さないと能力を無くせ無かったんです」
俺は嘘をつかずにそう答えた。
「じゃあ、今回の能力は何で無くなったんだ」
「今回は機械のような物にその制御があってそれを壊したんです」
そう言うと警察は隣に居た人と目で合図して何かを考えていた。
「じゃあ、その機械を作ったやつは知っているのか?」
そう聞かれて俺は少し戸惑う。
母だと分かっているが、母だという証拠は無いはず…
俺が証言すれば母は捕まる。
皆の恨みを晴らせるかもしれない。
だが、俺は別の答えを選んだ。
「作った人は知りません」
そう答えると彼等は少し考えていた。
それから俺は少し待たされて、結果が言い渡された。
「もう帰っていいよ、君はもう無実だ」
少年法や、二度も世界を救っているというところが判断されて、父さんを殺した事は正当化された。
俺は一気に安心した。
これで俺自身も平和になった。
そう思いながら外に出ると、そこには風音さんの姿があった。
「無実になりましたよ」
俺がそう言うと彼女は「良かったぁ~!」と言って俺に飛び付いてきた。
能力によって崩壊した学校も今は改修工事が行われていて、約半年、ちょうど高校3年生になる頃には完璧に直っている予定らしい。
「これが平和なんでしょうかね」
俺は隣に居た彼女の方を見て聞いた。
彼女は微笑んで言った。
「分からないけど、あたしは平和だと思うよ? 炎怒くんと一緒に居られるんだから」




