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魔王を喚びました

 うん、先ずは落ち着く事が大切だ。


「ヒッヒッフー」


「それは違う」


「……」


 魔王に突っ込まれた。


「落ち着きなよ。"魔王"って言っても君達人間と敵対してる方とはまた別の"魔王"だからさ」


「何それ、魔王って何人も居るのか?」


「うーん……認識の違いというか何と言うか……まぁ、詳しくはWebで!」


「って、違うだろ!!」


「うはは! やっぱりいいノリしてるねぇ!」


 思わず突っ込んでしまったが、自称魔王のリンさんには嬉しそうに笑われる。


「うん、まぁ、認識の違いってのは本当だよ」


「認識の違いって?」


「あー、これは話すと結構長くなるから、先に契約しちゃおっか」


「そういや自己紹介途中だったな。俺は桜庭月夜。よろしく」


「うん、よろしく。んじゃ、握手しようか。それが契約条件でいいよ」


「んな簡単でいいのか?」


「ま、契約条件なんて所詮形だけのモノだからね。本当に実力を計りたくてやる奴は少ないよ」


「ふーん」


 差し出された手に自分の手を重て契約終了。

 本当にただの握手だった。


「あ、けど契約印は分かりやすい所に出ちゃうからね」


「それはまぁ、別にいいさ」


「後、俺は魔力持 ってないから、君に俺の魔力の3分の1を上乗せする事は出来ないよ」


「なんですと!!」


 使い魔召喚に置いて、俺にとって一番重要な利益が失われたと言うことか!?


「ごめんね。その代わりと言ったらなんだけど、俺の持ってる特性の一つ"魔眼"をあげる」


「"魔眼"?」


「魔力を視る事が出来る眼にしてあげるって事。どうやらツキヨは魔力断裂特性の刀を持ってるみたいだから、役に立つと思うよ」


「何で分かったし」


「魔王スペック」


「魔王パネェ!」


「どうも!!」


 ヤバい、二人揃ってテンション上げ過ぎた。

 コイツこのノリで魔王とか、冗談にしか思えない。


 うん?てか、


「魔王なのに魔力持ってないのか?」


「あー、それもまぁ、話すと結構長くなる話の中に含まれてるんだ。取り敢えず君達の世界に帰ろうか」


「おぅ。つか、ここどこなんだ? 俺、あんな小さい魔法陣からどうやってここに来たんだ?」


「えっと、ここは君達の言い方でいけば"魔界"だよ。俺の力でちょっと空間ねじ曲げて連れて来たんだ」


「流石魔王……」


 魔力無くてもスペックが半端なく高い。

 てな訳でリンと契約して戻って来たはいいけど、この状況どうしよう?


「ツキヨ、もう一度言ってくれるか?」


「えっと、俺の使い魔のリュウイン・ダークウェントだ」


「気軽にリンって呼んでね! 職業は魔王でっす!!」


「「「……」」」


 沢山の沈黙と武器が俺達に向いた。


「"魔王"ってどういう事なんさ? ツキヨ」


「あー、それは俺も今から聞くとこなんだ。リン、よろしく」


「はいはーい! それじゃ皆さん武器と殺気は仕舞おうか?」


「……皆下ろせ。」


 スウォンの言葉に従い皆が武器を下ろしたところでリンが話し出す。


「まぁ簡単に言えば、君達が今闘ってるのは"魔物"で、俺が統べてるモノ達は"魔族"なんだよ」


「どう違うんだ?」


「俺達魔族は元々人間だったのさ。特殊属性ってのがあるでしょ? 大昔、その属性を持った者は化け物と呼ばれ迫害を受けた。そんな者達が集まり、特殊属性の空間魔法を使ってこことは別の空間に自分達の国を築いたんだ。それが君達の言うとこの"魔界"。そうして長い年月をかけて俺達は"魔族"という人間とは全く違った種族になった。その歳月の間で、利害の一致が認められた人間と契約を交わす者が現れて、それが今の使い 魔召喚になったのさ」


「じゃあ、ドラゴンとかも魔族なのか?」


「彼等は"竜族"だよ。魔族でも魔物でもない、単一の種さ。属性神や世界神、天使なんかは"神族"という種になるね」


「悪魔や吸血鬼は?」


「彼等は"吸血属性"を持った人間が先祖だから魔族だよ」


「なんかややこしいな」


「まぁ、そこら辺は覚えなくても問題ないさ。魔族と魔物が全くの別物であるって事だけ理解してくれたらいい」


「それは大丈夫だ」


「なぁ、だったらよ、魔物ってのはなんだよ?」


「彼等は、理性を持たない只の進化し過ぎた獣さ」


「理性を持たない獣……」


「なら、何でその理性を持たない獣が束になって人間を滅ぼしにかかってるのさね?」


 ユースの問いにリンの表情が険しいものに変わった。


「理性を持たないモノは、理性を持つモノによって操られる事が常なんだよ」


「つまり、人が魔物を操ってるってか?」


「それは分からない。けれど、そういう事もあると頭に入れておく分にはいいんじゃないかな?」


「まぁ、そうだな。魔族ってのは使い魔以外は魔界に居るもんなのか?」


「いや、こっちの世界で自由に生きてるモノ達も居る」


「魔族と魔物の見分け方は?」


「簡単な見分け方としては、言葉を解すかどうかだね。魔族は言葉によって意志疎通が出来る。対して魔物は人間を認識した途端に戦闘態勢に入るから、余程先走った攻撃を人間がしない限り魔族と闘いになることは無い。出来れば見分け方は覚えておいてくれると有り難い」


 その言葉にそれぞれが頷く。

 それを嬉しそうに見やったリンが俺に向き直った。


「さて、こっからはさっきツキヨが俺に質問した事の答えになるけど、」


「魔力がないのに魔王をやってる理由か」


「そうそれ。実は俺、"死神"なんだよね」


「……死神ね」


 いきなりのカミングアウト。

 だが俺も大分慣れてきた。

 この位じゃあもう驚かない。


「そう死神。俺のご先祖様はその昔、魔力が無いからという理由で迫害され たのさ。けどご先祖様は相当に負けず嫌いだったらしくてね、それなら強くなってやろうって魔法を使わない純粋な戦闘技術を磨き続けた」


 何か近親感が沸く話しだ。


「強くなる為に世界中を旅したご先祖様は、まぁ色々あって一度だけ魔武器を生成する機会を得たんだって。それで生成されたのがこれ」


 何もない空間にかざされたリンの手に光が集まり、次第に形を成していく。

 光が収まった時リンの手に握られていたのは正に死神がよく手に持っている大きな鎌だった。


「大鎌?


「そう、"デスサイズ"。死神の大鎌だよ。俺のご先祖様はこれの力を借りて自分と同じように迫害された者達を統一した」


「だから死神で魔王なのか?」


「死神なのはデスサイズのお陰が大きいけど、魔王は違うよ。魔族は基本実力主義だ。いくら最初に統一したのがご先祖様だからってそれで俺が魔王をやれてる理由にはならない」


「実力主義でお前が魔王なら、お前はかなり強いってことか?」


「少なくとも魔族の中ではトップだよ。魔法が無くても勝つ方法なら幾らでもある。まぁ、実力で捩じ伏せるのが一番簡単なんだけどね」


 ニッコリ笑ってそう言ったリンは、確かに魔王だった。


「質問いいですか?」


 キサラギ君が手を挙げる。


「僕達は使い魔との契約により使い魔の魔力の3分の1を上乗せされ、使い魔は契約者が死んだ後その魔力を全て貰えるようになってます。けど、そもそも魔力の無いアナタは彼に何を支払い、何を貰うのですか?」


「えっと、先ずその認識事態が間違いなんだよね。俺達魔族は別に人間の魔力が欲しいから使い魔召喚に応じる訳じゃないんだ」


「では、何の為に?」


「まぁ、ぶっちゃけて言えば暇潰しさ」


「は?」


 正に『は?』だった。

 その場に居たリン以外の感想が一致した瞬間だっただろう。


「俺達魔族は暇を何より嫌う。人間の召喚に応じれば、少なくとも普通に生活するよりは楽しめるだろうからね。まぁ、ちゃんとした理由があって応じる者も居るけど、それらは極少数だよ。例えば君達が吸血鬼と呼ぶ者達。彼等は契約する代わりに定期的に召喚者から一定量の血を貰う。そうやってきちんとした利害の一致がある契約もあるけど、殆どの場合人間に求めるモノが特にないから魔力を貰うんだ」


「やっぱ魔力を食うのか?」


「食べる者も居るけど八割の者が魔界を保つ魔力に回すよ」


「魔界を保つ魔力?」


「そう。 魔界はご先祖様達の魔法で造ったって言ったでしょ? 魔界を造った者はもう居ないけど、召喚者が死んでもまだ魔界が在るのはね今魔界に住んでいる者達が契約によって得た魔力を魔界を保つのに回してくれてるからなんだ」


「魔族も色々あるんだな」


「人間程ではないさ。さて少年、君の問いに答えようか」


 そう言ったリンが指を鳴らすと俺の目に見えている世界が変わった。

 俺達を囲む様に立っている皆の回りにオーラとでも言えばいいのか、薄い色のついた膜のようなモノが漂っている。


「ぅわ!? なんだこれ!?」


「俺がツキヨにあげる契約の利益だよ」


「あー、さっき言ってた魔眼か」


「そう。魔力を視ることが出来る魔眼だ。今見えているのがその人が持っている魔力。で、色が違って見えるでしょ?それが属性。赤が火で青が水。緑が風で黄色は土。紫が雷」


「おぉ、成る程」


「魔眼は魔法の軌跡も視ることが出来るし、術者と魔法の魔力供給のパイプを君が持ってる刀で斬ってしまえば魔法の無効可も出来る。魔力が視えるってだけで君は何倍も強くなれるんだ」


 俺チートフラグのお知らせ。


「魔眼は好きな時に発動出来るから、必要無いときは普通の眼で居た方がいいよ。慣れないと酔っちゃうし」


「あー、確かに。ちょっと気持ち悪くなってきた」


 色んな色が視界を動き回るのだ。

 これは酔う。


「もう一つ、俺がツキヨにあげられるモノ」


 そう言ったリンが右手で俺の頬を包み、目の下を軽くなぞった。


「何これ、男同士でやるとテラキモス」


「そだね。ツキヨが女の子なら俺も喜び勇んでやるんだけどね。けど、最近では男同士のラヴもあるんだよ。ついでにこの世界では男同士の結婚も認められてる」


「いらん情報センクス。今気付いた。俺の周りには女子が少ない」


 数人のメイドさん以外でここ最近、性別が♀の方とお話しどころかお会いしていない。

 これは由々しき問題だ。

 因みにお姫様は俺の中ではもう、自分達とは全く別の生物に分類されている。


「ほらほら、無駄話しないで。もうすぐで終わるから」


「終わるって何が……って、痛っ!」


 リンが指を添えている目の下の部分が一瞬焼けるように痛んだ。


「ほい、終わり」


「終わりって、何なんだ一体?」


「鏡を覗いてご覧なさい」


「んー? って、なんじゃこりゃ?」


 リンが心底楽しそうに差し出して来た鏡を覗いて、思わず裏返った声。

 さっきまでリンの指があった箇所に刺青の様な模様が描かれていた。

 十字架を中心に、その後ろにクロスした二対の鎌の様なモノがある。


「君と俺の契約の印さ。十字架とそれを後ろから支えるデスサイズ。"死神"である俺を使い魔とした証」


「コレがお前が俺にあげられるもう一つのモノ?」


「そう。それがある限り俺は君の呼び掛けに応えよう。どんな事であれ力を貸そう。けれど覚えていてね。俺にだって意志がある。決して曲げられない信念もある。君が人として大切なモノを亡くした時、俺は"死神"として君の命を貰う」


「……それが俺がお前に支払う対価か」


「そうだよ。"死神"は罪深く決して赦される事の無い者の命を刈る。それが仕事だ。君は"そういう"リスクを背負いながら俺を使い魔として使役するんだ。勿論、何もなく君の一生が終わった時はそのすっくない魔力を貰うけどね」


「少ない言うな! お前なんて魔力ゼロだろうが!」


「今すぐ刈ってやろうか?」


「だが断る!!」


 ちょ、シリアスどこいったし。

 俺達のやり取りに皆の呆れた様な溜め息が部屋に木霊した。

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