魔武器生成と使い魔召喚
日が経つのは早いもので、俺が勇者召喚に巻き込まれて異世界に来て半月と少しが過ぎた。
「魔武器生成と使い魔召喚? 今日か?」
「うん。今からやるから月夜も見に来ない?」
久しぶりに話した斗里によると、本来ならもう少し後を予定していた魔武器生成と使い魔召喚を今日やるらしい。
なんでも予想以上に斗里の実力が凄かったらしく、もう教える事が殆ど無くなってしまったのだそうだ。
「……チート滅べ」
「何か言った?」
「いや、気のせいさ。地下の魔導室でいいんだな?」
「うん。待ってるね」
斗里と別れて15分。
ユースは王様や姫さんに会いたくないからと今回は来なかったが、その変わりに何故かキサラギ君がついて来た。
「ふん。貴方達の様な者が神聖なる勇者様の魔武器生成と使い魔召喚を間近で見れること、感謝なさい」
「姫さんのお陰じゃねぇだろ。斗里が誘ったから来たんだよ」
床に大きな魔法陣が描かれた部屋。その中央に立つトウリの邪魔にならないようにと隅に追いやられた俺達は、前回の事では全くめげてない姫さんに絡まれている。
もう、この姫さんに敬語使うのすらバカらしい。
「始まりますよ。お二人ともその口閉じて下さい」
キサラギ君の変わらない冷めた態度に安心感を覚える俺はそろそろ末期かもしれない。
斗里が手にした魔法石に魔力を込める。
魔法石からの光りが収まればトウリの手には剣が握られていた。
ほんのりと光を纏っている刀身に純白の柄。
「うん、正に勇者様の魔武器って感じだな」
「名前は"ジャスティス"で、特性は魔力付与。流した魔力によって剣自体の属性が変わってくるみたい。」
名前!!
"ジャスティス"って!!
思わず吹き出しそうになり慌てて堪える。
「それってつまり、風属性の魔力流したら斬撃が飛ばせるとか?」
「うんそんな感じ。」
ふーん。なら、全属性を持っている斗里が上手く使いこなせれば相当に強いって事か。
「トウリ、次は使い魔召喚を始めてくれ。」
「はい。"我が名は神深斗里。我の力に応えよ。召喚"!!」
召喚用の詠唱を唱えて魔法陣に魔力を流し始めた斗里の姿が消えた。
「逆召喚まぢテンプレ」
なら、使い魔は属性神辺りだろう。
案の定、数分後戻って来た斗里の横には無駄に美人な使い魔さんが一人居た。
名前は……忘れたが、やっぱり属性神だったみたいで、王様やら姫さんやらの驚き様に笑えた。
「で?」
たった一言の返答に俺は苦笑を浮かべる。
今は斗里の魔武器生成と使い魔召喚が一段落した昼下がり。
スウォンとの模擬戦の真っ最中だ。
「でってなんだよ?」
「いや、お前はそれやらなかったのか?」
「あー、斗里が一応王様達に俺にもやらせてくれるように頼んだんだがな……俺みたいな奴に使う魔法石や魔法陣は無いって一蹴された」
まぁ、魔法石も召喚用魔法陣も中々手に入る物ではないし、彼等の気持ちも分かるから特に反論はなかったのだが……
どうやらスウォンは気にくわないらしい。
「テメェ等の都合で喚んどいてここまで放置ってのも頭に来るが、闘う術すら与えてやらねぇなんざ真っ当な人間がやることじゃねぇな」
「そこまで怒る程のモンかね? 俺何かが召喚する魔武器も使い魔もたかが知れてるだろ。あってもなくても、居ても居なくても同じじゃね?」
まぁ、召喚された当初よりは多少魔力量は上がったが、属性は変わらず無属性しかない。
そんな俺が召喚出来る武器も使い魔もその力量に合ったモノだろう。
「お前は自分を過小評価し過ぎだ。身体強化は勿論、魔法も魔武器も普通に使ってる俺にただ身体強化しただけのお前が互角にやり合ってんだぞ?」
「けどまだ一度も勝ててないし、スウォンは本気じゃねぇだろ?」
「そりゃ俺が本気出したらお前ぶっ飛ぶだろうが。それでも俺の部下の中じゃお前に勝てる奴はもう殆どいねぇよ」
それは知らなかった。
この半月の間、俺は兎に角魔法を使わない戦い方をマスターした。
剣に始まり、銃や弓、槍や双剣、トンファーに斧。
ありとあらゆる武器を使って兵士の人達から使用人さん達。
時にはユースやスウォンにも相手をしてもらった。
そのお陰で今じゃ純粋な戦闘能力だけでいえば結構いい所まで行けるんじゃないかと思う。
「え、てか、もしかしなくても俺って結構強い?」
「そりゃ強ぇだろ。身体強化も入れた魔法全般禁止での戦闘なら、たぶんどの国の奴だろうがのAランクまでなら勝てるんじゃないか?」
「そこまで言うか」
「いや、実際今この世界の主な戦い方は魔法ありきのものが多いからな。純粋な人間本人の戦闘能力なんて精々そこいらの兵士位のモンだ。そんなかじゃツキヨはトップクラスの戦闘能力保持者って事になるな。このまま行けば俺もいつ抜かれるか分からねぇ」
真面目な顔で言うスウォン。
「更にお前は今の所、身体強化だけを主に学んでるからな。一日中身体強化しておける程の魔力コントロールも身に付いてるはずだ。んでもって、そうやって学んだお前の身体強化はそこいらの下手物がやるちゃちな身体強化では敵わない位の強さがある」
「あー、まぁ、身体強化だけなら自信あるな」
誉められて悪い気はしない。
取り敢えず素直に喜んでいれば頭上から大きな羽音が聞こえてきた。
「お、帰って来たか。ご苦労だったなルージン」
スウォンの言葉に呼応する様に降りてきたのは巨大なドラゴンだ。
スウォンの使い魔で"風のドラゴン"。空色に輝く巨体は頑丈な 鱗に覆われている。
名はルージン。オスだ。
ドラゴン自体使い魔として喚ばれる事が珍しく、その強さは最強種と言われる位である。
けれど決してスウォンがチート的強さを持っているという訳ではなく、スウォンの持つ魔力量、魔力コントロール技術、肉体的戦闘能力、戦術における思考能力、精神力など多くの要素の中からスウォンに合った使い魔ということで選ばれたのがルージンなのだ。
つまり、使い魔召喚においてはソイツの魔力量も属性も関係ないのである。
「てことは、俺でも強ぇ使い魔が喚べるかもって事じゃないか!!」
ヤバイ、そんな事実に今気付いた。
使い魔召喚なんてやらなくてもいいとか言ってたさっきまでの俺を殴りたい。
「お、召喚する気になったか?」
ルージンと何やら話していたスウォンが袋を持ってこちらへ来た。
「ほらよ」
「何だ?……おぃ、これって、」
投げて寄越された袋の中を確認すれば、小さな紙に描かれた見覚えのある魔法陣と一つの石。
「使い魔召喚用の魔法陣に魔法石じゃねぇか。どうしたんだ、これ?」
「ユースに頼まれてたんだよ。アイツ、お前が王様達に魔武器生成も使い魔召喚もさせてもらえないって予測してたみたいでな。どうにかしてお前に魔法石と魔法陣用意出来ないかって言われたんで地位と権力を駆使して用意してみた」
「流石、国王騎士団団長と王子様」
「まぁ、俺もユースも元々が平民の出だから大した物は調達出来なかったがな」
「いやいや十分だ」
「なら今晩、地下の使用人達の男部屋に来い。そこでやるからよ」
「分かった」
頷いてから再び袋の中を見る。
魔法石や使い魔召喚用の魔法陣は一般販売されておらず、殆どの人が学園での授業の一環として生成及び召喚を行う。
それ以外ではギルドで行う方法もあるが、こちらはバカ高い召喚料が必要になってくる。
「ほんと、ありがとな」
「気にすんな」
この魔法陣と魔法石 を手に入れるまでに彼等は一体どれだけの手を尽くしたのだろう。
権力と地位を駆使したと言っていたが、それだけで手に入る様な物なら誰も苦労はしないのだ。
だからこそ、俺はこの与えられた機会を無駄にしてはいけない。
彼等の苦労に結果で答えないといけないのだろう。