ユースが王子になった訳
「俺は元々この国の産まれじゃないんよ」
姫さんとのいざこざから一夜開けて俺は今ユースの自室でお茶を頂いていた。
今日の勉強の時間はユースの話を聞く時間に変更である。
「母親はもう物心ついた時には居らんかった。スウォンも同じさね。俺とスウォンは俗に言う孤児でな、生きる為なら何だってしてきたんよ」
「へぇ。スウォンとユースって幼なじみだったんだな」
「そうなんよ。スウォンの方が幾つか歳上やけどな」
盗んで騙して、流石に殺しはしなかったが死人の懐を漁る事もやったと、ユースは語る。
懐かしむ様に、ほんの少し悲しそうに。
「ギルドに入ったのも金を得る為さね。そこでスウォンと組んでまぁ、それなりに稼いでたんよ。そんな生活が終わったのが十二の時さね。いきなりこの国の使者が来たと思ったら俺は王子やって言われて、拒否する間もなくこの国に連れて来られた」
その頃から本当に気に食わんかったと、ユースは顔を歪めた。
「俺が何でこの国に連れて来られたんかは知らん。なんや王族の事情があるって言ってたけど興味もない。この国で第一王子として生きろって言われた時、最初は断ったんよ。やけどあいつ等は次にスウォンを連れて来た。スウォンを騎士団に所属させる事で俺に対する人質にしたんさね。そして、スウォンにとっては俺が人質……汚いやり方さね」
それでも捨てられなかった。
お互いにお互いが大切だから。
「それから俺は長年行方不明になっていた哀れな王子って事で国民達にお披露目されて、第一王子の座についたんよ。けど、実際は妾の子やから王位継承権はない。ただ、それでも王族同士の不仲は他国にとって取り入りやすい弱味になるからな。表向きだけでも仲良くしとったんよ」
そうして過ごした数年間。
スウォンはどうせ逃げ出せないのならと騎士団の団長にまで上り詰めた。
ユースは身に付けられる全ての事を身に付け、少しずつこの国での自分の味方を作ってきた。
そんな折りに勇者召喚が行われ、俺が巻き込まれてやって来た。
「昨日聞いてた通り、俺は姫さんからツキヨの監視を頼まれたんよ。やけど実際に会ってみればツキヨは自分でこの世界で生きていく為に行動を始めてた」
「そりゃ、帰れないならこの世界で生きるしかないからな」
「そうなんやけどさ、普通は怒るか嘆くか混乱するか……まぁ、取り敢えずそんな直ぐには受け入れられんやろ? しかも巻き込んだこの国の人間に文句を言うでもなく、ただ生きようとしとった。変な奴やなぁって思ったんよ」
「失礼だな。そりゃ、頭にはきたさ。巻き込んどいて何だこの扱いってさ。けど、そうやっててもどうにもなんないだろ? 生きていくには知識も力も必要だ。利用出来るモノは何でも利用するしかない」
「そう。そんな奴やから俺はツキヨに協力する事にしたんさね。理不尽に嘆き悲しむだけなら誰でも出来る。それをどう引っくり返すかを考え行動に移すか。ツキヨはそれが出来る。やから面白いと思った」
「誉められてる?」
「誉めとるよ。君は、他者を利用する事を厭わないけれど、自分の為に尽力してくれる者は大切にするやろ。キサラギ君から聞いたさね。昨日、あの後、姫さんに噛みついたんやろ? 自分の事は何言われても流してたのに、使用人の人達やスウォン、俺の事を悪く言われた途端に言い返したんやろ?」
「いや、だって腹立ったんだもんよ」
「そう、そんな君やから俺達も力を貸したくなるんよ。ツキヨ見てたらこれまで繕ってきたのが馬鹿らしくなってなぁ。やから俺もこれからは自由に生きようと思ったんさね。姫さんの言うことを聞くのももう止めや。気に食わんかったら言い返すし、嫌な事はやらん。そう決めた」
そう言ったユースの表情は晴々としていた。
「やからね、ツキヨ。何かあったら俺が守ってあげるから、君は自由に言いたい事言って、やりたい事やりなね。王にも姫にも遠慮は要らん。君はこの国の地位に縛られる事はないんやから、気に食わん事はこれからも気に食わんって言っていいさね」
「言われなくてもそのつもりだよ。俺、我慢出来ない子だからさ」
「ふはは!! そうやね、君はそういう奴さね」
昼下がりの王城の一角に男二人の楽しそうな笑い声が響いていた。