悪意には嫌味で返します
この姫さんは俺に一体何を求めているのだろうか?
部屋に入って俺の存在に気付いた瞬間から始まった嫌味と斗里自慢。
助けを求めたキサラギ君はさっさと掃除に取り組み出して関わる気ゼロだ。
「聞いてますの? 平凡で弱小な貴方が何故トウリ様から気にかけられないといけないのかと聞いているのです!」
「……」
いや、知らねぇよ。
そんなん斗里に聞けよ。
「いや、俺に聞かれましても分かりません」
出来るだけ丁寧に答えた俺ってエライ。
「ふん。落ちこぼれが気に入ったのは所詮同じような落ちこぼれってことですわね。聞くところによりますと、騎士団の訓練に混じったり使用人達の仕事を手伝ったりしているそうですが、貴方の様な者が何をやっても無駄でしょうね。貴方に加担している者達の気も知れないわ」
「……」
なんだか俺の悪口から俺に協力してくれてる人達の悪口に変わってきているが、ここは我慢だ。
「今の騎士団長、確か名をスウォンといいましたかね? 彼も元々は平民の出でしたわね。成る程確かにあの妾の子と馬が合うわけです。使用人達も所詮雇われの卑しい身。そんな方達と共に居る貴方の品格もそのくらいのモノという事ですわね。まった く、とっとと何処へなりとも行けばよろしいのに」
「……それで?」
一つ言っておこう。
俺は決して気が長い方じゃない。
それでも十分絶えた方だと思う。
けれど、だ。これはもう、言い返してもいいだろう。
俺だけの悪口ならまだしも、俺に協力してくれてる人達の悪口も言い出し、終いには彼等の実力なんて知りもしない癖に卑しい身とまで言いやがった。
俺は善人ではないから、俺に関係ない人の悪口なら幾ら言われたって構わない。
けど、そうではない人達の悪口は……俺に力を貸してくれている人達の悪口は流石に聞き流せない。
「我が儘気儘なお姫様。言いたい事は言い終えましたか?よく回るお口ですが、残念ながら私は部屋を掃除する術は持っていても、貴女様のネジ曲がった性格を直す術は持っておりません」
「なっ!!」
「心の底からの同情を申し上げます。ユースの様な聡明さが貴女様に少しでもあれば、この国の現状は違ったのでしょう」
「国王の実子であるこの私を馬鹿にするのですか!?」
「私は事実のみを申し上げております」
顔を真っ赤にして憤る姫さんに俺は無表情で答えた。
「人を貶す事にかけては一人前の様ですが、果して貴女様に今貶した者達に見合うだけの実力が備わっているのかどうか……」
「魔力が5000しかない者が偉そうにっ!!」
「俺に対しての悪口ならば幾らでも受けましょう。けれど貴女はただ自身が気に入らない者を貶す為だけに、貴女達の為に必死に働いている者達まで貶し、辱しめた」
「使用人が雇い主である私達の為に働くのは当たり前の事です!」
「そうだな。だが、そうやって働いている者に対して最低限の礼節を重んじるのは人として当たり前の事だ」
「っ!!」
「それが出来ないなら、あんたは先ず人として最低なんだよ。世間知らずのお嬢さん、あんたに人の事をとやかく言う資格はない」
「どこまでも人を馬鹿にして……!! "天地を焦がす灼熱の炎よ、」
ギリッと奥歯を噛み締めた姫さんが詠唱を始める。
「その業火で彼の者を焼き尽くせ! フレイム"!」
「"疾風"」
俺に向かって飛んで来た巨大な火の玉が突風によりかき消えた。
「なっ!?」
「遊んでないで掃除してください」
詠唱まで唱えて発動させた上級魔法を
詠唱無しの中級魔法で止められたのだ。
姫さんが言葉もなく立ち尽くしている。
対して、それをやってのけた張本人、キサラギ君は俺に向かってそう言った。
「おぅ、悪いな」
「別に」
そそくさと掃除へ戻るキサラギ君に習って俺も掃除を始める。
「掃除だけするのも時間の無駄使いですし、一つ問題を出しましょうか」
「お、いいな。なんだ?」
「この世界にある四つの国とその現状を答えてください」
キサラギ君の問題に吹き出しそうになった。
どうやら彼も結構頭にきていたみたいだ。
そして、俺みたいに直接反撃するのではなく、間接的に人を通して相手に精神的ダメージを与えるつもりらしい。
乗ってやりましょう。
「先ず、この世界の名前は"サンルリカ"。四つの国が存在していて、陸続きの中央大陸の東に"ハルオン帝国"。西に"インハーク帝国"。中央大陸を挟んで北側にある諸島が"マニフェス共和国"。同じく南側にある諸島が"ルラーシェン王国"」
今は協力体制にある国々だが、魔王復活という共通の危機が無ければ互いに武器を向け合っていたそうだ。
「ハルオン帝国は商業が盛んな国で、四つの国の中では一番裕福な国でもある。対してインハーク帝国は工業に優れた国で、武器や防具などは殆どがこの国で生産されている。武術に優れた人も多い」
ハルオン帝国は文化が日本的で、魔法名も漢字だ。
カンナさんやキサラギ君はハルオン帝国出身だと聞いた。
「マニフェス共和国は魔法に秀でた国で、新しい魔法なんかは大抵この国で生まれる。そしてここ、ルラーシェン王国は、全てにおいて最弱を誇っている。魔法も武力も金銭も、ルラーシェン王国は四つの国の中で一番劣っている」
「偽りです!!」
姫さんが叫びに近い声をあげる。
「事実ですよ。現に、貴女の上級魔法はキサラギ君の中級魔法に消されたじゃないですか」
しかも詠唱破棄した中級魔法にだ。
それは、術者の圧倒的な実力の差を物語っている。
「他の国にもギルド制度はありますが、」
不意にキサラギ君が発言を始めた。
「この国のAランクの人達は他の国からしたら精々Bランク。下手すればCランクの者達です」
「なっ!?」
「へぇ。それは知らなかった。そこまで弱かったんだな、この国」
素直に感心していれば、横から平手が飛んで来た。
寸前でかわして横を見れば、顔を真っ赤にして怒っている姫さん。
「さっきもでしたが、いきなり攻撃とは感心しませんよ」
「黙りなさい!! 勝手な事を好き勝手!! 今すぐ私の部屋から出ていきなさい!!」
「言われずとも。ちょうど掃除も済んだところなので」
一礼してキサラギ君と一緒に部屋を出る。
「因みにキサラギ君はギルド入ってるの?」
「ハルオンでは入ってましたがこの国に来る時に辞めました」
「ランクは?」
「Aでした」
「なる。強い訳だ」
そんな人達から直々に特訓受けれる俺ってば実はすげぇんじゃないだろうか?
そう思った今日この頃だった。