反対意見は反対です。
「だから、何でまたお前まで居るんだよ、斗里?」
夕食後、俺の部屋に集まった面々。
その中に一人、呼んでいない人物が居た。なにこれデシャブ。
「俺は月夜の友達だろう? 一緒にこの世界に来た。だから、俺にも聞く権利はあると思うんだ」
「……まぁいいや」
溜め息混じりに許可を出し、さて何と切り出せばいいかと一同を見渡す。
「旅に出るって、何でまた急にそんな事になったんだ?」
俺が言うより早くそう聞いてきたのはスウォンだ。
「うーん、急にって訳じゃないんだよな、別に。元々俺は斗里が魔武器と使い魔を召喚するくらいまではここに居ようかなぁって思ってた訳だけど、それが予想よりも早く行われてしまったせいでなんだか決心がつかなかったんだよ」
本来なら俺達がこの世界に来て1ヶ月後に予定されていた魔武器生成と使い魔召喚は優秀過ぎる斗里のせいで半月という早さで実行された。
そのせいで俺の心の準備やら、その他の準備が全くもって間に合わなかったのだ。
だがしかし、気が付けばもう1ヶ月は過ぎていた。
時が過ぎるのは早いものである。
と、いう訳で、斗里や姫さんと学園に行くのはお断り、何時までもここでお世話になりっぱなしも気が引ける。ならばどうすると問われれば『旅に出る』しかないではないか! と一念発起したのだ。ついさっき。
という説明をすれば、何だか複雑そうな皆の顔。
「えー、何その変な顔は? ダメか?」
「ダメと言いますか……いえ、少し驚いただけです。貴方は何も考えずずっとここに居るものだと思っていたので……」
何時ものハキハキとした口調とは違い、どこか困惑を含んだ声で言ったキサラギ君。口の悪さも鳴りを潜めている。
「旅なぁ。まぁ、いいんじゃねぇか? 力は十分についたし、世界を見て回るのも一興だろ」
グシャグシャと髪を撫で繰り回してきたスウォンがニカッと格好良く笑うので、俺もつられて笑った。
「……私は? 私も連れて行ってくれるの?」
「うーん」
見上げてくるセーラちゃんを抱き上げて少しだけ返答に困った。
連れては行きたい。だけれど、旅には危険が付きまとう。旅先でご臨終なんてよくありそうな話だ。
可愛い我が子をそんな危険な旅に連れて行っていいものか。
ここは父親に意見を聞こうと上げた視線の先で、当のユースはなにやら難しい顔をして考え込んでいた。
「ユース? どうした難しい顔して? もしかしてお前は反対なのか?」
俺の勝手な想像では、ユースは誰よりも先に賛成を示してくれると思っていた。
なんだかんだ言いつつ、俺にこの世界で生きる為の力をつけさせてくれたのはユースだ。ユースが紹介してくれた人達が力を貸してくれなければ俺はこの世界の常識すら身につける事は出来なかったに違いない。
そして、今、この世界で俺の事を一番理解しているのもユースだと思う。
そのユースが無言で考え込んでいる。なんとなく不安になってしまうのも仕方ない事だと思う。
「……いや、うん、ツキヨの考えは分かった。いいと思うさね。セーラちゃんの事は三人でまた話し合おうさね」
そう言ったユースは、やっぱり難しい顔をしたままだ。
「なぁ、ユースお前は」
「俺は反対だよ、月夜」
「……」
被せてくるんじゃねぇよ斗里。
「お前の賛否は聞いてねぇよ」
「どうして? だって俺と月夜は友達だよね? ねぇ、月夜はこの世界に来てから変だよ。どうして俺から遠ざかろうとするの?」
「……はぁ?」
すがり付く勢いで言う斗里に思わず本気で引いてしまう。
いや、しょうがないだろ。
「遠ざかろうとするってお前、別に俺とお前はそこまでベッタリした交友関係でもなかっただろうがよ。そもそも、友達だから側に居ろってのも変な話だろうが。友達だろうがそれが俺の行動に口出し出来る権利って訳じゃねぇだろ」
「ならユース王子やスウォン騎士団長やそこの使用人の人はその権利があるの? 友達の俺より? 何で?」
「この人達は俺がこの世界で生きていく為の手助けをしてくれたんだ、当然だろ。斗里、お前は俺がこの世界に来てからどんな扱いを受けていたか知ってるか? 巻き込んどいて一切の支援は無しだ。城に居る事だけを許して後は放置。お前とだって会う機会は殆どなかった。そんな環境で、俺がただただお前を待っているだけだと思ったか? 勇者なお前が役目をこなして迎えに来てくれるのを待ってるだけだと? どこのお姫様だよ、バッカじゃねぇ」
俺の言葉に斗里が黙り込む。
俺がそんないい子ちゃんじゃないってのは流石に理解しているのだろう。
「……でも、旅なんて何が起こるか分からないし、危険だよ」
「危険は百も承知だよ。だけど、それに対処出来るだけの力はつけたつもりだ」
「……」
「お前は勇者だ、斗里。だけど俺は違う。勇者に選ばれるくらいだから、お前は他人の為にっていう行動原理でこの世界を救えちまうんだろうよ。けど残念ながら俺にそんな考えはミジンコ程しかない。しかもそれが発揮されるのは極々一部の人に対してだけだ。だから俺は勇者には成れない。成りたいとも思わない。けどよ、それがこの世界で何もしないでいい理由にはならないだろ」
"勇者"を求めて行われた勇者召喚。
"勇者"だった斗里と"巻き込まれた"だけの俺。
この世界での役割がある斗里と、ない俺。
けれど、それがどうしたというのだろう?
そもそも生まれた時からその世界での役割が決まっている人なんて居ない。
そんなモノは生きていく中で自分で考えて体験して見つけて行くのだ。
"勇者"じゃなかったからお城でボーっと生きていけばいいなんて筈ないだろう。
「俺がこの世界で何をやりたいのかを探す旅だ。お前はそれでも反対するのか?」
「……しないよ。ごめん、月夜」
「分かればいいさ」
俺と斗里の話が纏まったのを見届けたキサラギ君があの、と口を開く。
「出発はいつにするのですか?」
「うーん、必要な物を揃えて、お世話になった人達に挨拶して、ついでに王様にも挨拶して迷惑料を幾らか貰える様に交渉してからだから、2週間後くらいかな」
「2週間……そうですか」
「あぁ。明日からさっそく動くから、午前中の訓練が終わったらまた町に行って必要な物の下見でもしてくる。騎士団の人達にはその時にでも伝えるか。準備にかかるお金も王様に出して貰いたいから、その後王様に話に行こうかな。ユース、王様に時間貰える様にお願いして貰っていいか?」
「いや、王様には俺から話すさね。お金の事も任せてくれ」
「そうか? なら頼んだ。セーラちゃんの事はまた、明日の夜にでも決めような。後は、使用人の人達に伝えないとだけど、明後日の夜とか皆時間空いてるかな?」
「祖父に皆を集める様に伝えておきます」
「ありがとう、キサラギ君」
そうして本格的に決まった俺の旅の準備は次の日から始まった。




