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思い付きました。

 タクトに続きキャシーさんも居なくなったこの場所に残るのは、出来れば今すぐにでも席を立ちたい俺と、何だか物言いたげにチラチラこっちを見る斗里だけだった。


「ねぇ、月夜」


「だが断る」


「まだ何も言ってないよ!?」


「言わなくていい! 寧ろ聞くのを断る! 喋るな!!」


「ちょ、酷すぎない!? 何でそんなに嫌がるのさ!?」


「嫌な予感がするからだ! 俺にとって全力で回避したい事がお前の口から飛び出すと、俺の第六感が言っている!」


「え、なにそれカッコいい。って、そうじゃなくて! 俺の話を聞いてよ、お願いだからさ」


 すがり付きそうな勢いで頼んで来る斗里に渋々ながら話を聞くことにした。


「月夜もさ、一緒に学園に通わない?」


「……」


 そらみろ。本当にろくでもない内容だったじゃねぇか。

 今さら学園なんかに通ったって、勇者な斗里と違って俺にはやる事なんてない。全くもって無駄である。


「あのな斗里、俺は……お?」


 断りの言葉を言おうとした時、トン、と頭に何か乗る。


「……リン?」


《そうだよ、皆を連れて来たよ》


 テシテシと肉球で頭を叩くリンの言葉に通りの方に目を向ければ眼鏡やフードや帽子で変装をした見知った顔が4つあった。


《変装道具を一式揃えて、あの四人を見つけ出してここまで連れて来たよ》


 頑張ったでしょー、と言うリンの頭を撫でてやって席を立つ。

 俺の返事が聞けなかった斗里も若干不服そうにしながらも着いてきた。


《……俺、タイミング間違えた?》


 チラリと斗里を伺い見たリンが聞いてくる。


「いんや、ナイスタイミングだ。俺が今さら学園なんぞに行く意味が分からないからな」


《学園?》


「あぁ、魔法や戦い方を学ぶこの国の学校だ。斗里は姫さんとそこに通うんだと」


《それにツキヨも誘われたの? 行くの?》


「行かねぇよ。俺が学びたいのはソコにはないしな」


《ふーん。じゃあ、ツキヨは何処で何を学びたいの?》


「……そうだなぁ、この世界で、この世界の事を知りたいな」


 言っていてふと名案が浮かんだ。


「そうだな、うん、そうだ。俺は別にここに居ないといけない訳じゃないんだよな」


《ツキヨ?》


「何でもない。けど、リン、俺は面白い事を考え付いたぞ!」


《面白い事? へぇ! どんな事なの?》


「んー? そうだな、今言うと斗里の奴が今日1日うるさいだろうから、他の奴と一緒に最後に教えてやるよ」


《わぁ、焦らすなぁ。まぁいいや! 楽しみに待っとくよ》


「そうしてくれ」


 そうして、俺だけが精神的に疲れた時間は取り敢えず終わりを告げた。


 その後からは結構楽しい時間だった。

 セーラちゃんの服を買い歩いて、目についた店で昼食を取り、町の観光名所なんかを回って。

 うん、時々寄越される斗里からの物言いたげな視線とか、変装道具を身に付けても滲み出てしまうらしいイケメンオーラと可愛いオーラに惹かれてたまにやって来る人達がなければ、最高に楽しい時間だった。

 斗里の視線を浴びるのも、寄って来た人を追い払うのも俺の役目という、悲しい現実がなければ本当に楽しい時間だった。


 そうして日が暮れ始めた頃に城へと戻り、皆と別れるというその時に俺の考え付いた面白い事を暴露してやる事にした。


「なぁ、斗里」


「なに?」


「俺は学園には行かねぇぞ」


「……何で?」


 俺の言葉に少し機嫌が悪そうに問いかけてくる斗里。

 他の奴等は"学園"という単語で斗里が俺にどんな話をしたのか予想がついたみたいで静観している。

 てか、王子なタクトと騎士団団長のスウォンは分かるけど、何で使用人のキサラギ君まで話の流れが分かってしまうのだろう? 俺の周りの人達って、どんな情報網を持ってるわけ? それとも、公にされていないってのは民衆にってだけで、城内だともう有名な話だったりするのか? 知らなかったの俺だけって? なにそれ泣ける。……じゃねぇや。話を続けよう。


「今更俺が学園に行く意味が分からないから」


「意味って、だって月夜も魔法とか戦い方とか学ばないとでしょう? この国についても知っておかないと……」


「魔法も戦い方も、ついでに知識も間に合ってるよ」


「え? だってエリシアは君に教師はつけないと言っていたよ?」


「別に教師じゃなくても教える事は出来るだろうが」


 一瞬、エリシアって誰だ? とか思ってしまった。

 忘れてる人のために一応、エリシアってのは斗里ハーレム隊、隊員No.1の……って、違った。この国の王女の名前である。テストに出るから覚えておくように。なんてな。


 てか斗里お前、俺に教師がつけられない事を知ってたんなら何か手を打てよ。何で俺をそのまま無知でいさせようとしてんだよ。まぁ、俺ってば出来る子だから自分で行動しちゃったけどさ。

 俺の言葉に何故か狼狽えている斗里。こいつの考えている事がこの世界に来てから全く分からなくなってしまった。

 前の世界に居た時は、一応親友をやっていたからそれなりに考えている事とかが分かっていたけど、今ではサッパリだ。

 まぁ、大した問題ではないからいいのだけれど。


 さて、また何か言いたそうに口を開けたり閉めたりしている斗里にやっと本題の面白い事を暴露してやろう。


「俺は良いことを思い付いたんだがな、斗里」


「え、なに?」


「お前が学園に行くなら、俺は旅に出ようと思う」


「「「「……は?」」」」


 おっと、斗里だけでなくユース達も揃って困惑気味に声を上げたな。

 リンだけが猫の姿そのままにニンマリと口角を上げている。それ怖いからやめろ。


「ちょ、待って月夜。どういう事?」


「どうもこうもそういう事だ。まぁ、俺もさっき思い付いた事だからな、色々と細かいことはこれから決めようと思う。と言う訳で、夕食後にでもユースとセーラちゃんは俺の部屋に来てくれな」


「え? あ、あぁ、分かったさね」


「うん」


「ちょっと待て、俺も行くからな」


「僕も行きますからね」


「おー、分かった。んじゃな、斗里。おやすみ」


「え? いや、ちょっと待ってよ月夜! って、何でダッシュ!? ちょ、はやっ……」


 後ろで何か叫んでいる斗里をガン無視して身体強化してからのダッシュを決めてやった。ふふふ、追い付けまい。

 さーて、これから忙しくなりそうだ。

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