表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/25

まだまだ始まったばかりだとよ

「……」


「……」


「……」


《やっちゃったねぇ》


 どうしてこうなった、と誰でもいいから問いたい。

 俺の目の前にはニヘラと笑うタクトとニコニコと笑う斗里。

 斗里の右手は俺の左手首を掴んでいて、俺の右手はタクトの左手首を掴んでいる。


「どうしてこうなった……」

 

 呟いてみた所で状況は変わらない。

 取り敢えず数分前の出来事を思い出してみる。


 そう、俺はセーラちゃんを救い出す為にわんさかと群がる人の中に突入したのだ。

 とても恰幅のいいおば様おじ様方の間をほぼ押し潰されながら何とか進み、チラリと見えた細い腕を掴んだのと同時に俺の左手首が掴まれて、そうしてそのまま引っ張られて人混みを脱出した所までは良かった。

 掴んだ腕を放さない様に頑張ったのも良かった。

 ただ問題だったのが、セーラちゃんだと思って安否を確かめる為に振り返ったその先に居たのが何故かタクトで、更には俺の左手首を掴んでいたのが斗里だったという事だ。


「問題しかねぇじゃねぇか」


《セーラちゃんとタクトを間違えたツキヨが悪い》


「うぐっ……」


《そもそも女の子と男を間違える?》


「ぐふっ……」


《てか、母親としてどうなの、それ?》


「ふぐぅ……」


 リンからの冷たい言葉に地面にめり込みそうな位に精神的ダメージを負った。

 けれど実際に俺の体が地面にめり込む事が無かったのは、未だに握られている両手のおかげ……いや、これおかげじゃねぇな。


「何でまだ俺の手を握っているんだよ、斗里? てか、タクトも何で俺の手を握ってるの?」


 手首を掴んでいた筈の斗里の手は今や俺の手をしっかりと握っているし、最初は俺が掴んでいたタクトの手首は既に放した筈なのに、今度はタクトが俺の手を握っている。


 イケメン二人に手を繋がれるフツメン。しかも三人とも男。

 …………笑えない。寧ろ泣きたい。


「いやぁ、折角だしこのまま二人で町を巡ろうかとおもってさ~」


 ブンブンと繋いだ手を振りながら言うタクト。


「折角ってなんだ、それ? てか、セーラちゃんを城から連れ出すってのが大前提の計画なのにそのセーラちゃんを置いて行くってどういう了見だよ? 俺の可愛い娘をあの人混みから救い出さないといけないんだよ、俺は……って、あれ?」


 言うと同時に先程抜けて来た人混みを振り返ったのだが、そこには既に人混みなど存在していなかった。

 可笑しい。俺が見ていなかった数分間に一体何があった?


「セーラちゃんは既にスウォンさんが救出済みでぇ、他のメンバーも自力であの人だかりを抜けたみたいだよ~。因みに彼等は俺達とは逆方向に行ったってさ~」


「は? おい、そういう事はもっと早く言えよ!」


「え~? だって俺もさっきジンに聞いたばかりだったかからさぁ。しょうがないじゃん~」


 へらへらと笑って言うタクトに文句を言っても仕方ないと、他のメンバーが行ったであろう通りに目を凝らすが、やっぱりその姿は確認出来ない。


「なぁリン、お前ちょっと行って皆を探して来てくれよ」


《んー? まぁいいけど、その間この二人の相手はツキヨ一人でやるの?》


「……一時間以内で頼む」


《この町、結構広いんだよ?》


「……一時間半」


《二時間で。じゃあ、行って来るね。頑張って!!》


 ピョン、と肩から飛び降りた黒猫姿のリンを見送って俺は目下の問題を片付ける事にした。

 

 取り敢えず、


「手を離せお前等!!」


「おっと」


「あー」


 勢い良く両手を振り、繋がれていた二つの手を強制的に外す。


「リンが戻って来るまで俺達は待機だ。路地裏にでも入って休んどくぞ」


「「えー」」


「……」


 二人分の不満の声が上がった。

 綺麗にハモった声と不服そうな表情。

 いい年した男二人がやっても全く可愛くないし、寧ろ気持ち悪いのだが……


「なんですか、不満ですか、そうですか。じゃあお前等は何したいんだよ?」


「一緒に町を巡ろうよ~」

「一緒に町を巡らない?」


「「「……」」」


 再びハモった二人。

 今度は俺も黙るしかなかった。

 もう、どうしろと?


「あー、」


 キョロキョロと回りを見渡す。

 あまり遠くに行くのは得策ではない、というのは建前で、この二人と町など巡った日には俺はきっと色々と無事では済まないだろうから出来ればここから動きたくない、というのが本音である。


「ならほら、そこのカフェに入ろうぜ?」


 少し先に見えたテラス席。

 『カフェ・フィスタルカ』と書かれた看板が提げられているソコを指して言えば取り敢えず頷いた二人。

 内心ガッツポーズしたのは決して表に出さずに歩き出す。


 斯くして、俺の受難だらけの一日は始まったのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ