生きる努力を始めました
そんなこんなで次の日。
斗里は早々に国王さん達に呼び出されたようなので、俺は1人城の散策中。
「ここが書庫ね。閲覧は自由にしていいって言われたし、本でも読むか」
適当に手にした本に目を通す。
まぁ、地球と使われてる文字は違ったがそこは異世界補正なんだろう、問題なく読むことが出来た。
「まぁ、大体はよくある異世界モノの話と同じ様な世界観か」
まずは魔法。
魔法には属性があり、火、水、風、土、雷の五属性が基本的なモノだ。
因みに俺が持っている無属性はこの世界の全員が持っている属性であり、主に身体強化や転移、治療魔法などが含まれる。
五属性以外にも特殊属性と言うモノがあるみたいだが、今現在特殊属性を持つ者は確認されていないそうだ。
五属性全てを持っている勇者なトウリですら特殊属性は持っていなかった。
それほど珍しいということだ。
次に魔武器。
これを創るには特殊な石が必要になるそうだ。
石は魔法石と言われる奴で、石自体に魔力が宿っていてそれに自分の魔力を流す事でソイツに合った武器が生成される。
魔武器にはそれぞれに特性があり、それは生成した本人でないと引き出せないそうだ。
最後に使い魔。
これを行 うには特別な魔方陣がいる。
使い魔とはこの世界、あるいは魔界に生息している魔のモノ、つまり魔物だ。
ソイツ等を魔方陣に魔力を流す事で呼び寄せ契約により使役する。
契約の内容は喚ばれたモノによって違ってくるが、もし提示された契約条件を満たせなかった場合、最悪召喚者は死ぬ事になってしまう。
「命懸けでやるような事かね」
「やるような事なんさね」
呟いた俺の言葉に答える声。
「やぁ、初めまして。君が巻き込まれ被害者A君やね? 俺は君の身の回りの世話を頼まれたユース・アルカイナ。ユースって呼んでな」
そう言って右手を差し出して来たのは白い癖毛に翠の瞳をした美男子。
イケメン滅べ。
「こっちの世界風に言うと、ツキヨ・サクラバです」
「ツキヨやね。砕けた口調でか構わないさね。よろしく」
握手して、多分この世界で初めてまともに自己紹介して、そして思った。
「イケメンまじで滅べ」
「いきなり真顔で恐ろしい事言うんやねぇ」
「あぁ、悪い。つい本音が」
「本音なんやね!? 嘘とか冗談とかやないんやね!?」
「五月蝿いぞユース。書庫では騒がない様に言われていないか?」
「……うん、ツキヨのキャラがよくわかったさね」
息をついたユースが俺の向かいに座る。
「本当はお姫さんには君の監視を頼まれたんやけど、君は思ったより面白そうやから俺が色々教えてあげるさね」
そう言ったユースが自身の左手の甲を見せて来た。そこには不思議な紋様が描かれている。
「使い魔と契約してる人は身体のどこかに紋章が刻まれるんさね。この紋章がある限り召喚者は使い魔を何時でも自分の元に呼べるんよ。そして使い魔なった魔物は召喚者が死んだ時、ソイツの魔力を全部貰える。魔物にとって人間の魔力は至高の食べ物みたいなんさね。けど、魔力が貰えるのは召喚者が天寿を全うした時だけ。やから使い魔は主を守るし力も貸す。対 して人間の方は、使い魔の魔力の3分の1が自身の魔力に上乗せされる。それに使い魔は立派な戦力や。このご時世には重宝されるんよ」
「成る程ね。互いに利益があるって訳か」
「そうさね。ついでに、召喚した使い魔が強ければ強い程刻まれる紋章は小さく、刻まれる場所は分かりやすくなるんよ」
つまり、手の甲に収まる位の大きさで、尚且つ目につきやすい手の甲に紋章が刻まれてるコイツの使い魔は結構強いと?
「因みにユース、お前の魔力数と属性は?」
「魔力数は2千万で属性は火と風さね」
「2千万って……お前もしかして"帝"さん?」
"帝"というのはギルド加入者の中でも特に優れた能力を持った人が与えられる称号だ。
今の所この国には火、水、風の三人の帝と全ての属性に精通した全帝の四人が居る。
「いやいや、俺は只の雇われ兵さね。使い魔が居なかったらせいぜい1千万ってとこさね。凄いのは俺じゃなくて使い魔の方さ」
それでも凄いと思うのだが……
「まぁ、いいや。なぁ、無属性の魔法教えてくれないか?」
「お安いご用、と言いたい所やけどそれならその道のプロに習った方が早いさね」
そう言ったユースに連れて来られたのは城の外れにある兵士達の訓練場だった。
「スウォンさん居るかい?」
「これはユース様! 少々お待ちを。只今呼んで参ります」
ユースに綺麗な敬礼をして身を翻した兵士。
「ユース様って……」
思わず吹き出した俺にユースが苦笑する。
「なんや、さっき知り合ったばっかなんに失礼やな」
「わりぃ、何か似合わねぇと思ってさ」
「別に構わないさね。これでも一応貴族やから様なんて呼ばれてるけど、似合わないのは自分が一番理解しとるんよ」
「ふーん、貴族だったのか」
「なん、貴族は嫌いかい?」
「別に。俺はユースが気に入ってるから、どうでもいい」
「おやおや、俺もツキヨはお気に入りさね」
「随分とご執心なようだな、珍しい」
話していた俺とユースの前に立ちそう言った人物。
群青色の肩より少し長い髪を後ろで結び、右目には眼帯。開いている左目は灰色。背は高く、服の上からでも分かる筋肉。
見ただけで分かる。彼は"戦士"だ。
「やぁスウォン。呼び立ててしまって申し訳ないね。実は折り 入って頼みがあるのさ」
「お前からの頼まれ事でいい事だった試しがないが、まぁ、話位は聞いてやる。ソイツと関係ある事なんだろ?」
「そうさね。ツキヨ、彼は国王騎士団団長のスウォン・ルーク。スウォン、この子は勇者様に巻き込まれてこっちに来たツキヨ・サクラバ」
「ツキヨでいいです。よろしくお願いします」
「俺もスウォンでいい。後、敬語も無しでいい」
握手した手はユースのと違いゴツゴツしていて、それだけで彼が相当な使い手なのだろうと実感出来た。
「それで? 俺に何を頼みたいんだ?」
「ツキヨに闘い方を教えて欲しいんさね」
「ツキヨに?」
「あぁ」
「ユース、俺は無属性の魔法を教えて欲しいって言ったんだぞ?」
「そうさね。だからこそ、ツキヨは先ず闘い方を学ばないといけないんさね」
「?」
「あー、成る程な」
首を傾げた俺に対してスウォンは納得した様に頷く。
いまいち理解出来ていない俺にスウォンが説明役をかってでてくれた。
「まぁ、簡単に説明するとだな、無属性の魔法は今の所身体強化、転移魔法、治癒魔法の三つしか確認されてない。これは知ってるか?」
「あぁ。ここに来るまでにユースから聞いた」
「よし。んで、その三つの中でも一番簡単で魔力の消費量が少ないのが身体強化だ。これはまぁ、術者の実力にもよるが、どんだけ威力を抑えてかけたって通常の倍は運動に置ける基本スペックが上がる」
「抑えてかけて倍って……どんだけ……」
「しかし、だ。ゼロに何をかけてもゼロにしかならないように、基本スペックがゼロの奴がどれだけ身体強化しようが無意味だ。分かるか?」
「なーる。つまり、魔法どうこう、魔力どうこう以前に俺自身が強くなる必要があるって訳か」
「そういう事さね。魔力も魔法もやろうと思えば何時だって増やせるし学べるさね。けど、それには先ずそれを使う人間の基本スペックが必要になってくるんよ。現にこの世界では剣を使えん人間が魔法を使う事なんて出来ないのさね」
便利な力に頼る前に自分を鍛えろと。
中々にシビアな世界だ。
「因みにツキヨ、お前の属性と魔力数は?」
「魔力数 は5000で属性は無属性」
「……苦労しそうだな」
スウォンに憐れみの視線を向けられ、ついでに肩を叩かれる。
「余計なお世話だ!!」
「フフフ。さて、それでスウォン? 頼みは聞いてくれるんかね?」
「……ツキヨ、お前何でここに居る?」
「はい?」
スウォンの突飛な問い掛けに思わず聞き返す。
「あぁ、いや、この世界にって訳じゃなくてだな、何でこの場所に居るんだ?」
「それは俺が連れて来たからさね」
ユースの答えをスウォンは笑って否定した。
「うーん、そういう事でもなくてだな……」
「生きるためだな」
言えばスウォンの目がスッと細まる。
「ほぅ」
「まぁ、巻き込まれて連れて来られた世界だけど、間違えましたで帰してくれる程簡単な事象でもないみたいだし」
これは昨日の内に確認済みだ。
別の世界の人間をこちらの世界に召喚する術はあっても、その逆は無理らしい。
つまり俺達はこれから先、この世界で生きていくしかないということだ。
「なら、少ない魔力で弱い俺がこんなファンタジーな世界で生きていくには強くなるしかない」
闘い方を身につけるしかない。
だからユースに魔法を学ぼうとした。
そしたらここに連れて来られた。
「まぁ、かっこよく言ってみたが、ぶっちゃけ魔法使ってみたいし、ファンタジーな冒険大好きなんだよね、俺。だから、この世界を思いっきり楽しんでやろうかと」
「楽しむねぇ」
「フハハ! やはり君は面白いさね」
俺の言葉にニヤリと笑った大人二人。
「いいぜ。闘い方については俺が教えてやる。他の奴等にも言っておくから時間が開いたらここに来い」
「闘い方と平行して俺がこの世界や魔法について諸々教えてあげるさね」
「いいのか? これは俺の我が儘だし、二人の時間を割く程のモノでもないだろ?」
「俺達がいいと言ってるんやからいいんさ。君は面白い。今の所、只の"勇者に巻き込まれた憐れな弱者"である君が一体どこまで行けるのか見てみたいんさ。」
「そうだぜ。せいぜい俺等を楽しませてくれよ、ツキヨ。」
「精一杯頑張らさせて頂きます……」
こうして、俺の異世界ライフが始まった。
午前中はスウォンと兵士さん達に混じって訓練及び模擬戦。(スウォン曰く、下手に知識入れるより身体で覚えた方が早いとのこと。)
午後からは使用人さん達の手伝い。(流石にただ飯食 いは気が引けた為。)
夕方からユースに色々と学んで少しだけ魔法の練習。
寝る前にまた使用人さん達の手伝いをして、最後の最後に使用人さんの誰かに模擬戦をして貰って1日が終わる。
そんな生活をし始めて早10日。
思った事がある。
「此処に居る人達スペックたけぇ……」
兵士の人達は勿論のこと、執事さんや果てにはメイドさんまで、この城に勤めている人達は基本凄く強いのだ。
そりゃぁもう、今の俺がどんなに必死になっても笑って倒される位に。
「当たり前さね。此処には国王が認めた実力者しか居ない。一人一人がギルドAランク以上の力を持ってるんさね」
「うわぁ、俺良く生きてるな」
「ツキヨも今ならCランク位は行けると思うさね」
「何かそれ微妙……」
「魔法使わん純粋な武力だけでCランクは凄い事なんよ。さて、ここで問題さね。ギルドランクを下位から順に答えてな」
「えっと、一番低いランクはEランク。次がDランクでその次にCランク。で、BランクがきてAランクに、最高位がSランク。けどこの国にSランクは現在"帝"と呼ばれる四人と国王の五人のみ」
「正解さね。因みに"帝"の中でも"全帝"の強さは他の"帝"の比じゃないさね。"帝"は他の国にも居るけれど、この国が一番人数が少ないんよ」
"ギルド"。この世界ならではの組織だ。
簡単に言ってしまえばバイト派遣会社みたいなもので、世界中の依頼がギルドに集まる。
勿論、報酬つきだ。
ギルド自体の種類も様々で、貿易から販売までを主に請け負う商業ギルドや、建物の建築やあらゆる機器の製造、開発を行う工業ギルド、犬の散歩から魔物の討伐まで、雑事から有事までを幅広く請け負う傭兵ギルドなどがある。
自身のギルドランクによって受けられる依頼は限られるが、高位ランクの依頼であればそれだけ危険であり、またその分報酬はばかでかい。
ランクアップは所定の条件をクリアするか、A、又はSランク、それかギルドマスターの推薦、年間の依頼成功率80%以上で出来る。
ギルドランクAからは二つ名が与えられ、それが宣伝効果をもたらしてくれたりもする。
それぞれのギルドは所属する国の何処かに本部を置き、そこで依頼の管理やギルドメンバーの登録が行われる。
各ギルドのまとめ役としてギルドAランク以上のギルドマスターが必要になり、ギルドを立ち上げる際は最低五人のメンバーが必要とされる。
因みにさっきユースが言っていた全帝はこの国の全てのギルドマスターを纏める"総ギルドマスター"でもある。
ギルドはこの世界にある全ての国で共通しているので国の隔てなく依頼を受ける事が出来る。
依頼主は依頼するギルドを国に関係なく選べるのだ。
受ける方もまた然りで、自身が所属するギルドではない本部からでも依頼を受ける事が可能である。
ギルドに登録している者にはギルドカードが渡され、それには所属するギルド名やギルドランクが記されているらしい。
「ユースやスウォンは何ランクなんだ?」
「俺はBランクさね。スウォンは国王軍だからギルドには入ってないけど、Aランク位にはなれる実力があるんよ」
「俺の周りBかAランクしかいねぇ」
「まぁ、姫さんもAランクやし、勇者君もギルド入る頃には最低でもBランクにはなってるやろうからね」
「あっちは国王と姫さん直々にもう特訓してるからな」
俺なんざ、召喚された日からこっち一回もあの二人に会っていない。
この扱いの差、笑える。