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そりゃまぁ、こうなるわな。

「俺は、この国にあるのかと聞いたんだよ、お姫様?」


 言った俺の顔を見た姫さんが震える手でトウリの服の袖を掴んだ。


「自分は王女だ王族だ、妾の子に獣人に、民に示しがつかない、ねぇ……なぁ、アンタ、なら聞くが、この国にさっき言った様な施設が無いのは何でだ?」


「それは、」


「この国が他の国より劣っているのは何でだ?」


「別に劣ってなどっ!!」


「廃止された筈の"人形"がまだ裏で売買されてるのは何でだ?」


「な……」


「……なぁ、答えろよ」


「……それ、は、」


 怯えた様に斗里にすがり付く姫さんを見ながら大きく息を吸い込む。

 異変を感じ取った人達が視線を向けてくるが無視だ。


「他者を虐げる者が人の上になど立てる訳がないだろう!!」


「ヒッ!?」


「"人間"でなければお前の言う"民"にはなれないのか!? それが本当に"王族"である者の考えならば、こんな国滅びるべきだ!! 否、何れ必ず滅びる運命にあるだろう!!」


 パァン!! と乾いた音が響いた。

 ヒリヒリとした痛みが左頬から伝わってくる。


「アナタにっ!! 異世界から来たアナタにそんな事言われたく無いです!! 何の責任も負わないアナタなんかにっ!!!」


 ボロボロと泣きながら半ば叫ぶ様に言った姫さんが踵を返す。


「月夜、言い過ぎだよ」


 嗜める様に言ったトウリも姫さんを追いかけて行った。


「……間違った事言ったかね、俺?」


「まぁ、間違っちゃいねぇが、言い方がな……流石に滅びるべきだとか、滅びる運命だなんて言われればこの国の奴等からしたら胸糞わりぃだろ」


「それでも、」


「それでも事実さね」


 俺の言葉に重なる形でそう言ったのは、セーラちゃんと手を繋ぎながら此方へ来たユースだ。


「この国は他の国より種族差別が激しい。使い魔にしたモノにはそうでもないけど、此方の世界で暮らす魔族に対しての差別は酷いさね。やから"人形"なんてモンが出来た」


 ギュッと、セーラちゃんがユースと繋がれてる手に力を入れた。


「姫さん等は知らんといけんさね。それがこの国の現実で、最も忌むべき部分であると。やないと、この国は本当に滅びてしまう。人も、国も、全ての行いはその身に返ってくるモンやからね」


 セーラちゃんの頭を撫でながら言ったユースがそれまでの難しい顔から一転笑顔になり、話題を変えてきた。


「それよりツキヨ、タクト王子から面白い話を持ち掛けられたやろ?」


「あぁ。明日からセーラちゃんと俺達の内一人がついて城の外で行動するってやつな。お前も聞いたのか」


「事後報告やったけどね。セーラちゃんも納得したから特に反対もしなかったさね。内容的にこっちにも得があるしね」


 明日からが楽しみだ、と笑ったユースにセーラちゃんも頷いた。


ーーーーー

ーーー


 一夜明けて次の日。

 タクトとの約束通りセーラちゃんを連れて城門に着いた俺は早々に帰りたくなっていた。


「……なんで皆居る訳?」


 俺の言葉の先に居るのは、ユースにキサラギ君、更にはスウォンと斗里まで。


 ユースは分かる。セーラちゃんの父親だ。

 けれど、


「キサラギ君とスウォンは仕事は?」


「僕は今日まで休みを貰っています。アナタに心配されずとも、そこら辺は抜かり無いですよ」


「俺も今日は非番だ。昨日の話聞いてたからな。一応護衛くらいは必要だろ?」


「俺も今日は一緒に行くよ。月夜が心配だしね」


 いや、斗里には聞いてないんだが…

 てか、心配って何だ? 心配って。


「何か大所帯になっちゃったねぇ」


「本当にな。……俺、帰っていいか?」


 こんなに居るなら俺が居なくても大丈夫だろうと言えば、握られているセーラちゃんの手に力がこもった。


「……ダメ?」


「ダメ」


 可愛い娘にダメと言われちゃ仕方ない。

 改めてメンバーを見渡す。


 ユースにタクト、キサラギ君とスウォン。ついでに斗里。リンは今日は黒猫姿で同行だ。


「この嫌がらせ染みた面子、絶対に面倒事に巻き込まれる気がする」


「まぁまぁ~! 何はともあれ楽しもうよ、ね?」


「……ハァ」


 タクトの暢気な発言に深いため息を溢して、俺達は城下街へと繰り出した。


ーーー


 すっかり忘れていたけれど、斗里は"勇者"だった。


 そして、これまたすっかり忘れていたけれど、ユースは"王子様"だった。


 そしてそして、更に忘れていたけれど、スウォンは国王騎士団の"団長"だった。


 さて、このお三方にプラスして見掛けがとてもいいタクトとキサラギ君。

 更にプラスして、とっても可愛いセーラちゃんが一個団体として行動していたらどうなるか想像して欲しい。


「……ハァ」


《凄いね》


 群がる群衆。

 それを少し離れた所から見る俺とリン。

 その中心には言わずもがな、共に城下町に繰り出したのメンバーが居る。


「俺、帰っていいか?」


《後から全員に怒られる覚悟があるならいいんじゃない?》


「あー、それは嫌だな」


 吐き出した溜め息に、リンが器用に猫の姿のまま肩を竦めた。

 

こうなったのは城下町に出ていくらも経たない時だった。


 最初に斗里が掴まった。

 そりゃそうだ。

 昨日あれだけ大々的に大衆に顔を晒しておいて、何の変装も無しに街に出ればこうなる。


 次にスウォンとユースが囲まれた。

 二人共何だかんだで有名人だ。

 それに何だか民の間では二人の人気は高いらしい。

 昨日みたく顔を隠す事をしていなかったユースと、そもそも隠す気すら無かったスウォンはあっという間に人々に囲まれて見えなくなった。


 最後がタクトとキサラギ君とセーラちゃんの三人だ。

 仲の良い兄弟に間違われた三人はものの見事におばちゃん、おじちゃん達に囲まれ、あれやこれやと物を貰っている。


 一人残された平々凡々の俺。

 暇です。


「なぁリン、あれどうにかして」


《流石の俺でも無理かなぁ》


「これじゃ、何しに来たのか分からないな」


《まぁ、特に目的があった訳じゃないんだけどね》


「けど、これはあんまりだろ」


《そーだね。セーラちゃんに街を見せてあげる事も出来ないしね》


「……ハァ」


《行くの? "お母さん"?》


「可愛い娘の為だしな」


 重い溜め息を一つ。

 そうして俺は、いきなり大勢の人間に囲まれて少し泣きそうになっているセーラちゃんの元へと足を進めたのだった。

別のサイトで連載してた物語です。

一応ここまでがその別サイトで書いてた内容になりますので、次からは他の作品と平行での更新となります。

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