悪口は半分は本当です
「それでぇ? 俺の事は大体話したから、次はツキヨの事を教えてよ~」
「うん? 俺の事か? 名前は桜庭月夜。勇者召喚に巻き込まれた哀れな一般人だよ」
言えば、一瞬キョトンとした顔をされ、次いで深く頷かれた。
「あ~! 君が噂の"無能で野蛮な口だけは達者の成り損ない"君かぁ!!」
「……喧嘩売ってる?」
浮かべていた笑顔が僅かにひきつってしまったのは仕方ない。
「売ってない、売ってない!! エリシア様がそう言ってたんだよ~」
エリシア様……
「あぁ、あの斗里ハーレム隊、隊員No.1の世間知らずで頭の中が可哀想なお姫様か」
いきなり名前だけが出てくると分からなかった。
「ハハ…アハハハハ!! か、仮にも一国のお姫様を"世間知らずで頭の中が可哀想"って!! アハハ! "トウリ"って、勇者君だよねぇ? 何、彼女は彼のハーレム隊の隊員No.1なの? い~ね~、それ。俺も入ろうかな? ハハハハハ!!」
腹を抱えて笑いだしたタクトに俺とスウォンは顔を見合わせる。
コイツ、大丈夫だろうか?主に頭が。
「ハハ、ごめんねぇ。怒らないでね~。ただ、可笑しくて」
『いや、別に怒りはしないけど、何がそんなに可笑しかったよ?」
俺は断じて変な事は言っていない。
……うん。本当の事しか言っていない。
「いやさぁ、お姫様に挨拶に行った時に君の事を散々貶してたからさ~」
「あぁ、やっぱり俺何か悪口言われてたか」
だからさっきから来賓客の人達からのチラチラと窺う視線がウザい訳だ。
「うん。すごいよ~。君が来てから城の雰囲気は最悪だって事から始まって、今まで大人しくしてたユース王子までが君の影響で素行が悪くなったとか、兵の訓練や使用人達の仕事に参加しては邪魔ばかりしているとか、自分に暴言吐いたとか、ユース王子の名をいいように使って獣人を養子にしたとか」
「おぉ! スゴいな。まぁ、五分五分で合ってるんだがな」
「五分五分って言っても、兵の訓練や使用人達の仕事に参加してる事とか、お姫様に暴言吐いたとか、獣人を養子にしたって事だけでしょ~」
「何だ、知ってるのか?」
「うん。その後、ユース王子とか使用人の人達とかにも話聞いたからねぇ」
タクト・マーラフェス。
チャラチャラしている様でその実、しっかりと物事を見極める目を持っている。
その言動や態度から腹の底が読めない分、敵に回すと厄介そうだと思わせる人物である。
「でもさぁ、大丈夫なの?」
言葉は心配を表してるのにその声音にはまったくそんな色は伺えない。
「……何がだ?」
「君達の子供の事だよ~。獣人ってだけでもいい印象は受けないだろうに、更に元"人形"ってなると暇な貴族さん達のいい遊び道具になるんじゃないの~?」
「……」
「それに、養父母の持つ肩書きも彼女にとってはいいものじゃないでしょ?」
「……"妾の子の王子"と"素行が悪い異世界人"か?」
「そう。君達は自分の肩書きについてだけ色々言われるだろうけど、そんな君達の子供であるあの子は君達の分と自分の分の謂れのない悪意ある言葉を浴びせられる」
それまで弧を描いていたタクトの目がスッと細められた。
「気を付けた方がいいよ~。人の心は簡単に壊れてしまうんだから……」
「……なぁ、タクト。お前何でセーラちゃんが元"人形"だって知ってんだ?」
それは俺とユース、キサラギ君にリン。
それとスウォンの五人しか知らない筈のモノだ。
それが他の奴等に知られれば面倒臭い事になるのは目に見えていて、だからこそ隠す事にした彼女の悲しい過去。
それを何故コイツが知っているのか……
「目的は何だ?」
あくまで静かに訪ねる。
セーラちゃんの過去について調べ俺やユースの事を探るその目的は?
コイツは何をしようとしている?
警戒を強めた俺の意思に応える様に、緑布威が風も無いのにはためいた。
「いやだなぁ! そんなに恐い顔しないでよ~」
再びへらへらと笑いだしたタクトは降参とばかりに両手を上に上げる。
「別に君達をどうこうしようとは考えてないよ~。ただ、最初に会った時からちょっと気になって、俺の使い魔に君達の後をつけてもらってたんだぁ。だから一通りの事情は知ってるんだよ~」
「使い魔?」
「そ~だよ」
パチン、とタクトが指を鳴らせば何も無い空間に突如小さな竜巻が発生した。
「俺の使い魔のジンだよ。風の精霊王なんだ~」
竜巻が止んだ後に立って……というか浮かんでいたのは掌サイズの小さな人。
深緑を基調とした浴衣の様な服に身を包み、同色の髪は長く腰の中ほどで軽く結われている。
顔は美形の分類なのだろうが、如何せん小さ過ぎて良く分からない。
「……てか、"精霊王"?」
「そう、"精霊王"。スゴいでしょ~! 因みにサイズは伸縮自在だよ~」
その言葉に合わせる様にポン、と音を立てて更に小さく成った精霊王さんはニヤリと楽しそうに笑うのだった。