夜会にて再会
着なれない服は実に動きにくい。
燕尾服もどきのような、まぁ、言ってしまえばお洒落スーツを纏った俺は自分の姿を鏡で見て溜め息を溢す。
「なぁ、本当に俺も出席しなきゃいけないのか?」
あの後、やっとの思いで斗里を引き剥がし俺の部屋への避難を成功させて寛ぐ事一時間。
部屋にやって来た使用人の"夜会への出席が決まった"との言葉に唖然とした俺達を余所にそそくさと準備を始められて今に至る。
「勇者様の願いだそうなので出ないといけないでしょうね。ユース様は元々出席の予定でしたし、セーラ様の出席も認められたので、大人しく諦めて下さい」
「つってもなぁ。俺、生まれてこの方夜会なんて出たことないから作法も何も分からないんだが……」
「簡単ですよ。面倒に巻き込まれたくないなら、隅の方で適当に愛想笑い浮かべて立ってればいいんです」
「あー、それが一番だな。分かった」
まぁ、こんなフツ面にわざわざ構ってくる物好きも居ないだろうと高を括って参加した夜会。
初めて見る豪華絢爛な食べ物達に目を輝かせたセーラちゃんを連れたユースが各国から来た貴族達の中に足を踏み入れれば、あっという間にそこに人の群れが出来上がった。
《すごい。彼は本当に王子だったんだね》
《今更だな、リン》
黒猫の姿で肩に乗っているリンと念話で話ながら適当に皿に乗せてきた物を食べる。
「よ、ツキヨ。お前こんな所に居たのか」
「……スーツ似合わないな、スウォン」
ワイングラス片手に近づいて来たスウォンは何時もの兵士服と違い、白と青を基調としたスーツを着ていた。
「うっせーよ。お前も何でその格好に緑布威巻いてんだ?」
「一応俺の魔武器だしな。身に付けてた方が何かあった時にいいだろ。それより、スウォンはこう言う場合会場警備とかやってるもんだと思ってたんだが、違うのか?」
「いや、これもそれの一環だ。ガチガチに外を固めてたって、元々中に入られてたら意味ねぇからな。一応何人かは客に紛れて中の警備にあたってんだよ」
「成る程な。てか、仕事中に酒呑むなよ」
「こんな場じゃ呑んでねぇ方が怪しまれるってんだ。それに、こんな度数低い酒で酔うかよ」
グイッと一気に残りの酒を煽ってから近くに居たボーイにグラスを渡したスウォンがバルコニーに出ようと誘って来る。
同じようにボーイに持っていた皿を渡してから後に続けば、開けたバルコニーにはまばらに人が出ていた。
「あの獣人の子、お前とユースの養子なんだよな?」
「セーラちゃんか? そうだけど、何か問題あるか?」
そう話題を振ってきたスウォンの表情は硬い。
彼に何か咎められる様な事があっただろうかと首を傾げていれば、お前達には問題ないと否定された。
「ただよ、王様や姫様はいい顔しないだろ。下手すりゃ、身に覚えのない言いがかりをつけられる対象にされちまうんじゃねぇか?」
心配そうに言って来たスウォンの視線は会場内のセーラちゃんへと向けられている。
「心配してんのか? スウォンってまだセーラちゃんとまともに話してないよな?」
夜会の前に紹介がてら顔を見せに行っただけだから、話どころかまともに声を聞いてもいないのではないだろうか。
それなのにあの子の心配をしている彼は果たしてそこまでお人好しだっただろうか、と考えていればぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。
「別に俺も見ず知らずのガキの心配なんざしねぇよ。ただ、あの子は違うだろ。お前とユースの子供なら、俺にとっちゃぁ姪っ子同然だ。心配位するさ」
「……スウォンって意外に優しいよな」
「意外ってどういう事だよ」
「ちょっ、痛い!! 頭、いたっ! ちょ、ギブギブ!!」
さっきまで頭を撫でていた手でギリギリと締め付けられる。
「あれ~、ツキヨだ」
手を放して欲しくてバシバシと叩いていれば、聞き覚えのある声に呼ばれた。
「は? タクト? 何でここに居るんだ?」
昼間会った時とは全然違うきちんとした服に身を包んだタクトがヒラヒラと手を振りながら近づいて来る。
頭から離れた手にホッと息をつきながら彼が此処に居る理由を問えば、隣に立っていたスウォンが姿勢を正して頭を下げた。
「え、なにスウォン。コイツと知り合い?」
「バカお前、口を慎め!」
「え、何で?」
「どうやら改めて自己紹介が要るみたいだね~」
相変わらずの緩い話し方で、頭を下げ続けていたスウォンの顔を上げさせたタクトは俺の前へと進み出る。
「俺はタクト・マーラフェス。"マニフェス共和国"の第三王子をやってるよ」
「はぁ!? マニフェス共和国の王子? お前が!?」
驚きを隠さずに言えば、楽しそうに笑うタクトが一つ頷く。
「今日から"他国間交流"として暫くの間ここでお世話になるんだぁ」
ニコニコと笑顔を絶やさずに言ったタクトに軽い目眩を覚えた。
「他国間交流って、なんだそれ?」
「うーん、まぁ簡単に言うと、色んな建前を理由にしての内情調査だよ~。敵情視察とも言うかなぁ」
「かなぁって、それを俺達に言っていいのかよ?」
言えば、それまでヘラヘラ笑っていたタクトの顔から表情が抜け落ちた。
「関係ないねぇ。今まで散々放っておいて、使える場面が来たからって掌を返した様にご機嫌とりにかかる様な連中の思惑通りに動いてやる筋合いはないよ~」
口調は緩いままだがその声音からは明らかな嫌悪が読み取れる。
「随分と嫌ってるのな」
「当たり前だよ。だってさぁ、小さい頃からずーっと"王家の面汚し"って言われて来たんだよ、俺。なのにさぁ、この国が勇者召喚に成功して俺を送り込むって決まったら途端に"流石はタクト様"だよぉ? 馬鹿馬鹿しいにも程があるってねぇ」
「あぁ、それは確かに馬鹿馬鹿しいな」
「でしょ~! まぁ、この他国間交流も体のいい言い訳で、実質俺に対する国外追放だもん。もう帰って来なくていいってね」
語尾に☆が付きそうな感じで言ってのけたが、その内容は重苦しいモノだ。
「お前、自分の国で何やらかしたんだよ?」
「な~んも。ただ兎に角何にもやらなかったんだよ。与えられた政務だけはやったけど、その他の強要された勉強や鍛練は何もやらなかった。街に下りて他の子供と同じ様に走り回って大人に怒られて、家畜の世話をして田畑を耕す手伝いをしてた。それだけ」
"王族"ではなく、ただの"民"としてそこに在った。
ただそれだけだったが、だからこそそれが他の者達の勘に触れた。
そうして付けられたのが"王家の面汚し"という代名詞。
「けどねぇ、うちの国の奴には誰にも言ってないけど、俺王子達の中では一番頭いいし強いんだよ~。街の子達と一緒に早くから小銭稼ぎでギルドの簡単な依頼受けてたし、政に関してだって机上で語るより実際にその場所の様子を見た方が学ぶことは多いんだ。民に寄り添わない王族何て在るだけ無駄だと思うんだぁ」
「……成る程な。だからお前国外追放なんてされたのか」
「あれ、なんか納得されちゃったぁ?」
「あぁ、納得した」
民にとって"いい王様"というのはきっと、タクトの様な人物を言うのだろう。
けれど、何よりも自らの威厳や尊厳を重要視する王家の中ではタクトの様な者は目障りでしか無かったという訳だ。




