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可愛い娘の為ならば!

「私は"セーラ"だ!! もう鎖になんて繋がれたくない!!」


 出会って始めて聞いた彼女の大声に思わずにやけてしまう。

 隣を伺えばユースも同じ様で至極嬉しそうに笑っていた。


「さて、どうするよお父さん?」


「可愛い娘が嬉しい事言ってくれたんやし、きちんとそれに応えな親失格さね、お母さん」


「援護します」


 緑布威から輪廻を取り出して構えた俺と腰に挿してた片手剣を抜いたユースに続いてキサラギ君もトンファーを構える。


 因みに片手剣はユースの、トンファーはキサラギ君の魔武器だ。


「殺さん様にな」


「いや、流石に初の闘いで人を殺す覚悟はまだ俺にはない」


「適度に痛め付けて後は傭兵に引き渡しましょう」


「ヒョッヒョッヒョ、まさか勝てる気でいるのですか? 愚かな事です。お前達、やってしまいなさい。ただし、生け捕りですよ。彼等にはいい稼ぎ口になってもらいますので」


 正に悪役といった具合に悪どい笑みを浮かべた闇商人の言葉に従い男達が距離を詰めて来る。


「リンはセーラちゃん頼むな」


「りょーかい」


「あ、ツキヨは身体強化せんで闘えな」


「は!?」


「こん位の相手なら無くても大丈夫さね。貴重な実践やし、自分の今の実力を知るいい機会さね!」


 言い終わると同時に斬りかかって来た男を軽く蹴散らしたユース。


「まぁ、こんな人達に負ける位なら今まで何してたんですかって感じですけどね」


 なんか久々に辛口コメントを言いながらも詠唱無しで二人程まとめてぶっ飛ばしたキサラギ君。


「あーもう!! お前ら好き勝手言いやがって!! こちとら初めての実践なんだぞ!?」


 半ばやけくそで叫んだ俺も応戦して火蓋は切って落とされた。


 相手は10人程。

 こちらは3人。

 数では劣るものの、彼等はスウォンや使用人の人達程攻撃に重さもスピードもない。


 ……てか、スウォンや使用人の人達との模擬戦の方が命の危険を感じる場面が多いという事実。


「コイツでラストォ!!」


 ドサッ、という重い音を立てて最後の一人が倒れれば、闇商人の顔は先程と打って変わって焦りと恐怖が支配していた。


「そ、そんな……有り得ません。彼等は私が直々に雇った用心棒ですよ!? それがこんな……こんな小僧どもにっ!!」


「あー、ご託はいいからさ、答えてくれや」


「ヒッ!」


 近づいただけでメッチャ怯えられたんだが……

 ちょっとショックだ。


「お前は、俺達に、何を、要求するんだ?」


 わざとゆっくり区切って喋る。

 怯えられてるならそれを上手く利用してやればいい。

 俺達の事を怖がるだけ怖がって、もう二度と俺達に逆らおうなどと思わなくしてやればこっちのモンだ。


「ぁ、そ、の……奴隷を……」


「……」


 まだ言うか、コイツ。

 中々に諦めが悪いな。


「……奴隷、ねぇ」


 小学生程の背丈の闇商人に視線を合わせ、ニッコリと笑ってやる。


「最初にも言ったがもう一度言ってやる。人違いじゃないか?」


「……ぁ、あ、」


「彼女の名前は"セーラ"だ。俺達の娘だ」


 チャキッ、とその存在を強調する様に持ち直した輪廻の音に闇商人の体が面白い位に震えた。


「もう一度だけ、聞いてやる。……俺達の娘に何の用だ?」


「ぃ、いや、人違いの様です。これはとんだご無礼を」


 カタカタと体を震わせてそう言った闇商人に俺は再び笑う。


「そうか。ならいいんだ。……けど、」


 ホッとした様子の闇商人に追い討ちをかける様に言葉を続ける。


「俺の可愛い娘に大層な言葉を吐いてくれたよな? 後、なんだっけ? 俺達にいい稼ぎ口になって貰うんだっけか?」


「ぁ、いゃ、それは……」


「なぁに、別に責めてる訳じゃない 。ただなぁ、迷惑料っての? そん位は貰ってもいいんじゃないかと思う訳だ」


「何を……」


「お前の店、この近くか?」


「ぇ、えぇ。この路地の裏ですが……」


「そっか。なぁ、"闇商人"なら扱う商品は"人形"だけじゃないよな?」


「それはまぁ、そうですが……」


「なら話は早い。今度から俺達がお前の店を利用する時、全ての商品を正規の値段の半額で売れ」


「は?」


「表だって商売してる店より、お前みたいな所の方が手に入りやすい物もあるだろ。そういう物を俺達が求めた時、お前はそれを半額で売ってくれればいい。簡単な話だろ?」


「ぃ、いやしかし、」


「あぁ、ぼったくろうなんて考えるなよ。もしそれが発覚した時、お前の命の保証はしない。そして、今回みたいに用心棒を雇っても無駄だ。ソイツ等が俺達に牙を剥いた時は全部綺麗に倍返ししてやる」


 ニヤリと笑った俺に闇商人が何度も頷いて交渉、とも言えないただの一方的な取引は終了した。


「まるで悪役みたいだったよ、ツキヨ」


「まぁ、俺は別に勇者じゃないから、"いい人"を演じなくていいしな。闇商人でもなんでも、この世界で生き抜く為には利用させて貰うさ。それに、今までセーラちゃんをいいように使ってたんだ。こん位してもいいだろ」


「随分いい性格になりましたね」


「それ誉めてる?」


「貶してはいないです」


「そ」


 あの後用心棒の男達を傭兵に引き渡し、俺達は城に帰る為に歩いていた。


「にしても、まさかツキヨがあんな脅しにかかるとは思わんかったさね」


「まぁ、そりゃ、可愛い娘を散々貶されて"奴隷"なんて言われたんだ。腹が立つのが普通だろ? そして、怒ってる人間のする事は時に思いもかけない事だったりする」


「ま、お陰でいいツテが出来たんやし、儲けモンやったって思おうか」


「これが勇者様なら確実にあの闇商人も捕まってましたしね。相手からしても満更損ばかりの取引でもないでしょう」


「そうそう。商品の代金だって半分は払う訳だしな」


「つくづく、ツキヨは勇者には向いてなかったのかもね」


「あー、確かにな」


 カラカラと笑った俺の手を小さな手が引く。


「ん? どうかした?」


「あの、ありがとう」


 可愛らしい笑顔付きで言ってきたセーラちゃんに思わず動きを止めてしまった。


「可愛いさねぇ! おいで」


 破顔したユースがセーラちゃんを抱っこして上機嫌で歩いて行くのを暫くボーっと見送っていたらリンに背中を叩かれる。


「よかったね、ツキヨ。彼女は君達が救ったんだ」


「俺達が……」


 もしそうだとしたら、俺はこのままでいい。

 チート的な強さも、正義感溢れる思考もいらない。

 世界なんて救えなくてもいい。

 ただ、自分が守りたいと……救いたいと思った者を守れるだけの力さえあればいい。

 大切な者達と一緒に歩んで行ける日々があればいい。

 "勇者"に向いてない俺は、そうやって生きていくだけで十分だ。


「ほら、ユース君達が呼んでるよ」


「あぁ」


 先を歩いていたユースとセーラちゃんがこちらに向かって手を振っている。

 歩き出した俺に城が近づいた為猫に姿を変えたリンも続いた。


ーーー


「あ!」


「あ……」


 城に帰りついて数分。

 日頃の特訓ですっかり顔馴染みになった門兵の人達は軽い事情説明で快くセーラちゃんを通してくれた。

 取り合えず俺の部屋に行こうと言うことで廊下を歩いてた俺達の前に斗里と姫さんが現れた時の俺達の顔は、心底げんなりしていた事だろう。


「月夜! どこに行ってたのさ!?」


「よぅ、勇者様。お披露目は無事終わったのか?」


「あ、うん。ちゃんと終わったよ。これから夜会なんだ」


「そうか、頑張れよ。じゃぁな」


 面倒くさい事は早めに終わらそう精神で会話を早々に切り上げてすれ違おうとすれば、ガッチリと掴まれた腕。


 うん、姫さんからの視線が痛い。


「ねぇ、どこに行ってたの? お城に居なかったよね?」


「……城下町に出掛けてたんだよ」


「へぇ」


 何故か不機嫌そうに頷いた斗里が俺と居るメンバーを見渡してセーラちゃんに気がついた。


「その子は?」


「あぁこの子は、」


「俺とツキヨの子供さね」


 俺の言葉を遮りそう言ったユースに斗里の眉間に皺が寄る。


「アナタと月夜の子供?」


 何でだろう、斗里から冷たい空気が流れてくるのだが……


「名前はセーラちゃん。俺とツキヨが 夫婦として養子に貰った子さね」


「夫婦? どういう事、ツキヨ?」


「いや夫婦って言っても書類上そうであるだけで、セーラちゃんをユースの養子にするにはそうするしかなかったんだよ。だから、言うなれば"仮面夫婦"だ」


 何故か言い訳してるみたいになってしまったが、これ以上斗里の機嫌を損ねるのはよろしくないと俺の勘が言っているのだから仕方ない。


「ふ~ん。そういう事」


「連れないこと言わんで欲しいさね、ツキヨ」


 少しばかり機嫌が直った斗里に息をつけば、ユースに腰を抱かれる。


「ぅわ!?」


 一気に鳥肌が立ち、逃れようとすれば逆にしっかりホールドされてしまった。


「俺とツキヨなら本当の夫婦になれると思うんやけどなぁ」


「おぃ、ちょ、ユース!!」


「…」


 あぁ…ほら、見ろ!!

 斗里の機嫌がまた急降下だ。


「ねぇ、ユース様? 俺の親友に何してんの?」


「自分の嫁さんにくっついて何が悪いんさね?」


 ピリピリと肌を刺す空気を感じながら、俺はふと思った。


(そういえば斗里って、元の世界に居た時も俺が他のヤツとくっついたりすると良くキレてたなぁ)


 漠然と、なんとな~く、俺は自分の身の危険を感じていた。

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