勇者召喚に巻き込まれました
明らかに異世界召喚だろうという地面にポッカリ空いた穴に、何故か避ける術も無く落ちた友人にガッシリ腕を掴まれた俺(よく言って中の上)。
異世界召喚に巻き込まれました。
「ました。じゃねぇーー!! 放しやがれこの野郎!!!」
「いやいや、月夜。ここは一緒に行くべきだ」
そう言うのは道ずれにしようと伸ばした俺の手をヒラリとかわしたもう1人の友人。
「テメェこの野郎覚えとけ!!」
「ゴメン、何の事か忘れちゃった。テヘペロ」
「ぶっコロス!!」
「ま、ガンバ」
八重歯をキラリと光らせて手を振るソイツの笑顔が俺が見た地球の最後の光景だった。
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目を開ければそこはまぁ、当たり前の様に異世界。
石造りの部屋に床に描かれた不思議な模様。
そして俺と友人の斗里の前に居並ぶ見るからにお偉いさん方。
「成功した! これで我が国は救われる!」
「やりましたわね、お父様」
喜びの声を上げて手を取り合うのは五十代半ば位のダンディなおじ様と俺等と同い年位の金髪の美人だ。
「あの、」
恐る恐るといった体で声を出した斗里にバッと反応した二人。
「あぁ、すみません勇者様。少々浮かれ過ぎてしまいました」
い住まいを只したダンディさんがスッと片膝を折って頭を垂れた。
それに従い部屋に居た俺等以外の全員がひざまずく。
「突然のお呼び立て申し訳有りません。私はここ、ルラーシェン王国の王、ガサル・ルラーシェンと申します」
「あ、神深斗里です」
「……」
自己紹介をする斗里の後ろで俺は成り行きを見守る。
こういうのはなるべく関わらないのが身の為だ。
「コウミ様、もう我が国は……いえ、この世界はアナタ様に頼るしかないのです! どうかお力添えを!!」
「あ、神深は名字で……って、え? あの……どういう事ですか?」
斗里の質問に王様は語り出す。
要点のみをまとめるとこうだ。
この世界では遥か昔、魔物と人間が争っていたらしい。
魔物の首謀者は言わずもがな"魔王"で、その魔王は"勇者召喚"で喚ばれた勇者がなんとか封じたが近年その封印が力を弱め近い内に魔王が復活してしまう。
魔王の封印場所は沢山の魔物で守られてる為手出しができず、かといって復活した魔王を相手にすれば自分達は即お陀仏だ。
そこで昔から伝わる王家の秘書に頼り再び勇者を召喚したのだった。
うん、まぁ、何と言うか…
「他力本願すぎじゃね?」
思わず本音が漏れれば、部屋に居た全ての人間の視線が俺に集まる。
「えっと、アナタは?」
今初めて俺に気付いたような、若干驚きに見開いた目で聞いて来たのは、金髪のお嬢さん。
「どうも。只の巻き込まれ被害者Aです。てかさ、話を聞く限りじゃまだその魔王とやらは復活してないんだろ? なら異世界の勇者に助けを求める前にやることあんだろ」
それこそ兵力の強化や戦士の育成、他国との協定やら。
"戦争"というものに対してド素人の俺でさえ考えつくものが幾つもあるのだ。
それを長年実際に戦争してきた彼等が分からないはずがない。
「国軍の兵力強化も、ギルド加入者の強化も、魔法学園における新たな戦力育成も、他国との同盟も全てやって来た。けれど、我らがどれ程力を尽くそうと魔王の力の前には只のゴミも同然なのだ」
「ふーん」
国王さんの言葉に適当に頷き、前に居るトウリの肩に手を置いた。
「と言う事だ斗里。頑張って勇者様をやれ」
「あれ!? 何か丸投げされた?」
「気のせいさ。お前、困ってる奴はほっとけない性分だろ。ほらほら、目の前に困ってしまってどうしようもない 奴等が居るんだぜ?しかもソイツ等はお前に助けを求めてる」
俺の言葉に頻りに頷く国王達。
「うーん。けど、一緒に喚ばれた月夜も勇者の可能性があるんじゃない?」
「ないない。何たって俺は、平凡な只の巻き込まれキャラだから!」
笑顔で言い切り再度斗里の肩を叩けば仕方ないと息をついたトウリが笑顔を作る。
「俺で良ければ頑張ります」
その笑顔に金髪のお嬢さんはノックアウト。
国王さん達は涙を流してお礼を言った。
その後はバタバタと魔力測定やら属性検査やら勇者の儀やらをして今は夕食も終わった就寝前。
因みに俺の魔力は5000で属性は無だった。
平均魔力が10000のこの世界では少ない方で、ついでに言えば無属性は全員が持っている。(斗里は魔力測定器がエンストして属性は全ての属性だった。)
いやぁ、あの時の国王さん達の『お前マジでただ巻き込まれただけなんだ』っていう目。思わず斗里に飛び蹴りくらわせちまった。
まぁ、その後国王さん達にめっちゃ怒られたけど。
んで、勇者の儀ではなんか召喚された剣を見て皆さん驚いてたし。
なんでも、その剣は最初の勇者が魔王を封じて以来、行方知れずとなっていた"聖剣"だったそうだ。
俺はその儀式の間寝てました。
だって興味ないんだもん。
因みに斗里談だと、この聖剣全くもって実践向きじゃないとの事。
ゴテゴテの装飾がされた柄に重い刃。
持った時に思わず顔がひきつったそうだ。
何でも聖剣は"勇者"の証明みたいな物で、召喚したらそれで終わり。
後は勇者がその使命を終えるまでお城で大切に保管されるとの事。
あぁ、そうだった。
金髪のお嬢さんは国王の娘で名前はエリシア・ルラーシェンと言うらしい。
まぁ、俺にしたらどうでもいいい情報だ。
そんなこんなで与えられた部屋のベッドの上。
トウリは明日から1ヶ月でこの世界の歴史やら魔法やら戦い方について学ぶらしい。
俺? 俺は放置。
まぁ、お城に居る事は許されてるので適当になんかして過ごせとな。
斗里が魔法に慣れた頃に魔武器生成と使い魔召喚をやるらしいので、少なくともそれまでは居たいと思っている。
お嬢様には散々斗里の邪魔をしないように言われた。
うん、お嬢様は斗里のハーレムメンバーに加入決定だな。