表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/13

7 傍にいて欲しい

 もう一度届いたメールの説明を始める前に、榛さんは何度も豚汁も卵焼きも美味しいと言ってくれて、ご飯をおかわりまでしてくれた。

 良かった、頑張って夕食作っておいて。

 嬉しくて私もおかわりまでは無理だったけど、いつもより沢山食べることが出来た。

「一葉、体調かなり良さそうに見えるけど、今日は昨日の続きは書かなかったの?」

 昨日の私の体調の悪さを知っている彼から見たら確かに今日の私は別人にでも見えているのかもしれない。

 顔色も悪くないと思うし、こうやって夕食を作っているくらいだから。


「えっ、書いたよ?不思議なんだけどね、榛さんが付いててくれると思ったら書きたい事が一杯あった筈なのに、ちょっとだけ追加して書き終わっちゃった。後で見てくれる?」

「それは、勿論だけど、もう書き終わったの?ほんとに?」

「うん、一応書き終えて、公開もしたけど。どうかしたの?」

 困った様子を見せる榛さんに私は困らせている理由が見当がつかず、こてんと首を傾げた。

「あー・・・うん。一葉の事が心配だからここに泊まるって言ったろ?今日は一度アパートに戻って着替えを持ってきたんだけど、俺、もう帰ろうかなって思ってさ」

 食べ終えた茶碗を前に、榛さんは肩身が狭いような仕草をみせていた。

「え?なんで?今から帰っちゃうの?私、今日も榛さんがいてくれると思ってたからすっごく嬉しくて楽しみにしてたのに。・・・やっぱり迷惑かけたよね」

 体調不良が治ったのだから仕方がないのだけれど。

 今日も一緒にいてくれると思っていたのに帰ってしまうなんて、寂しくなってしまい私は俯いてしまった。

「そんな顔しないで、一葉。誤解して欲しくないんだけど。俺、弱ってる一葉に手は出さないでいられるけど、元気な一葉が傍にいたら一晩とても我慢を出来そうにないからさ・・・」

 途中から私は顔を上げて榛さんを見た。あらぬところを向いてぼそっと呟かれた台詞を聞いた私は一気に体が熱くなった。

 そ、それって!元気な私に手を出したいってことだよね?つ、つまりその、だから・・。

 暫くの間、2人して小さなダイニングテーブルに向かい合う形で下を俯き照れて恥ずかしがっていた。


***


 取り敢えず直ぐには帰る様子がなさそうだったから、その微妙な問題には敢えて触れずにおいた。

 榛さんに私がネットで公開している恋愛小説を書籍化募集企画に応募した結果書籍化されるという返事が来たという話をもう一度ゆっくり説明すると、自分の事のように喜んでくれた。

「どうしようか、悩んじゃって。もちろん嬉しいんだけど、なんだか怖くもなっちゃって」


 会社を辞めたから書き出してみた恋愛小説は自分の中では言わば逃げと逃避だったから。


 生きていくうえで収入を得るためには次の仕事を見つけなくてはならないのは分かっていたけれど、どうしても直ぐに新たな仕事を探す勇気が持てなかった。

 だから自分の好きなことに没頭して逃げていたのに。それなのに、たまたま応募した小説を書籍化してもらってもいいものなんだろうか。そう思ったのだ。

「大丈夫。怖がる必要なんてないから。俺は一葉がどれだけ真っすぐに自分と向き合って小説を書いていたのかは昨日の文章を見れば十分に分かったよ。一葉はもっと自信を持ってもいいと思うけど」

 榛さんは夕食後のほうじ茶が入った湯飲み茶わんを両手でゆっくりと揺らしながら、私の弱音にもっと自信を持っていいと言ってくれた。


 自信を・・・持ってみても、いいんだろうか。


「一葉は仕事が出来なくて、体調も人より劣ってるから書籍化を受ける事なんて悪い事だと思ってる?そんなこと絶対にないからね。一時的に今は休養が必要だから休息してるだけ。一葉が一生懸命に書いたものを世に出していいのか悩む必要なんてどこにもないんだから。小説を書けるって凄い事だと思う。それに小説だって仕事の中の一つ。今後どうしたいのかは一葉の気持ち次第だけど、新しい企業の就職先を探すのもいいけど、これからは小説を書いていくっていうのも選択肢の1つとして考えても良いと思うけどな、俺は」


 確かに会社に就職して仕事をすることだけがすべてじゃない、と私も思うけど。

「でも、小説家なんて私には・・・」

 出来ないよ。そう続けようとした。

「一度チャレンジしてみてもいいんじゃない?たとえ駄目だったとしても。滅多にあるチャンスじゃないよね?」

「それはそうなんだけど、自信がやっぱりないなと思って」

「うーん、取り敢えず昨日の続き読ませてもらってもいい?で、一葉が良ければ後でその恋愛小説も読ませてもらえないかな?」

 私が書いた恋愛小説を!?榛さんが読むの!?

「俺に読ませるの恥ずかしい?それってもしかして、一葉が書いたのって相当エッチな内容だからだったりして」

「ちっ、違っ、そんなエッチな話なんて書けないしっ。そんなの無理だしっ」

「なーんだ、期待したのに。もしそういう内容のを書きたくなったら実践付きで手伝うから何時でも言ってね」

「な、なにを言ってっ・・・!」

「今から、する?」

 からかわれているだけだと分かっていも、顔に熱が集まってしまう。

 私が顔を真っ赤にして怒ってるのに、榛さんってばそんなに嬉しそうに笑わなくたっていいじゃないっ、もうっ!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ