6 忘れていた申請結果
窓から差し込んでいた陽が無くなり、部屋の温度も下がって来たのか寒く感じ始めたのでカーテンを閉じエアコンを付けた。
昨日までは気持ちが塞いでどうしようも無かったが、今日は塞ぐこともなく一日楽に過ごせることが出来たのは全部榛さんのお陰だ。
昨日見せた文章に少しばかり修正と加筆をして気持ちが落ち着くと、この話はこれでもう終了と自分の中で区切りがついた。書いたものは短編としてネットに上げた。
暗い話で半分は自己満足の為に書いたものだけれど、少しでも誰かの犯罪予防になってくれればいいと願いながら。
それが終わると止まっていたハッピーエンドの続きを書いていた。
「今日は私が夕食作ろうかな。昨日材料幾つか買ってきてくれてるし」
不思議なもので心の気持ち1つで今日は体調が良く感じる。
お昼に榛さんから『ご飯は食べた?』と確認メールを貰って嬉しかったのと(おにぎりを作って貰っていた)、あんなに体調を崩すほど書くことが大変だった短編はさくさく進み終わってしまったこと。
気持ちに余裕が出てくると、今日は部屋に過ごすのは1人だけじゃないというのもあるだろうけど、お腹が空いてくるから不思議だ。
「何作ろうかな~」
レシピの数はそう多くないから簡単なものしか作れないけれど。
長い髪を一括りにし、エプロンを付けた。誰かの為に料理を作るのは心が弾むということに改めて気づかされたのだった。
***
普段より時間をかけて作ったのは、野菜いっぱいの豚汁とご飯、そして卵焼き。
「うーん、夕食というより朝ごはんみたいな?」
出来上がった夕食はどちらかと言えば朝ごはんみたいに思えた。これで納豆がついていればもっとそう見えただろう。
何時に来るのか分からないけれど卵焼きにラップをかけた。冷めるけれど後で温め直せば問題ない。榛さんと一緒に食べたい。私は待っている間もう一度パソコンに向かった。
起動させ、まずはメールのチェック。DMが殆どを占める中、1つ気になるメールが届いていた。
「何だろ、このメール」
メールを開いてみれば一か月ほど前に書籍化募集企画に応募した結果だった。応募したことを綺麗さっぱりと忘れていた。
思わず吃驚しすぎて結果を知る前に受信トレイを閉じてしまった。
「・・・・・・」
知りたいような、知りたくないような。うーっっっ、でもやっぱり気になるっ。
もう一度トレイを開き恐る恐るメールを読み進めてみると、なんとそこには出版化したいと書かれていた。
「嘘っ!?ほ、ほんとにっっ?」
自分の目を疑いもう一度読んで見るもやっぱりそこには出版化したいとの文字が書かれていた。
「ど、ど、どうしよう。嬉しいけど、どうすればいいの?」
モニターの前で両手を頬に当てておたおたしているとチャイムが鳴った。
榛さん?
パタパタとスリッパの音をさせ玄関のドアスコープで相手を確認してからドアを開けた。やっぱり予想していた通りの姿だった。
「榛さん、お帰りなさいっ」
こうやって誰かを迎えに出るなんて初めてだ。。
私は彼を迎えられた事と、たった今読んだメールの事に舞い上がり笑顔全開で思わずスーツ姿の彼に抱き付いてしまった。
「ただいま、一葉。良かった、体調は悪くないみたいだね。嬉しいな、俺が帰って来るのこんなに待っててくれたんだ?」
帰ってきて玄関先にも関わらずまだ荷物を手にしたままなのに、ぎゅーっと抱き付く私に怒ることなく榛さんは頭を撫でてくれた。
「うん、ご飯作って待ってたのっ。それでね、一緒に食べようと思って待ってる間メールチェックしてたら、申請した返事が届いてね、是非書籍化したいって書いてあったのっ」
私は彼にしがみ付いたまま顔だけ上を向いて、取り敢えず聞いて欲しい事を急いで話した。
「ご飯作ってくれたんだ?有難う。一葉、今の話よく分からなかったから、落ち着いてからもう一度ゆっくり教えて。ちゃんと聞くから」
「あ、ごめんなさい」
興奮しすぎて要領を得ない話に榛さんは困惑したみたいだ。
私は両腕をようやく彼の体から離して少し距離を取った。
そりゃそうだよね、私ったら何に応募したとかも全然説明してないんだもん。分かる訳ないよね。
「ん?謝る必要なんてないよ。その顔を見れば判るけどそれって嬉しい報告なんでしょ?」
上から見つめられている瞳には優しい色が浮かんでいた。
「うん。嬉しい報告」
さっきから私の顔は緩みっぱなしになってると思う。でも、いいの。
「一葉の手料理を味わいながら、ゆっくりと聞かせて貰うよ」
そう言って榛さんも嬉しそうな顔を見せてくれた。