48:アヤカ、覚悟する
あれから、三日が過ぎた。
赤い夜は明けたというのに、騎士団内部は慌ただしかった。
ユスティンの姿も、ブリギッタの姿も見当たらない。
「アヤカ様はぁ、今日はゆっくり休んでいいとのことですよ〜。よかったですねぇ、貴重なお休みが貰えて〜。掃除と洗濯がまだなんですけどぉ、私もついでに休んじゃいます〜」
ミルは、この日も通常営業だった。ただ、恋人であるハインが用事で留守にしているらしく、暇そうである。
シュウジの身柄は、別の場所で預かっていると聞いていた。きっと、このオンボロ騎士団宿舎に拒否反応を示したのだろう。
「そういえば……アインハルド騎士団、解体しちゃうんだって? 騎士の皆が言っていたけど」
「ええ、そうですわ〜。幽獣被害は、今後はぐんと減るでしょうから〜」
もともと、騎士の多くは、期間限定の雇用――契約社員のようなものだったらしい。
騎士達には特に未練もなさそうで、宿舎を出て行く準備に忙しそうだ。赤い夜の特別手当が出たらしく、彼らの顔は満足そうですらある。
とはいえ、犠牲者が出なかったわけではなく、見当たらない騎士達もいた。人数の減った第二騎士団の面々を見て、アヤカの胸が痛む。
「みんなも出て行くし、寂しくなるね」
職員の仕事も楽になりそうだ。というか、もう職員はいらないかもしれない。
騎士団自体が解体されてしまうのだから。
(私、どうなるんだろう。まさかのお払い箱展開だよ……神殿に行く気もないし、また職を探さなきゃなあ)
赤い夜当日は、憎きウモウジール達に復讐してやろうかと思ったアヤカだが、神殿は幽獣達によって完膚なきまでに破壊され尽くされていた。
一部の神官達は、地下の隠し通路を通って隣町の神殿へと逃げたようだが、多くの神官や神殿騎士達が犠牲になったらしい。
もちろん、赤い夜が明けても、元の世界へ戻れる目処は立っていない。
やはり、ウモウジールの言うように、戻れる方法はないのかもしれなかった。
「アヤカ様ぁ〜、団長が帰ってきましたよ〜」
ミルの言葉を聞いて、ユスティンの戻りを嬉しく思う反面、不安にもなる。
きっと、彼は、これから価値のなくなった聖人に恋人解消宣言をするはずだから。
彼がアヤカのことを気に入っているとは言っても、恋愛感情からくるものではないだろう。
それに、アヤカはいずれは日本に帰るのだ。ユスティンが、アヤカと一緒にいて良いことなんて、一つもない。
(変なの。こんな風になるなんて、私らしくない)
もやもやする思いを振り切って、アヤカはユスティンを出迎えた。
「おかえり、ユスティン! 忙しそうだね」
「アヤカ、ただいま戻りました。事後処理が立て込んでいて……なかなか第二騎士団に戻れなくて、すみません。僕の立場は、面倒ですね……」
団長として、することが沢山あるのだろう。そこを責めるなんて、とんでもないことだ。
「ところで、アヤカ……今後のことについて、少し話をしておきたいのですが……」
ユスティンの言葉を聞き、アヤカの目が泳ぐ。
(キター! 別れを切り出される展開!!)
「ん? どうかしました?」
「べ、別に、なんでもないよ」
「では、団長室へ行きましょう……」
騎士の人数が減ったので、ついでに解雇も宣告されるかもしれない。
(覚悟しておかなければ)
アヤカは、表情筋に力を入れて、ユスティンの後に続く。不気味なアヤカの変顔に、すれ違う騎士達が怪訝な表情を浮かべていた。
団長室に入り、部屋の隅の長椅子に座る。ユスティンは、アヤカの隣に腰掛けた。
(距離が近いんですけど……もう、別れる予定なのに、こんなにくっつく必要ないよね)
彼は、聖人である自分を利用していただけ。役目を終えたアヤカには、もう用はない……
その事実を考えるだけで、アヤカの胸は痛んだ。




