3:シュウジ、異世界に歓喜する
短めです。
シュウジは漫画の「異世界」にひときわのめり込んでいた。
実はアヤカに話した少年漫画以外にも、彼は数々の「異世界」関連の漫画を所持している。
中でもお気に入りは、「一般的な日本人が、異世界へ転生、もしくはトリップし、その世界で活躍する」といった内容のものだった。
最もシュウジが憧れるのは、「勇者、聖女、その他なんらか重要な役目を担った主人公が、異世界の人々に手厚く迎えられる」という設定だ。
彼は、ずっとそんな世界を望んでいた。
そのため、神殿でウモウジールに「聖人」と言われた際、渡りに船とばかりに彼の厚意を受け取ったのである。
日本でのシュウジは、息苦しさにもがき苦しんでいた。
有名私立高校に進学したものの成績の振るわない自分。内弁慶のシュウジは、外に友達がおらず、クラスでも浮いている。
過保護な母親は、そんな息子に過度な期待を寄せていた。
そして、家に帰れば嫌でも顔を合わせる自分と正反対の双子の姉の存在も憂鬱だった。彼女は、家で孤立しているものの、外に大勢の友人がいたのだ。
そんな姉の存在が、さらにシュウジを追い詰める。
彼は、「異世界」をテーマにした漫画を読むことで現実逃避をし、心の均衡を保っていた。
今回の異世界転移は、シュウジにとって願ってもいない話である。
憧れの世界に来ることができた今のシュウジに迷いはなく、一緒にこの世界へ来た双子の姉のことなど、すでにどうでもよくなっていた。