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29:アヤカ、パシリにされる

 照りつける強い日差しの中、アヤカは大量の紙箱と紙袋を持って騎士団宿舎へ急いでいた。

 ブリギッタに、食材の買い出しを頼まれたのである。

 いつもの業者が急遽来られなくなったらしく、自分たちで食材を買わねばならなくなってしまったのだ。

 食材の詰まった重い荷物も、怪力のアヤカが持てば綿菓子の袋と変わらない。


(あと、もう一往復しなきゃ!)


 騎士団の男たちの胃袋は無限大だ。これしきの食料では、彼らの腹を満たすことができない。

 一度、宿舎に荷物を置きに行こうと踵を返す。

 しかし、あと少しで騎士団宿舎というところで、アヤカは見知らぬ人物に声をかけられた。


「あの、すみません……アヤカ・スズキ様でしょうか?」


 遠慮がちにかけられた声は、若い男のものだ。


「いかにも。私が、アヤカ・スズキだけど?」


 何の用だという風に、アヤカが声の方を振り向く。大量の荷物を持っているので、早く用件を済ませて欲しいというのが本音だ。

 振り向いた先にいた人物は、神官服に身を包んだ栗色の髪の若い男だった。ユスティンと系統は違うが、彼も整った顔立ちをしている。


「私は、この町の神殿で勤めている人間で、ハイン・レーマンと申します」


 礼儀正しく一礼したハインは、アヤカの目を見つめて微笑みながら言った。


「少し、あなたとお話をしたいのですが……」


 彼にそう言われて、アヤカは困った。早く帰らないと、忙しいブリギッタの機嫌を損ねてしまうし、自分にはまだ買わなければならない食材があるのだ。


「今、買い出し中で、ちょっと忙しいから。この食材を、騎士団宿舎まで運ばなければならないんだ」

「アヤカ様に買い出しを命じるなんて、なんという不届きな! 聖人様をなんだと思っているのか……!」


 どうやら、ハインはアヤカのことを聖人だと思っているらしかった。ユスティンが言っていたように、神殿側にもアヤカの活躍が伝わっているらしい。


「……ハイン? 私は騎士団で働いているし、買い出しを頼まれたら行くのは当然のことだよ。それに、私は聖人――シュウジの姉であって、聖人じゃないから」

「いいえ、アヤカ様は聖人様です。先日、聖なる泉から、あなた様の紋章が見つかったのです。アヤカ様は、まぎれもなく聖人様なのです」

「紋章……?」


 首をかしげるアヤカに、ハインは紋章の形や模様について説明する。それを受けたアヤカは、シュウジと一緒に泉に落ちたときのことを思い出した。


(ああ。そういえば、シュジが卵型の金色の物体を持っていたな。それが、もう一つ泉に落ちていたということ……?)


 アヤカが冷静に当時のことを思い出していると、ハインが遠慮がちに声をかけてきた。


「あの、アヤカ様……お願いがあるのですが」

「どうしたの?」

「私と共に神殿へ来てくださいませんか? 一生あなたの生活は保証しますし、苦労はかけさせません!」

「あ、悪いけど。私、神殿に行く気ないから」


 それじゃあねとハインに挨拶し、アヤカは騎士団宿舎へと急ぐ。


「ちょ、ちょっと、待ってください!」


 慌てて後を追ってきたハインは、アヤカの前に立ちはだかる。


「行く気がないとか、そういう問題ではないんです。聖人というのは、代々神殿に……」


 そこまで言いかけたハインだが、不意に言葉を切った。アヤカと彼の間に強引に入り込んだ人間がいたからだ。


「はいはい、そこまでー! 困るのよね、勝手にウチの騎士を勧誘されちゃあ」


 二人の間に割り込んだのは、メイド服を着たブリギッタだった。

 それと、もう一人――

 ハインの背後に、難しい顔をして腕を組んだユスティンが立っている。

 いつも笑顔の騎士団長のその表情に、アヤカは彼の不機嫌さを悟ったのだった。

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