20:アヤカ、同僚の正体を知る
「さあっ、できたわ! ウィッグを付けて化粧をしたら、女らしくなったわね!」
「……う、うわぁ、別人」
鏡の中には、引きつった笑顔の美少女が映っている。
くるくるとした黒髪巻き毛のツインテールのカツラに、薄く化粧をした顔は、アヤカの面影を残してはいるものの、とても男に見えない。
「別人というわけでもないわよ? あんたが普通の格好をすれば、私ほどではないにしても、そこそこ可愛いんだから……でも、これは」
「ん? どうかしたの?」
「騎士団の奴らの前では、今まで通り、男ということにしたほうがいいわね」
ブリギッタは、以前のユスティンと同じようなことを言って、アヤカに靴を履かせた。
「アヤカは、ヒールの高い靴なんて履けないだろうから。可愛い飾りだけがついた、フラットな靴にしたの」
「ありがとう……」
「さてと。じゃあ、さっそくその姿を団長に見せに行きましょう!」
アヤカとブリギッタは、揃って団長室へと戻った。
団長室には、ユスティンと、なぜか副団長のマルクがいた。どうやら、事務手続きの関連で彼の承認が必要だったらしい。
「ああ、戻ってきましたか」
アヤカとブリギッタを見て、ユスティンは笑顔を浮かべた。
しかし、彼の隣にいるマルクの様子がおかしい。大きな図体を強張らせて、アヤカの方を凝視している。
「だ、団長! この美しい女性は、どこの誰ですか!?」
マルクの慌てぶりに、ユスティンは再び壁の方を向いて肩を震わせ、ブリギッタはドヤ顔になっている。
「マルクさん。私は、アヤカですよ……?」
「なに!? アヤカだと!?」
アヤカの方を凝視しながら、マルクは声を裏返らせた。
「そうですよ、マルク。彼女は、正真正銘アヤカです。ブリギッタが、任務のために女装させました」
「……まさか、お前がこんなに化けるなんて、思ってもみなかったぞ。夕食の時は、その姿で給仕しろ」
めちゃくちゃな要求をしてくるマルクに、アヤカは首を振って抗議した。
「嫌ですよ、面倒臭い。誤って、料理にヅラが混入したらどうしてくれるんですか」
「そうよ。だいたい、こんな姿のアヤカを野獣共の前に出せるわけがないでしょう!? 女に飢えているのなら、ミルでも愛でていなさいよ!」
ミルなら良いのかと突っ込みそうになったアヤカに向かって、ユスティンが任務の詳細を告げる。
「アヤカには、例の男子禁制の小さな神殿……隣町のアミア神殿へと潜入してもらいます。アミア神殿の女神官達には、その旨を告げておりますのでご安心ください」
「わ、わかった!」
とはいえ、初の任務にアヤカは緊張している。それを見かねたブリギッタが、アヤカを安心させるように肩に手を置いた。
「心配しなくて大丈夫よ、アヤカ。私も一緒だから」
「えっ、ブリギッタも来るの!?」
「ええ。こういった任務は、得意なの……私、第五騎士団だから」
第五騎士団といえば、密偵や暗殺メインの騎士団だ。過去にブリギッタ自身が教えてくれた。
「え、じゃあ、なんで第二騎士団の職員に!?」
アヤカの質問に、ブリギッタはしれっと答える。
「団長に頼まれて、第二騎士団に派遣されているのよ。私の仕事は、情報を集めて団長に教えること。昼休みや、夕食後に時々姿を消していたのは、グリモに乗って偵察に出ていたからなの……職員の仕事をしているのは、人手不足だから仕方なくってところね……騎士達に任せると、グシャグシャに丸まった洗濯物が戻ってきたり、三日で騎士団宿舎が汚部屋と化すから。今まで黙っていてごめんなさいね、過去に辞めた職員が私の正体を言いふらしたことがあって……それ以来、騎士以外には黙っていることにしたの」
「知らなかった! あ、あれ、でも……さっき、ユスティンが「女性騎士は、いない」と言っていたよね?」
そう告げるアヤカに、ブリギッタは無言で笑みを深めた。
「ブリギッタって……まさか、男なの!?」
こうして、衝撃の事実を知ったアヤカは、ブリギッタ達と共に隣町の神殿へと向かうことになったのだった。




