表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/61

1:アヤカ、異世界の求人に応募する

『アットホームで家庭的な職場です!』

『若い力で急成長! 平均年齢二十代の活気がある職場です!』

『公私ともに仲の良い会社です、社内イベント多数!』

『大幅な事業拡大のため、従業員急募!! 熱意があればOK!!』

『人類に感動を与え、ありがとうと言われる仕事です!!』


 目の前に並ぶ灰色の求人票には、どれも似たような内容が書かれている。

 アヤカは、眉を顰めながら全く魅力を感じない業務内容を見比べた。

 仕事を探しに職業斡旋所に来たのだが、ロクな求人がないのだ。

 渡された求人票は、明らかにブラック職場のものばかりである。


 かつて、中卒で働きだした仲の良い友人が言っていた。

 アットホームな職場というのは、同族経営。

 若いことをやたらとアピールしている職場は、人が居付かない。

 仲良しを前面に押し出す職場は、プライベートやプライバシーがゼロ。

 事業拡大やら急募やら言っている職場は、いつも人手不足。

 抽象的な言葉を連発する職場は、精神論を持ち出しやすい。


「もっと良い仕事はないの!?」


 アヤカは、今にも居眠りを始めそうな職業斡旋所の職員に声をかけた。

 やる気がなさそうな態度で椅子に座っているのは、頭頂部の寂しい中年男性。

 彼の他に職員はいないが、求人を見に来る者はちらほらやって来ている。

 こんなことで良いのだろうか。

 職業斡旋所の中は静かで、ドーム状の天井のてっぺんに開けられた窓からは、朝の清々しい光が差し込んでいた。できれば今日のうちに仕事を決めてしまいたいと思うアヤカは、彼の机の前で粘る。

 詰め寄られた職員は、面倒くさそうに机から二枚の求人票を出して言った。


「これで全部だよ。この近くは不景気で、もともと求人が少ないんだ。他は経験者しか雇わない職場ばかりだし……」


 新たに追加された二枚の求人票に目を通す。


『価値を考え、創造する!! 新たなステージに挑戦!! 社会に貢献できる仕事!!』

『夢、仲間、絆!! あなたの頑張りを評価します!! 初任給の例はこちら……』


 やたらと創造したり、挑戦したがる職場も危険。

 頑張りを評価する職場は歩合率が高い。高額な初任給はほぼ嘘だという。

 しかも、キャッチコピーの横に描かれた、笑顔全開の社員の絵が胡散臭いことこの上ない。


「おじさん……」


 もっと条件の良い仕事を紹介してほしいと同情を誘うような表情で相手を見るが、彼の反応は変わらなかった。アヤカにもっと女子力があれば、違ったのかもしれない。

 

「残念だけど、もうないよ……あ、そういえば」


 職員は、何かを思い出したように奥の部屋へ行き、一枚の紙を持って戻ってくる。


「今朝、受け取ったばかりの求人だ」


 机の上に置かれた新たな求人票を、アヤカはまじまじと見つめた。


『国営なので安心、安定の職場です』


 今までの求人よりも、はるかにマシな文言だ。

 お役所系の職場は、民間に比べてぬるいイメージがある。現に、この職業斡旋所の職員の勤務態度もユルユルだ。


(これだ、こういうのを待っていたんだよ!!)


 情報が少なすぎて怪しいが、他の職場よりは救いがある。


「おじさん、私、ここにするよ!」


 アヤカは、さっそくその職場に申し込むことにした。

 とりあえず、今は仕事を得なければならないのだ。この世界で生きるために――


 なぜ、こんなことになってしまったのか……という理由は、二日前に遡る。


求人情報のキャッチコピーは、フィクションです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ