会議が終わらない
――あまりにも会議がつまらなくて、終わる気配さえないので、ツバサは話しかけた。
ねえねえ、暇なんだけど。というかさ、この会議にぼくっているのかな。
んー、来いって呼ばれたってことは、いるんとちゃうんか?
――ところで、例えば本を読んでいるとき、ふと疑問に感じたことがあって、その疑問を頭のはじっこにでも置いておいたら、文章を読んでいるうちに不思議と疑問が解けて、作者が答えてくれたんだなぁと思うことはないだろうか。ツバサがここでやっているのはつまりそういうことで、別にチャネリングや降霊術をしているわけではない。もしかしたら無意識にできているのかもしれないが、別にやろうと思ってしたわけではない。自問自答なのか、自分の話に返事をくれる誰かがいるのかは、ツバサにとってはどうでもいいことだ。彼はつまらないとき、そういう何か――誰か? ――と話すことができて、もはやそれはいつのまにか技としてまで高められていた。
いや、なんか今後のために出とけって言われたんだけど、ぼくの紹介もないし、発言も許されてないっぽいしさ。
じゃあ、なんで呼ばれたん?
こっちが聞きたいよ。
――ツバサは関西人だ。多くの本は、共通語で書いてある。だから、心の声はついつい共通語になる。ツバサは、本がとても好きだからだ。心の声にはほとんどアクセントがないので、話し慣れていない常体の共通語を発していても、ほとんど違和感がない。しかし、どういうわけか話し相手のほうは関西弁で話してくる。
こういうときってさ、呼んだほうもちょっと気をきかせないとダメみたいな、まあ要するにさ、話しかけてあげないとダメみたいなさ、そういうのない? 全然話しかけてくれないんだけど。
自分から話しかけたらええんちゃう?
って思うじゃん? 無理だよ。『あ、うん、まあ、そういう意見もあるな』って返ってきて変な空気になって終わるんだよ。
そうやとは限らへんやろ。今までそうやったんかもしれんけど。
今までそうだったら次もそうだっていうのが数学的帰納法じゃん! 思い込みみたいに言わないで! 論理的に話せって教育しといていざそうしたら今度は思い込みってか?
自分、えらい溜まっとるな。
……ぼくは、つまらない人間なのかもしれない。
どうした急に。なあ、自分、どうしてん。
いやさ、あれじゃない。ぼくって多分、これといって面白みのない人間だと思うんだ。いるじゃない、こう、部屋に入ってきただけで笑いをとる人とか。あるいは、ついつい話を振りたくなってしまう人とか。ぼくはそのどちらでもないんだろう。
急やな。まあ、確かにそういうタイプじゃあないわな。
でしょ? ぼくはさ、悪い意味で真面目なんだよ。小市民的というかさ、誰かの決めた正解を選んで、そして失敗を避けてきた。そんな人より、いっそ悪い噂しか聞かない人のほうが、ずっと面白いと思うんだ。
自分の路線を走りすぎててちょっとついていかれへんわ。
もちろん、悪い噂が立つ人は損をするだろう、嫌われるだろう。でも、そんな人がいるからこそ、目をそらしたい自分の現実から一時的にでも逃げて、冷静になれたことはないか? 心のどこかでは、めちゃくちゃできるその人格を、羨ましいと思わなかったか? 失敗して落ち込んでも、あいつよりはマシだと思って救われはしなかったか? 悪い噂が立つ人は、英雄で救世主なんだよ。
おーい、おい、聞いてるか? おい、
そういう人たちがいるからこそ、
――ツバサに話しかけた人がいた。ハッとしてその人を見る。会議に呼んだ上司だった。
「いやぁ、ごめんなぁ。思ったよりも長くなってしもうた」
「いいえ、勉強になりました。ご一緒させていただいて、ありがとうございました!」
――ツバサは屈託のない笑顔で、頭を下げた。