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わたし語・あなた語

「人は自分だけの言葉を喋ると思いませんか、思いますよね?」

「いきなり乱暴に話をねじ込んできたなオイ。まだアタシらの名前も年も性別も判明してないんだけど」

「あ、ごめんなさい、今のわたしのひと言の前まで続いていたつまらない話は、何か唐突でもいいから深い話に変えてくれという解釈が可能な合図だと思っていたんですが、違ったんですね。わたしもまだまだ、あなたとは言葉が交わせていなかったんだと反省至極に思います」

「アタシの日記をつける習慣の話がつまらくて悪かったな、でももういいわ、早くその話でいいから続けなよ」

「あれ、じゃあやっぱりわたしの『何か唐突でもいいから深い話に変えてくれという解釈』は結果として正解だったわけですね、やりました、わたしはあなたの言葉をずいぶん理解できるようになったということですね!」

「いいから!」

「あ、はい、えっと、人は自分だけの言葉を喋ると思いますよね?」

「とりあえずアンタは今、アンタにしかわからないことを言ってるよ」

「そう、それ! そうなんです、頭いいじゃないですか!」

「『頭いい』ってなんだ、アンタは格上か」

「不思議だと思いませんか、わたしたちの話が噛み合っているなんて!」

「噛み合ってないよ。というかこっちの話聞いてないんだな」

「わたしたちは、自分に馴染みがあって、しっくりくる言葉を話すんです、誰でもです。なのに、そういう言葉が噛み合ってくるって、不思議じゃないですか」

「いや、普通だろ、同じ日本語を喋ってるんだから」

「いやいやいやいや! 見たことありませんか、同じ話をしているのに噛み合っていないサマを。わたしはありますよ、すごいですよ!」

「アンタの距離の近さがすごいよ、鼻息鼻息。あっ、今日ウィンナー食べてきたんだな――いや、やっぱ今の聞かなかったことにして! 今のアタシキモッ!」

「地元のお祭の出店で」

「あ、聞いてなかった。助かった」

「地元のお祭りの出店で、屋台にきんちゃく袋を吊るすか吊るさないかで揉めてる人たちがいたんです」

「すっごいどうでもいいな」

「吊るしたい人はすごく弁が立ちまして、頭の回転が早いんです。思わず納得してしまいそうになるんです! で、もう片方の人! 今振り返ってみたら確かにもっともなことを言っていたんですが、どうしてもたどたどしくて、説得力に欠けるんですよ」

「きんちゃく袋は吊るさない程度のことで説得力がいるのかね」

「ところが、よくよく聞いていると、吊るす派の人が正しくて、吊るさない派の人が間違っている、なんて単純なものじゃないことに気づいてしまったんです」

「よくわからんけどまあいいや」

「だってですよ、弁が立つからって正しいわけじゃないでしょう! 納得できるから、それしかないわけじゃないでしょう! それは弱肉強食という古代の幻想に囚われた罠だァッ!」

「うわっ、唾とんできた」

「わたしは気づいたんです、吊るしたくない人は人の話を聞けても、人にわかるように伝えるのは苦手なんだと。そして吊るしたい人は人に伝えるのが得意でも、相手の言った言葉をそのままの意味でしか受け取ることしかできないんだと。つまり一方は自分だけの言葉を相手にもわかる言葉に変換できず、もう一方は相手の言葉を自分が理解できる言葉に近づけていくための努力を欠いている。だからこそ、あのような事態が起きてしまったんですよ!」

「ここではアンタだけが熱くなってアタシが白けるという事態が起きているんだけど。あ、湯気出てる。まだまだ冬だねー」

「人はやっぱり、自分だけの言葉を喋るんです。そのことに、自覚的でないといけません」

「あ、うん」

「……自覚的じゃなきゃ、いけなんだ」

「怖っ。小声で繰り返すのやめよ?」


「あっ」

「あっ」

「チャイム、鳴った、な?」

「チャイム、鳴っちゃいましたね」

「サボる?」

「フケますか?」

「アンタはどうしたい?」

「あなたと一緒なら、どちらでも」

「……しょーがないなー」

「嬉しいですね」

「は? 誰が」

「さあ、だれでしょう?」

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