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ろく。

「…このみ…」


スッと朔が私の両頬に手を添えてきた。

ああ、絶対今真っ赤だ私。

年甲斐もなく茹蛸になってるわ。

2人で額を突き合わせ、頬を包みあっている。

心臓が胸を突き破って100㍍走をしそうだ。


恐る恐る視線を上げて朔を見ると、モデル顔負けの美男子がうっとりした顔で私を見ていた。

…もう駄目。

降参。

男に免疫の無い三十路女を勘違いさせるには効果てきめんの顔と状況だわ。



「…さ、朔…」


ぎゅう…と力を込めて抱きしめる。

細身に見えて意外とがっちりした体格の朔の腰に腕を回すと、くすぐったいような、あったかいような、とにかく幸せな気持ちが溢れてくる。



「…朔…ん…」



頬に擦り寄ってくる彼の鼻先。

猫がスリスリをするように、何度も何度も執拗に頬を擦られる。

猫によるスリスリは愛情表現の一種だ。



「このみ…」



もう、そんな色っぽい声で呼ばないでよ。

おしりの辺りがむずむずしてしまう。



「ちょーーーーーーーぉぉっとぉぉ!!!」



朔とのハグが気持ちよくて周りが見えてなかったが、すぐ近くに拓と陸が居たのを忘れていた。


「朔くんばっかこのみちゃんを独占しないで!このみちゃんはみんなのこのみちゃんなんだから!!僕だって…僕だって!!」


そう言って私の横っ腹に突進してくる陸。

小さく、ぐふっと息が出た。

突進の勢いと反して、お腹に回る手はおそるおそるといった遠慮が窺える。

あんまり緊張されるとこっちまで緊張するじゃないか。


そして陸は、成長途中の身長差を埋めようと背伸びをしながら頬にキスをしてきた。

朔がスリスリしているのと逆の頬。

キスというよりも掠った程度にしか唇が触れていないが、それだけで彼は首まで真っ赤になってしまった。


「ふふ…陸可愛い」


悶えながら私の肩に顔を埋める陸が、猫のときの甘えん坊な陸と重なって愛しくなる。

ああ、なんだろう。

この…愛でたいし、甘やかしたいし、いじめたくなるような可愛さ。

形容し難い。



「くそガキが…邪魔しやがって…」


朔も朔で悪態付きながらもその腕を私の首の後ろから回し、優しく頭を撫でてくれている。

こちらも猫のときと同様にくっつきたがりは相変わらずなようだ。

でも、猫のときよりかなり近いな。

ちょ、こら、首筋は、弱いからっ…。




「このみさん…愛しています」


真正面に立ち、私の髪に愛おしそうに唇を落とす拓は…地味に一番羞恥心を煽る。

どうやら私はおじ様好きの気があったようだ。

イケメンとか軽い言葉じゃない、いい男。

艶男。

なぜか執事のように優雅で従順で、敬意というか崇拝の念が見え隠れするのは気のせいか。



「ね、ねぇ!みんなはもう猫にはなれないの?」


燻ぶる熱を誤魔化すように質問を投げかけた。

人間になってくれたのは嬉しいが、もうあのモフモフなお腹を撫で回すことが出来なくなるのはとても惜しい。

肉球で癒されたい。

しっぽで遊びたい。



「戻れますよ。なんだかファンタジーのチートのようですが、自分で好きなときに猫の姿に戻れます。しかし、私たちが人間の姿になれるのはこの部屋の中だけなんです。一歩でも玄関を出てしまうとただの猫になってしまう。」



本当にファンタジーだ。

なんだかとっても都合の良い夢を見ている気分。

でも、夢でもいい。

いつか覚めてしまうのなら、今を楽しもう。

この3人が一緒なら何も怖くない気がする。




「さぁ、もう夜も更けてまいりました。私たちとしてはもっとこのみさんと触れ合っていたいところですが、明日も平日。このみさんはお仕事がありますよね?」


「え?あ…うん」


「夜更かしはいけません。今朝のように寝坊してしまっては大変ですからね」



拓がちょんっと私の鼻先を突きながら言った。

子ども扱いされているところが妙にくすぐったい。

とても甘えたくなる。


吸い込まれるように彼の胸元へ行き、朔が私にしたのと同じようにそこに頭を擦り付けると拓が息を飲んだ。



「このみさん…ちょっとそれは…私が我慢していると知って煽ってくるのですか?」


「…え?」



ぎゅっと抱きしめられると、身長差から私は彼の腕の中にすっぽり納まってしまう。

あったかい。

安心する。

ムスクかな…いい香り。


スリスリ…。



「猫に対してその態度。ああもう、いけない人だ」


「あっ…ひゃあ!!」



いきなり体が宙に浮き、拓の顔がぐんと近づいた。

こ…これは!

噂でしか聞いたことがないこれは、お姫様抱っこというものじゃないか!!


背中と膝裏をしっかり支えてもらっているので不安定な恐怖はないが、人生初の体勢で今日一番に心臓がうるさい。


なにこれ、恥ずかしい…!



その格好のまま寝室まで真っ直ぐ運ばれる。

太ってはいないけど、でもやっぱり一般的な成人女性

、それなりに重いはず。

ぐっと身を硬くするが、息を止めたって体重は変わらない。



恥ずかしい。

恥ずかしい。

私はいくつの生娘だ!



「ふふ。私を誘惑したおしおきです」

「ご…ごめんなさい…」

「このみちゃん、顔真っ赤。このみちゃんも可愛い」

「う、うるさい」

「ふあー俺も眠くなってきた。このみ、寝ようぜ」

「ねっねねね寝ます!!!」



人間になっても生活サイクルは猫のままなのか、よく見ると3人ともなんとなく眠そうだ。

猫は1日寝てばかりだからしょうがない。



「じゃあ私たちは邪魔になりますので猫に戻りますね」

「え?」



瞬きをする一瞬の間に3人のイケメンは3匹の愛する猫になっていた。



「ほ…ほんとに、本当に君たちだったんだね…」


んにゃ。にゃーん。みーみー。


ベットに上がり寝る体制になると、いつもの様に3匹は先を争うように私の周りへ群がりベストポジションを探してもぞもぞと動く。

昨日まではその様子をとろけるような目で見ていたが、これが人間の状態だったら…と考えると軽く鼻血が出そうだったので、邪な思考をシャットアウトして寝た。



寝入り端、誰かに口元を舐められたがそれもいつものことなので気にせず…気にせず寝た。


スリスリされたい。

猫にスリスリされたい。


「猫に」スリスリされたいぃぃ。

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