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ご。

「このみ」

「このみちゃん!」

「…このみさん」



目を開けるとイケメン3人に顔を覗き込まれていた。

私は気を失ってしまっていたみたいだ。

いつの間にかベットに寝かされていた。



ええっと?あれ、なんだっけ。

ああ、そうだそうだ。

この人たちが、猫なんだ。


…猫。



………猫ぉ?



改めて私を取り囲む3人を凝視する。

普通の人より大分整った顔が3つ。

逆立ちして見たってニンゲンが3人。

いやいや、騙されるな。

コレが猫なんて、そんなファンタジーなことがあってたまるか。



「お前…信じてないだろ」



黒髪…朔(仮)が呆れたように呟く。

当たり前だ。

僕たち猫です、人間になりました、どうぞよろしく。

…とか言われてオッケーってほいほい信じていたら今頃どん底の人生だわ。

借金まみれで東京湾に沈んでるだろうね。

きゃー怖い怖い。



「でもねーでもねー僕たちホントに猫なんだよー!あのね、このみちゃんのおかげで人間になれたの!!」


「…私の、おかげ?」



少年…陸(仮)が両腕をぶんぶん振り回しながら興奮気味に訴えてくる。

うん、可愛いよ。

君はかっこいいと言うより、可愛い系のイケメンだね。



「はい。私たちがこうして人間になれたのは、私たちとこのみさんの願いが強く共鳴した結果なのです」



私が落ち着けるようにハーブティーを用意する所作はやっぱり美しく、見惚れるとはこのことか!

そんなおじ様…拓(仮)の口から中二男子が好みそうな単語が出てくる辺り、もしや本当にそんなことがあるの?と一抹の不安が過ぎる。




…うーん、分かるように説明してください。





「ええっとねぇ~かくかくしかじかほにゃにゃんにゃん…」



陸(仮)の話は紆余曲折を繰り返し、理解の苦しむところが多々あった。

拓(仮)と朔(仮)の注釈を織り交ぜながら自分なりに噛み砕いて半ば無理やり頭に入れていく。

信じがたいが、彼らの話の中には他人なら絶対知りえないプライベートな部分が多くて、もう、全てが事実なんだと言わざるを得ないのかもしれない。




つまり、まとめると…



私は猫が好きだ。

何より愛している。

この子達がいてくれたら男なんていらないって思ってる。


でも、この年になると周りの友人たちは次々に結婚・出産していって自分だけが取り残される不安が無いわけではない。

私に足りないものは何だろう。

私は他の子達と何が違うのだろう。


華やかな結婚式の後、重たい引出物を持ち暗い部屋に帰ると、胸の中にある黒くて醜いものが色々と込み上げてきてそっと涙を流したことも何度かあった。

そんな時、3匹の猫たちは三者三様に私を慰めてくれる。



温かいその体を抱きしめさせて。

私の醜い嫉妬など舐め取って。

あなたたちがいればそれでいいの。

あなたたちが…。

あなたたちが人間だったらいいのに…!!



何度も思ったその願い。

叶うはずの無い馬鹿な願い。

気持ちが膨らめば膨らむほど、現実には虚しくて。

それに気づかない振りをして、私は彼らにペット以上の感情を抱いていた。


大好きよ。

愛してる。

私を独りにしないでね。


それと同時に彼らもそれを願ってくれていた。

強く、強く、切ないほどに。


自分はなぜ猫なんだ。

こんな姿では彼女を慰めることすらできない。

私を、俺を、僕を…どうか人間にしてくれ!


そして昨晩、私と彼らの願いが強く、強く共鳴を果たしたのだ。



「感動で打ち震えました。毛で覆われた前足がどんどん人の手に変わっていく。目線がぐんと上がって世界に色が注しました。ああ、これが人間の世界なのかと、驚きよりも歓喜しました。これであなたを抱きしめることが出来ると。もうあんなにも悲しい涙を流さないでください。私がいます。この世の全ての悲しみからこのみさんを守ってみせます」


「僕もすっごく嬉しかった。人間になったらこのみちゃんとお話が出来るようになるでしょ?僕ね、ずっとこのみちゃんにありがとうが言いたかったんだ。あの日、冷たい雨が降る中ボロ雑巾みたいな僕を優しく抱きしめて、あったかいお家に入れてくれて本当にありがとう。このみちゃんの笑顔を見て、もう大丈夫だよって言ってもらえたとき、もう死んでもいいって思った。僕の命はもうこのみちゃんのものなんだ。人間になって今度は僕がこのみちゃんを守ってあげる!」


「ああ、俺も驚いたけど何故かこの姿がしっくりくるんだ。きっと俺たちは初めからこうなる運命だったんだな。このみ、もう傷つかなくていい。お前は俺だけを見ていろ。他の奴らの為にもう涙なんて流させない。そんな暇があるなら、俺の腕の中で大人しく愛されていればいいんだよ」




ああ、もう、どうでもいいかもしれない。

馬鹿なやつだとか、頭がイカれたとか言われても構わない。


この人たちは私の大切な猫たちだ…。


ポロポロと流れる涙が止められなくて、嗚咽まで出てくる。

彼らがこんなにも私のことを想ってくれていたなんて、嬉しい。

…嬉しい。



「ねぇ、顔を良く見せて」



震える手で順番に両手を彼らの頬に当てる。

猫じゃない人間の肌。

普通の人となんら変わりなくて温かい。

みんな柔らかく私を見つめ返してくれて鼓動が早くなるのを感じる。



「…このみ…もう泣くな」



朔が屈んでコツンと額を合わせてきた。


今の今まで不審者だと思っていた人とこうやっているなんて、なんだか可笑しい。


私の大事な子たち。

本当に、本当に人間になってくれた。

嬉しさと、若干の戸惑いと、それに勝る胸の高鳴り。



触れたい。


触れられたい。


抱きしめたい。


抱きしめて欲しい。




ぐるぐると回る欲に、ずっぷりと飲み込まれてしまいそうだった。


かくかくしかじかほにゃにゃんにゃん…の中身はシリーズ第一巻~第三巻をご覧くださいませ。


しかし、なぜ、よりにもよって陸に説明をさせたのか。

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